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セカンドオピニオン~しかし、他人の仕事に言及するのは軽く出来ることではない [弁護士業について]

 もとは、医療についてよく言われた「セカンドオピニオン」。
 最近では、司法の世界などでも「セカンドオピニオン」というのをちらほらと聞きます。

 私の経験でも、例えば、医者にかかっていて、どうも疑問もあるけれども聞けず悶々としていたところ、医者をやっている友人に「これこれこういう状態なんだけど大丈夫かな?」と尋ねてみると、「それはそんなもんや」と言われ、それだけですっとした、ということもあります。

 なので、専門的領域では、「セカンドオピニオン」があることが人の気持ちの助けになる、ということはよく分かります。

 ただ、「セカンドオピニオン」というのが意外と要注意だな、と最近思うことがあります。
 私のところに相談に来られる方の中に、こういう方も近時増えてきました。

A弁護士に相談、依頼

B弁護士に相談すると、A弁護士の仕事はダメだと言われる、弁護士を変えろ、と

私のところに来て、どう判断したらいいのでしょう?と。

 
 実際、私も他の弁護士に依頼中の方から「セカンドオピニオン」を求められることがあるし、そういう相談も受けています。
 私の経験上、90%以上は、
・ 現在の弁護士の方針そのものには問題がない
・ 関係をより良くして、依頼を続けた方が良い
とアドバイスしてきました。
 ときどきあるのは、「弁護士からの説明が不足している」「弁護士に疑問点を聞けていない」というのコミュニケーション不足の問題ですが、その程度のことならば、じっくり話をする時間を取って依頼関係を続けるのが良い、とアドバイスします。
 紛争の真っ最中であれば、担当弁護士を変更することは色々とデメリットがあります(費用に無駄が発生する、事件把握が余計難しくなる、依頼者と弁護士との間での不協和音があるのではないかと第三者に思われる等)。
 なので、「極力、今依頼している弁護士を変えない」ことを勧めます。
 依頼する弁護士を変えるのは、どうしても変えなければ仕方がない事情があるときだけ、というアドバイスをします。

 というのは。
 自分が仕事をしていても思うのですが、

・ 依頼者が、直感的に「こうしたいな」と思うこと



・ 弁護士が、把握した状況から見て、「こういう幅の中で解決出来るな」、従って、「この程度の解決が出来れば満足すべきだな」と思うこと

との間には差がある事が殆どだからです。

 むしろ、依頼者には見えていない点を客観的に見て、「良薬は口に苦し」のアドバイスをするのが弁護士の役割だからです。

 ですので、事件をやっていく中で、依頼者の直感的な希望と、現実の着地点を合わせていかなければなりません。
 その過程で、まずは、事件を受任するときの話の中で、「必ずしも希望通りに行かないこともある」あるいは「希望通りとはいかない可能性がかなりある」等の「意に反する」ことも言わなければならないからです。
 
 また訴訟などの中でのやり方についても、

依頼者が「この証拠を出してくれ!」と思っていても、弁護士から見てそれを出すのは得策ではない(あるいは、正義に反するから出せない)

と判断することもあります。

 つまり、サービス業とは言っても、

「仰せのままに」

という仕事ではないのです。

 事件を最後までやり遂げるにあたっては、扱うのがトラブルだけに、依頼者と弁護士との間にも何らかの緊張関係が生じることが少なくありません。
 それを乗り越えた段階で、より強い信頼関係が生まれる、ということも経験上たくさんあります。

 そういう仕事です。

 「セカンドオピニオン」を求められたとき、「第一の弁護士」の短所をあげつらうことは簡単です。
 トラブルを扱う仕事の中で依頼者もギリギリの心境ですし、それに対して他に何件も事件を抱えている弁護士がどのように応対するか、と言っても、探せば「至らないところ」は無いほうがおかしいからです。

 しかし、せっかく依頼している弁護士が居る以上、その弁護士と依頼者との信頼関係を不必要に悪くするアドバイスをするのは、基本的に悪いことだと私は思います。
 依頼事件の処理が大変だと言うことを知っている同業者であれば、信頼関係が苦しいときほどなんとかして乗り越えるということが大切だということを知っているはずだからです。

 なので、例えば、セカンドオピニオンにおいては、

「あなたにはA弁護士の言い方はキツく感じたのでしょう。それは無理もないと思いますが、A弁護士からすれば、○○と判断して、○○とするのがあなたにとって最善だと考えるからこそそう言っているのでしょう。」
「私でも、表現は違っても、意味としては同じ事を言ったと思います。」
「私でも、そこは悩むなあ~。○○がよいのか、××がよいのか。」

等と、その人が分かるように、「第一の弁護士」の立場、考えのプロセスをできるだけ説明したいものです。
 それで、「そういうことなら分かりました」「なんだ、A先生もそう言ってくれればよかったのに」となって、元の鞘、というか、現在依頼中のとの弁護士との関係を維持できたら一番良いことです。

 もちろん、医者同士とか弁護士同士とか、同業同士の「かばいあい」というのが良いとは言いません。
 しかし、同業者だから分かる、その人がそう言う理由、そのような方針を採る理由を、客観的意見として依頼者に情報提供するのは良いことです。
 そういう「セカンドオピニオン」が良い「セカンドオピニオン」だと思います。

 なので、弁護士の「セカンドオピニオン」の際に、ちょっと話を聞いただけで、

それはあなたが依頼中の弁護士が悪い!弁護士を変えた方が良い。私ならもっと上手くやれる。

などと簡単に言う人がいたら、その人(「セカンドオピニオン」弁護士)のほうが信用できない、と私ならそう思います。そんなことで簡単に弁護士を「乗り換え」ても、またいずれ「乗り換え」なければならない可能性が高くなる、と思います。

 弁護士に依頼している状態の人の相談を受けて、弁護士の交代しかないと判断される場合でも、

・ 現在依頼関係のどのような段階にあるのか(始まったばかりか、ある程度まで来ているのか、終わりが近いのか、など)
・ 現在の弁護士の置かれた立場、その判断としてどういうものがあるか
・ 依頼者の希望と現在の弁護士の方針などを合わせることができないか
・ その時点で、弁護士を交代させることにデメリットがどれくらいあるか、そのデメリットをどの程度取り除くことが出来るのか

などを慎重に確かめて、やむを得ない(し、特に問題は無い)、という場合に初めて、現在の弁護士に対する委任をやめて新しい弁護士に委任するのがよい、ということになります。
 しかし、それはあくまで、例外的に必要やむを得ない場合と心得るべきことです。

 以上のようなことで、「セカンドオピニオン」があることは有り難いことだと思いますが、しかし、

「セカンドオピニオン」流行りの風潮には落とし穴もある

ということを強調したいと思います。
 
 ここは利用者の側がある程度意識しなければなりませんし、また、同業者の仕事に言及する立場の「セカンドオピニオン」の弁護士の良識が大切です。
 他人の依頼関係を尊重しないなら、自分の依頼関係を他人にぶち壊されても文句は言えない、立場になってしまいます。そのようなことをお互いやり出したら、信頼関係の必要な仕事は皆成り立たなくなります。

 このような点を注意していかなければどうにもなりません。「サードオピニオン」「フォースオピニオン」「フィフスオピニオン」…と続けていっても同じこと(ただ疑心暗鬼だけで解決にならないこと)になります。
 
 もちろん自分のこと、私の仕事のことが一番ですが、他の弁護士も依頼者とできるだけしっかりした信頼関係が維持できて1人でも多くの人の助けになる、そういう状況であるよう願っています。

                                             弁護士 村上英樹(神戸シーサイド法律事務所



 

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東京地裁 平成27年 (ワ)9725原告

私は、今「迷惑メールを送信したこと自体」に対する訴訟を三件している原告です。
実際には、研究開発職を生業にしています。

 こういった相談を受ける先生方は直面していると思いますが、「相談する側」との歯車の問題があるかと思います。
お医者さんもそうですが、患者の身の不調に対し、
患者さん側が「これは大したことがない」と言わない。
同じように、相談者は「不都合なこと(かもしれない)」と弁護士の先生に言わない。
先生は「わからない」とは言わない先生がいる。
(この部分で「人間」に直接かかわる仕事の難しさを感じます)

また、弁護士の先生に多いかなぁと思うのは
  「教科書に書いていない」ことに、
       めっぽう弱い傾向にある印象があります。

(研究は、実際に「本には書いていない」ことも多いため、
 研究として社会に報告するつもりで訴訟をしてみた次第で、
 昨日「取り下げ和解」ではなく「和解調書」の方の
       「和解」を成立させました)


by 東京地裁 平成27年 (ワ)9725原告 (2015-12-02 18:30) 

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