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死亡(一般)危急時遺言 ~ 特別方式の遺言 [法律案内]

 最近は、エンディングノートなど、自分が死ぬときのことを考えて、後に憂いのないようにしよう、ということを意識する人が多くなっているようです。

 これは、自分の寿命のギリギリのところと、家族や社会との繋がりを滑らかにしよう、ということで、人が社会的存在であるという意識がより深まっていっていることの現れだと思います。

 さて、その流れの中に「遺言」というものがあるわけですが、遺言にも色々な種類があります。

 大別して、普通方式の遺言 と 特別方式の遺言 です。

 普通方式の遺言は文字通り、通常時につくられるもので、こちらが一般的です。エンディングノートなどのように、まだ、ある程度余力があるうちに後の憂いをなくすという意味で作るものです。
 「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3つがあります。
 詳しくは、私の別のブログ  
 自筆証書遺言    http://hmsouzoku.exblog.jp/17341475/
 公正証書遺言など http://hmsouzoku.exblog.jp/17405307/
を御参照下さい。

 遺言は、多くの場合、「遺産を誰に取得させるか?」を内容にすることが多く、後に残された人たち(相続人ら)の金銭の利害に関わるので、「遺言が無効ではないか?」等の争い(遺言無効確認訴訟など)が起こりやすいものです。
 ですので、ある程度、遺産の規模がある場合は、無効になる要素の極力少ない方法、すなわち公正証書遺言をお勧めしてます。

 今日テーマにするのは、「普通方式」ではない方、特別方式の遺言です。

 これは、実は、司法試験などの試験ですら、いわゆる「マイナー知識系」の分野で、出題頻度さえ低いというところですが、事の性質上、知っているとイザというときには決定的な違いを生むかも知れない知識です。

 なので、少し紹介しておきましょう。

 上で述べたように、できるだけ余力があるうちに、公正証書なり自筆証書なりで、遺言を作成しておくのが望ましいのです。

 が、不幸にして、

 そうする暇もなく、病気等により、病床に就き、起き上がることも字を書くこともできなくなり、余命幾ばくもない状態となってしまったとき、「遺言」できるのでしょうか?

という問題が、この「死亡(一般)危急時遺言」です。

(民法の条文)
民法第976条
1.疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人三人以上の立会いをもって、その一人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。
2.口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には、遺言者は、証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して、同項の口授に代えなければならない。
3.第一項後段の遺言者又は他の証人が耳が聞こえない者である場合には、遺言の趣旨の口授又は申述を受けた者は、同項後段に規定する筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者又は他の証人に伝えて、同項後段の読み聞かせに代えることができる。
4.前三項の規定によりした遺言は、遺言の日から二十日以内に、証人の一人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
5.家庭裁判所は、前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。
                                                 (条文引用終り)

 まとめると、

① 証人3人以上の立会いをもって
② その1人に「遺言の趣旨」を口授する

ことによって遺言をすることができるのです(自筆証書遺言が書けなくても、公正証書遺言を作成するために公証人を手配することが間に合わずとも)。
 
 このときには、

③ 口授を受けた者がこれを筆記して、遺言者および証人に読み聞かせるかまたは閲覧させ、
④ 各証人がその筆記が正確なことを承認した後にこれに署名をし、押印しなければならない

とされています。

 このような法律が定める方式に則らなければならないのですが、ともかくも、これに従いさえすれば、死が間近に迫った場合でもギリギリ遺言をすることができる、というわけです。

 知っておいて損はないと思います。
 司法試験レベルでも「マイナー知識」ではありますが、しかし、意外と、この一般危急時遺言が問題となった裁判例が結構存在しますので、それは、イザというときにこの方式を使った人がかなり存在するという証拠であるようです。

 きっと、この場合、本人も周囲も極限状態でやることになるとおもうのですが、注意を要する点が2つあります。

 1つは、この方式の遺言は、遺言が成立した後、20日以内に証人の1人または利害関係人(相続人など)が、家庭裁判所に請求して確認を得なければ「効力を生じない」とされている点です(976条4項)。
 しかも、家庭裁判所は、その遺言が真意にでたものであるとの心証を得なければ確認することができないとされています。

 もう1つは、3人必要な「証人」ですが、民法982条、974条によって、証人になることができない人(証人になれない理由を「欠格事由」という)が定められている、ということです。
 具体的には「未成年者」「推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族」「公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人」です。
 「推定相続人」は「証人」になれないので、例えば、本人の「子」「配偶者」は証人になれず、それ以外の人で他の欠格事由のない人が3人必要である、ということになります。
 結構大変ですが、間違えると、死亡(一般)危急時遺言は無効になってしまいます。

 このあたり、法律の定めをみると、法律を作った人の悩みが見えます。

 死に臨んだ人の最終意思をなんとか実現させてあげたい

というのと

 手も動かせない状態の人の遺言は周りがいかようにでも作る恐れがあるので、不正を防ぐため厳格は方式を要求しなければ!

という点とのせめぎ合いです。後者をとことん要求することは遺言実現の途をせばめるのですが、しかし、なんとか現実的に作成可能な範囲で厳格な手続を要求して、それで遺言実現の途を残している、という条文と読めます。
 (あと、「口がきけない者」「耳が聞えない者」の場合について平成16年改正で特別の方式が認められるようになっています。)
 

                                   村上英樹(弁護士、神戸シーサイド法律事務所
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心如

もめるほどの財産がありません。借金だけは残さないようにしないと…^^;
by 心如 (2013-02-02 13:12) 

ayu15

せめぎあいですか。
どちらも大事で外せないものですしね。

世の中いろんなことで「天秤」にかけるのが気になります。(代表例が容疑者・加害者の人権奪うことで被害者にこたえる。更生重視は被害者の人権薄めるなど・被害者と加害者を天秤にかける)

さまざまな人を考えて誰もがそこそこは救われるようにと思います。この遺言の条文がそうなのかうちにはわかりませんけど・・・。


 後、不安点がありますが専門家から見てどうでしょう??


レンタル用品を借りたとします。
延滞料は高額で下手したら購入価格を大きく上回ります。
うちが問題にする「契約の自由」の関係で契約時に高額の延滞料も同意えてるとみなされ請求される可能性が(裁判になると負担が大変)

でこの場合での問題は本人が亡くなった時です。
負の遺産も相続するので遺族に負担が行きませんか?

ものすご~~~く極端にすると本人が拉致されて死亡宣告がだいぶたってされたとします。
ある日突然業者からとんでもない金額の請求が・・。


借金はもちろん
今個人でできるのはすべての契約関係を相手の連絡先や内容含めてノートに書いておくぐらいです。


身内を失い悲しい時に追い打ち書けるように返済督促が来るというのはマジでごめんこうむりたいものです。

プラス以上に負の遺産は仲のいい身内でさえ関係が壊れかねません。相続放棄もあるでしょうけど、間に合わない可能性があります。
相続が確定してから請求されることもあるそうです。



「契約の自由」問題でふれた気がしますが、
いちいち個人が全部毎回かいてられません。

契約内容作成段階で(その時点では消費者不在)消費者の立場考えた人が加われる制度ができるといいなあと思います。
by ayu15 (2013-02-03 11:07) 

hm

心如さん

 ナイス・コメント有り難うございます。

ayuさん

 借金の場合は、相続放棄について、いわゆる「熟慮期間」3か月を過ぎた後でもあきらめずに相続放棄の申述をする、ということが大切なポイントです。それでOK、というケースが非常に多いです。

 

 
by hm (2013-02-05 13:01) 

おっぴょん

父が危急時遺言を残し、悪性リンパ腫で死亡しました。
危急時遺言の内容は後妻と、後妻との間の長男にすべて遺産を残す、とのもので、先妻の娘である私と私の姉のことは何も書かれていませんでした。
証人は長男の嫁の両親と、後妻の友人の3名で、長男と後妻も立ち会いの上、病床で作成されたようです。
医師や弁護士、公証人等の立ち会いはなく、むろん私と姉の知らぬ間に作成された危急時遺言でした。
私と姉は危急時遺言がどうしても父の意志とは信じられず、とても苦しんでいます。
そもそも後妻は3年前に父と離婚しており、父の余命宣告がされてから再入籍しており、この入籍についても争っています。
現在、奈良地方裁判所において争っていますが、一度家裁で検認された遺言を否認することは難しいようです・・・
by おっぴょん (2014-03-08 16:00) 

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