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「名ばかり管理職」は、ファーストフード以外にも… [弁護士業について]

 「ライフワークバランス」という言葉が広がってきましたが、やっぱりまだまだ、残業が多く、朝から働いていても午後5時や6時に仕事を終えて帰途につけるなどという人の割合は少ないでしょう。

 色々な原因はありますが、慢性化した組織の雰囲気、「先輩がまだ働いている中で先に帰りづらい…」というのもよくあると聞きます。

 これ、日々「権利」を扱い、一般には、独立的志向が強いと言われている弁護士ですら、そういう雰囲気的な理由で、「兄弁(勤務弁護士の先輩をこう呼んだりします)より先には、なんとなく事務所を出られない」という人が多いと聞きます。
 これは意外なことです。日本人に多い性格といえばそうかもしれません。
 ただ、この「日本人に多い性格」がイカンということではなくて、良くも悪くも、企業風土によって人の動きが左右されやすい、という特徴だと考えるのがよいんだろう、と思います。

 とすれば、やっぱり大事なのは、「企業風土」(企業ではない法律事務所なども含めて)なのでしょうね。

 最近聞いた話で、ある病院では、定時退社を励行するため、定時になったら一旦パソコンの電源を強制的に落とす(もちろん、ブチっと切れるわけではなくて、「落として回る」役の人がいる)そうです。

 経営上の理由から残業代を発生させたくないということがあるのは当然でしょうが、それだけでなく、本来、定時に勤務する、決められた時間内にできるだけ集中して仕事をする、という在り方を取り戻すために、有効なことだろう、と思いました。

 しかも、それで大抵の日は、病院はちゃんと回っているというのです。看護士さんも医師も、結構アフターファイブが謳歌できているのでしょう。

 「先輩が働いている中で帰りづらい…」というなんとなく残業も「企業風土」によるもの、とすれば、PC強制終了によって定時退社励行、昼間に集中して仕事をするのも「企業風土」となり、人の働き方を大きく左右するでしょう。

 そうして、夕方には家に帰って、子どもと食事をしたり、自分の趣味を楽しんだりできるような生活を多くの人が送れるようになればよいです。


 さて、そんな風になる前提としては、「残業代」がルールどおりちゃんと払われることが、「はじめの一歩」です。

 つまり、残業管理をちゃんとしておらず残業代をちゃんと払っていない(労働者からすればサービス残業)という状態ではいけません。

 この場合、経営者には「残業代が経費としてかさむ」という認識がないので、「定時退社励行」という発想は全く出てこないからです。
 悪く言えば「働かせ得」とも言えるのです。

 ですので、まず、「残業をさせたらその分の給与+残業手当を払わなければならない」ということが徹底されなければなりません。 

 残業代請求は訴訟になることもあります。(以前の私の記事http://h-m-d.blog.so-net.ne.jp/2010-07-14

 これ、後になって、何人もが(企業によっては何十人、何百人)、何年にもわたって請求してきたら大変ですから、実は、「サービス残業させている」企業は、法律の面から見ると

たくさんの借金を背負っているのと同じ

たくさんの借金を毎日増やしているのと同じ

であって、経営という意味でも大変危ないことをしているのです。社長はそれに気づかなければなりません。


 さて、ここからが今日の本題。

 「名ばかり管理職」というのが何年か前にニュースになり、主にはファーストフードなどの飲食店で、「店長」は実質はただの労働者でありながら、役職上「管理職」ということにされ残業代がつかないという扱いをされていて問題となった、ということで記憶している人が多いと思います。

 労働基準法41条には「労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次のいずれかに該当する労働者には適用しない」とされていて、そこに「監督若しくは管理の地位にある者」が挙げられているのです。

 「管理職には残業代はつかない」という話は、この労働基準法41条の話です。

 正確に言うと、「管理職」と労基法41条の「監督若しくは管理の地位にある者」(「管理監督者」)は同じではなくて、残業代のつかない「管理監督者」は、

「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」

を言います。
 たとえ役職名が「課長」であっても、その人が実質的に「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」と言えるかどうかが問題で、そう言えなければ労基法41条の例外にあたらないので、残業代は払われなければならないのです。

 で、どういう基準で、残業代のつかない「管理監督者」を判別するか、ということですが、およそ、


1 労務管理を含め、企業全体の事業経営に関する重要事項の決定過程に関与しているか

2 労働時間に関して自由裁量性があるか、勤務態様が労働時間等に対する規制に馴染まないものであるか

3 給与、手当等において、管理監督者としてふさわしい(労働基準法の労働時間に関する定めの適用が除外されても良い程度の)待遇がなされているか

という点で判断がなされています(平成20年1月28日 東京地裁判決、日本マクドナルドの事件など)。

 「店長」「課長」などという名がついていても、上の基準からすれば管理監督者」ではない、というならば、やっぱり原則に戻って残業代を払わなければならないのです。

 
 ということで、ファーストフードの他にも、

スーパー(店長)
衣類の店(店長)
コンビニ(店長)

もあるし、病院の「部長」、「副部長」クラス(「外科部長」とか)というのも、実際には、経営に関与するのではなく、患者を診ており、勤務時間に拘束されているけれども、「管理監督者」ということとされて残業代はつかない、という扱いをされていたのが問題になった例があります。
 2008年頃には、滋賀県立成人病センター(守山市)が、たくさんの医師に残業代を支払わなかったとして労働基準監督署から是正勧告を受けたというニュースがありました。
 また、2009年2月頃のニュースでは、北九州市立病院で、労働基準監督署が病院の経営主である市に対し、過去にさかのぼって残業代を支払うよう指導していたということが報じられています。

 医師ともなれば、もともと高給取りなんだからまあいいやん、という見方もされがちでしょうが、それはちょっと違います。
 「働かせ方」「働き方」に関するルールをちゃんと秩序あるものにするか、メリハリをちゃんtのつけるか、の問題です。

 
 ですがやはり医師の給与は高いので、これ経営主にとってはとんでもない支払になります。
 上の2例では地方自治体が経営する病院ですから、まあ、地方自治体は払えることには払えるでしょう。
 しかし、「予定外の出費」としてはあまりに大きく、痛い。
 私立の病院だと、この問題が噴出すると、本当に、経営を一気に圧迫しかねません。
 ですので、私立の病院で「部長、副部長クラスの医師を長時間働かせているけども、『管理監督者』扱いで残業代は支給していない」という状態は、あまりにリスキーすぎると思われます。
 つまり、
「サービス残業をたくさんさせており、その時間分の給与+残業手当(通常基本給の2割5分)を支払う義務が、日々発生している。それを支払っていない。」
のであり、それは、たまりたまっていつ顕在化するか分からないのです。
 爆弾が日々膨らみながらいつ爆発するとも知れない、ということであるので、恐ろしいことです。

 
 以上、言いたかったことは、

「残業と残業代に関するルールを経営者がしっかり認識する」

 そのことが出発点で、そこから、

「残業をなるべくせずに、定時に帰りましょう。ただし、定時まで、集中して働いてね!」

という企業内の雰囲気が出来、従業員も

「それだったら、昼間に、私用メールとか、スマートフォンをついいじったりしている場合じゃないわ、この仕事ちゃんとやれば何時間で終わらせられるだろう、集中してやってみよう!」

となり、本当の意味で、「定時で出来ること」「どうしても残業しなければ出来ないこと」の区別が出来て、必要が無ければ、

「5時です。はい、さようなら!!」(でも仕事はきちんと終わっている。)

という夢のような(!?)理想へと近づいていくのだと思います。

 病院もそうですが、大企業や地方自治体など、世間的にも影響力の大きいところほど、未来のための模範となって、率先して理想を追求してもらいたいものです。
 で、法律事務所は…。うーん、これも実際、なかなか定時には終われないのが頭痛い、ところです(もちろん、夜間しか相談に来られない方とのアポなどは仕方ありませんが、工夫したり集中すれば無くせる残業は無くしたい。もっと仕事への取り組み方の精度を高めて、「理想」を追求したいものです。よそに対して、「理想を追求してもらいたい」というからには…



                                   村上英樹(弁護士、神戸シーサイド法律事務所
 

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心如

 中小企業では、管理職はおろか、一般社員に対しても、まったく時間外労働に対する賃金を払っていない場合があります。
 そういう現実を踏まえて考えると、一般社員もサービス残業をさせられているのに、管理職なんて名ばかりで当然だとなります。

 そういう私も、今日は夜勤入りで、16:30から翌朝9:30まで、17時間拘束されますが、賃金は昼間の時給の16時間分しかもらえません。
 一人で夜勤をしていれば、実質的な休憩時間は存在しませんから、17時間分で計算すべきです。そして、深夜手当も加算されるべきかな…
 でも、正当な要求をすれば職を失う可能性が高いです。いま現在の日本は、雇用が悪化しており、正当な権利を主張できる環境にないのかも知れません。
by 心如 (2012-07-24 06:58) 

hm

心如さん ナイス・コメントありがとうございます。

 雇主としても厳しい状況であるのは間違いないのですが、雇用に関するルールがまず守られなければ、従業員にとってはもちろん、企業にとっても、やっぱり長い目で見れば決して良くないです。

 労働者側が権利主張することは、現実的には、確かに、色んな不利益との比較をしなければならず、難しい問題ですね。
 
 
by hm (2012-07-24 13:08) 

ayu15

名ばかり業務契約もありますね。
形では企業?と企業の契約で商法の範囲ですが
一体は上下関係で雇用に近いとか。


法を厳格に適応し厳しく監督すると潰れる企業が??
でも低い方にあわせるでは労働環境は良くならないですよね。

うちの目には
法を厳格に適応し厳しく監督するのは個人に向いていき
法人や団体にはあまり向いていかないようにみえるんですが・・。


by ayu15 (2012-08-02 09:42) 

hm

ayuさん

 ナイス・コメントありがとうございます。

 たしかに、業務委託契約などの形はとるものの、実質的には雇用に他ならないケースも多々あります。

 最後の3行も、なるほどその通りの傾向は確かにあると思います。
 
by hm (2012-08-02 14:42) 

仕事って・・・

拝見させて頂きました

企業風土・・・大事だなって思いますが・・・
そもそも、多くの方って、本当にその仕事に楽しんで赴いておられるのかなって思います。
働かされているって思うと、義務を果たしているのだから権利を主張して当然だ・・・ということにもなるような気も・・・
ですが、心からその仕事が楽しくって時間を忘れてそこに赴ける事があればよいなと感じます
テーマはあくまでも残業の把握~支払いでしょうから、大きく拡げませんが、シュリンクしてしまった日本経済、デフレ経済下では自身の保身のための方法についつい思考が行きがちに・・・
悪いことではないのでしょうけれど、私は可能性ある多くのビジネスを創出し、各人がそれらに楽しく前向きにチャレンジしてゆける経済社会を作る事が重要であるかと思います、どうしてアップル、グーグルの様な会社が出てこないのかを考えても良いのかなって

あっ! あくまでも残業代は法に基づいて適正に支払わなければならないと考えます。もちろん

by 仕事って・・・ (2012-08-30 14:35) 

hm

仕事って さん

 コメントありがとうございます。

 おっしゃるとおりで、仕事に就いている時間が、時間も忘れて充実しているならば、それは非常に幸せなことです。

 とすると、「雇用」という在り方そのものもどうか、とか、色々考えることが出てきますね。

 時間もそうですが、仕事の中身が、創造的であったりして、その人が活き活きした状態でおれる職場を目指したいものです。
 
by hm (2012-08-30 16:10) 

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