民事裁判の本人尋問・証人尋問とは何か [法律案内]
今回の記事では,弁護士に依頼して民事裁判に臨む,という場合で,
本人尋問・証人尋問
が行われるケースについて解説します。
裁判で行われる尋問ってどんなものだろう?というのは,特に,初めて裁判に臨む場合には(といっても,ほとんどの方がそうでしょう),とても知りたいが,なかなか一口で説明が難しいことなので,できるだけ平易に書いてみました。
1 尋問は「人証」
裁判の資料になる「証拠」には2種類あって,「物証(物的証拠)」と「人証(人的証拠)」に分かれます。
「物証」は,書類(「書証」)や,データファイル,や物そのもの(傷害事件の「凶器」など)です。
「人証」は,「人がしゃべる内容」です。
今回のテーマ「尋問」というのがまさに「人証」です。
裁判を進めていると,裁判官が
「双方の主張はある程度出尽くしたので,そろそろ『証拠調べ』に入りたいと思います。」
などと言うことがあります。
そもそも,裁判は,
「お互いの主張」→「対立点(争点)の見極め」→(争点について)「証拠調べ」
という整理の仕方,進め方をします。
で,上の裁判官の台詞の中での「証拠調べ」なのですが,ここでいう「証拠調べ」は,書類を調べたりすること(物証を調べること)ではなくて,人証(本人尋問・証人尋問)のことを意味していることがほとんどです。
というのは,書証(書類)などの「物証」は,「そろそろ」もなにも,裁判所に提出されたらすぐに調べることが可能なので,普通調べ終わっています。
双方の主張が出尽くしたので「そろそろ」「証拠調べ」,と裁判官が言ったら,それは,本人尋問・証人尋問をしましょう,ということです。
2 「本人」「証人」とは?
さて,では「本人」「証人」とは何でしょう?
「本人」というのは裁判の当事者です。つまり,「原告」か「被告」のことを言います。
「原告」か「被告」が会社などの法人である場合は,その代表者(代表取締役など)も「本人」です。
ですので,「原告」「被告」そのものに対する尋問は,「証人尋問」ではなくて「本人尋問」といいます。
「証人」というのは,「本人」以外で事件について証言する者です。
3 「証人」はどちらの味方?
法廷ドラマでは,「証人」というのはドキドキする存在で,どっちの味方になるか分からない,大どんでん返しもある存在として描かれることがあります。
しかし,日本の民事裁判では「証人」と打ち合わせをすることは許されているし,むしろ,事前に「証人」が何を言うのか,「証人」が味方となる側から「陳述書」を出すように裁判所に言われます。
こうなると,「証人」は事前にどっちの味方か分かっている,という話になります。実際そうです。
ですので,基本的に,原告は原告に有利な「証人」を呼び,被告は被告に有利な「証人」を呼びます。「原告側証人」「被告側証人」という言い方をしたり,自分の敵となる証人を「敵性証人」と呼んだりもします。
ですので,法廷ドラマであるような「スリル」は通常ありません。
4 何を言うのかは事前に分かる~「陳述書」
上で「陳述書」を事前に出す,ということを書きました。
これは,本人が供述する内容,証人が証言する内容を,事前に「陳述書」という文書にまとめて裁判所に提出する,ということです。
そうすると,
もう法廷で口でしゃべらなくても「陳述書」を読めば分かるのでは?
法廷はシナリオ通りでつまらないのでは?
という疑問がわきます。
それもある程度当たっています。
「陳述書」には,限られた尋問時間で口で正確に言い尽くせない部分を補う意味があります。口で表現できる人,それが苦手な人がいますからね。
それと,裁判の準備という点で重要な「陳述書」の意味合いは,「相手が反対尋問の準備をするために必要」というものです。
この「反対尋問」について,次で述べます。
5 主尋問・反対尋問・補充尋問
尋問については,たとえば「原告本人」「原告側証人」については,
(1) 主尋問
まず,原告代理人弁護士が質問します。
(2) 反対尋問
次に,被告代理人弁護士(敵側の弁護士)が質問します。
(3) 補充尋問
裁判所が必要と思う点を補充的に質問します。
基本的にこの流れです。
主尋問の内容は「陳述書」である程度分かっているから,確かに,「シナリオ通り」という面があります。
裁判で,本人の供述や証人の証言が信用できるかのチェックとして特に重要と考えられているのは「反対尋問」です。
つまり,敵側の弁護士の尋問に対しても,耐えられるような供述や証言になっているか?が試されるのです。
証人について「陳述書」を出さない時代も昔ありましたが,そのときは,主尋問の期日と反対尋問の期日を分けていました。一人の証人を調べるのでも2回の期日を要しました(数ヶ月かかります)。
なぜかといえば,主尋問が終わって,主尋問の内容を記述した調書ができて,それを敵の弁護士が読んで反対尋問の準備(敵の証人のどこを突っ込むかの準備)をしていたからです。
現代は,主尋問の内容は「陳述書」で予め分かるようにしておいて,尋問期日の前に敵の弁護士も反対尋問の準備をすることを前提にして,一人の証人について主尋問・反対尋問を一日で出来るように裁判は進められています。
これが「陳述書」は反対尋問の準備のため必要な意味がある,ということの説明です。
6 尋問の打ち合わせ(リハーサル?)
尋問というのは法廷その場のものだから,事前に打ち合わせなんかしていいのか?
それは口裏合わせではないのか?
という疑問もあり得るところです。
しかし,尋問の打ち合わせは「あり」ですし,むしろ周到にするべきとされています。
特に,主尋問の内容は,今の弁護士は「一問一答式」でシミュレーションを作って準備します。
発表会ではないので「リハーサル」という言葉には私は若干抵抗がありますが,「一問一答式」で当日の尋問の進め方を丹念にチェックしてから臨みます。
敵の弁護士から訊かれる「反対尋問」の準備は,想定で行うことになります。
これは予想しきれないので,ある程度,争点に関連して「突っ込まれることが目に見えているところ」(多くはそこが「弱点」です)について,無理のない答えを用意します。
「無理のない」ということが重要で,「嘘をつきましょう」という準備はしません。
尋問の打ち合わせはなかなか時間がかかることが多いものです。
なお,打ち合わせでは「一問一答式」の想定問答を作ることが多いですが,それは本番では見ながらやるわけにはいきません。
「空(そら)」では答えられない細かいことなどは,尋問中に,必要に応じて弁護士が書面を示したりしながら質問することになります。
7 当日
そもそも当日どんな服で行ったらいいの?という質問もよく受けます。
スーツもいいですし,セーターなどのラフなスタイルでも構いません。
ただ,法廷という場なので,できるだけ落ち着いた印象の服装がいいと思います。華美なものは避けるほうが無難でしょう。
尋問前に(嘘を言わないという)宣誓書に署名押印する必要があるので,本人・証人の方は印鑑を持参してください。忘れても大丈夫ですが,その場合は指印をする必要があります。
上記6で述べたように,メモなどを見て答えることはできませんが,尋問は記憶に従って述べるものなので心配する必要はありません。
「知らない」ことは「知らない」でよいですし,「分からない」ことは「分からない」で問題ありません。
細かい数字などが分からないのも仕方ありません。どうしても,細かいことを答えてもらわなければならないときは,弁護士が書類を示して尋ねます。
なお,「証人」については,他の「証人」の尋問のときには法廷に同席できないのが原則です。待合室など別室で待つことになります。
これは,「証人B」が先に出た「証人A」の言ったことに合わせてしまう弊害を避けるためです。
尋問のときに,たまに,弁護士と本人・証人が「言い合い」のようになることがあります。
しかし,尋問は,「問い」に「答える」という形で進みますから,本人・証人が「問い」と無関係に意見を言う,というものではありません。
「問い」と無関係の意見などを述べると裁判官から注意されることがあります。
8 尋問の結果は「調書」に
現代では,ほとんど,「問い」「答え」がそのまま音声反訳の形で(ですから,関西弁は関西弁のままで)「調書」になります。
後日読むことが出来ます。
9 終わりに
以上が「尋問」についての手続きの解説です。
「尋問」に立たなければならない当事者の方は,「尋問」はとても気が重いといわれる方が多いです。
が,私の弁護士19年の中で経験した限りでは,法廷の尋問中に耐えられずに倒れてしまった方という方はいません。
むしろ,始まるまでは気が重かったが,実際,当日始まってしまうと「あっという間だった」という方が多いです。
気が重いのは確かかもしれませんが,必ず乗り越えられます。
「尋問」の目的は,必要な事実を法廷に出すことです。
よく「相手を言い負かしてほしい」と言われる方もいらっしゃいます。気持ちは分かるのですが,「尋問」では「相手を理屈で言い負かす」必要はありません。
反対尋問では,相手方からでも「当方に有利な事実」を一つでも多く引き出すのが目的です。
そこで引き出した事実(材料)を組み立てて「理屈」を述べるのは,「尋問」の中ではなく,後日,裁判所に提出する主張書面で行います。
以上です。
この記事が,裁判のクライマックスである「尋問」に臨む当事者の方の理解を助け,不安を取り除くことに役立てば幸いです。
本人尋問・証人尋問
が行われるケースについて解説します。
裁判で行われる尋問ってどんなものだろう?というのは,特に,初めて裁判に臨む場合には(といっても,ほとんどの方がそうでしょう),とても知りたいが,なかなか一口で説明が難しいことなので,できるだけ平易に書いてみました。
1 尋問は「人証」
裁判の資料になる「証拠」には2種類あって,「物証(物的証拠)」と「人証(人的証拠)」に分かれます。
「物証」は,書類(「書証」)や,データファイル,や物そのもの(傷害事件の「凶器」など)です。
「人証」は,「人がしゃべる内容」です。
今回のテーマ「尋問」というのがまさに「人証」です。
裁判を進めていると,裁判官が
「双方の主張はある程度出尽くしたので,そろそろ『証拠調べ』に入りたいと思います。」
などと言うことがあります。
そもそも,裁判は,
「お互いの主張」→「対立点(争点)の見極め」→(争点について)「証拠調べ」
という整理の仕方,進め方をします。
で,上の裁判官の台詞の中での「証拠調べ」なのですが,ここでいう「証拠調べ」は,書類を調べたりすること(物証を調べること)ではなくて,人証(本人尋問・証人尋問)のことを意味していることがほとんどです。
というのは,書証(書類)などの「物証」は,「そろそろ」もなにも,裁判所に提出されたらすぐに調べることが可能なので,普通調べ終わっています。
双方の主張が出尽くしたので「そろそろ」「証拠調べ」,と裁判官が言ったら,それは,本人尋問・証人尋問をしましょう,ということです。
2 「本人」「証人」とは?
さて,では「本人」「証人」とは何でしょう?
「本人」というのは裁判の当事者です。つまり,「原告」か「被告」のことを言います。
「原告」か「被告」が会社などの法人である場合は,その代表者(代表取締役など)も「本人」です。
ですので,「原告」「被告」そのものに対する尋問は,「証人尋問」ではなくて「本人尋問」といいます。
「証人」というのは,「本人」以外で事件について証言する者です。
3 「証人」はどちらの味方?
法廷ドラマでは,「証人」というのはドキドキする存在で,どっちの味方になるか分からない,大どんでん返しもある存在として描かれることがあります。
しかし,日本の民事裁判では「証人」と打ち合わせをすることは許されているし,むしろ,事前に「証人」が何を言うのか,「証人」が味方となる側から「陳述書」を出すように裁判所に言われます。
こうなると,「証人」は事前にどっちの味方か分かっている,という話になります。実際そうです。
ですので,基本的に,原告は原告に有利な「証人」を呼び,被告は被告に有利な「証人」を呼びます。「原告側証人」「被告側証人」という言い方をしたり,自分の敵となる証人を「敵性証人」と呼んだりもします。
ですので,法廷ドラマであるような「スリル」は通常ありません。
4 何を言うのかは事前に分かる~「陳述書」
上で「陳述書」を事前に出す,ということを書きました。
これは,本人が供述する内容,証人が証言する内容を,事前に「陳述書」という文書にまとめて裁判所に提出する,ということです。
そうすると,
もう法廷で口でしゃべらなくても「陳述書」を読めば分かるのでは?
法廷はシナリオ通りでつまらないのでは?
という疑問がわきます。
それもある程度当たっています。
「陳述書」には,限られた尋問時間で口で正確に言い尽くせない部分を補う意味があります。口で表現できる人,それが苦手な人がいますからね。
それと,裁判の準備という点で重要な「陳述書」の意味合いは,「相手が反対尋問の準備をするために必要」というものです。
この「反対尋問」について,次で述べます。
5 主尋問・反対尋問・補充尋問
尋問については,たとえば「原告本人」「原告側証人」については,
(1) 主尋問
まず,原告代理人弁護士が質問します。
(2) 反対尋問
次に,被告代理人弁護士(敵側の弁護士)が質問します。
(3) 補充尋問
裁判所が必要と思う点を補充的に質問します。
基本的にこの流れです。
主尋問の内容は「陳述書」である程度分かっているから,確かに,「シナリオ通り」という面があります。
裁判で,本人の供述や証人の証言が信用できるかのチェックとして特に重要と考えられているのは「反対尋問」です。
つまり,敵側の弁護士の尋問に対しても,耐えられるような供述や証言になっているか?が試されるのです。
証人について「陳述書」を出さない時代も昔ありましたが,そのときは,主尋問の期日と反対尋問の期日を分けていました。一人の証人を調べるのでも2回の期日を要しました(数ヶ月かかります)。
なぜかといえば,主尋問が終わって,主尋問の内容を記述した調書ができて,それを敵の弁護士が読んで反対尋問の準備(敵の証人のどこを突っ込むかの準備)をしていたからです。
現代は,主尋問の内容は「陳述書」で予め分かるようにしておいて,尋問期日の前に敵の弁護士も反対尋問の準備をすることを前提にして,一人の証人について主尋問・反対尋問を一日で出来るように裁判は進められています。
これが「陳述書」は反対尋問の準備のため必要な意味がある,ということの説明です。
6 尋問の打ち合わせ(リハーサル?)
尋問というのは法廷その場のものだから,事前に打ち合わせなんかしていいのか?
それは口裏合わせではないのか?
という疑問もあり得るところです。
しかし,尋問の打ち合わせは「あり」ですし,むしろ周到にするべきとされています。
特に,主尋問の内容は,今の弁護士は「一問一答式」でシミュレーションを作って準備します。
発表会ではないので「リハーサル」という言葉には私は若干抵抗がありますが,「一問一答式」で当日の尋問の進め方を丹念にチェックしてから臨みます。
敵の弁護士から訊かれる「反対尋問」の準備は,想定で行うことになります。
これは予想しきれないので,ある程度,争点に関連して「突っ込まれることが目に見えているところ」(多くはそこが「弱点」です)について,無理のない答えを用意します。
「無理のない」ということが重要で,「嘘をつきましょう」という準備はしません。
尋問の打ち合わせはなかなか時間がかかることが多いものです。
なお,打ち合わせでは「一問一答式」の想定問答を作ることが多いですが,それは本番では見ながらやるわけにはいきません。
「空(そら)」では答えられない細かいことなどは,尋問中に,必要に応じて弁護士が書面を示したりしながら質問することになります。
7 当日
そもそも当日どんな服で行ったらいいの?という質問もよく受けます。
スーツもいいですし,セーターなどのラフなスタイルでも構いません。
ただ,法廷という場なので,できるだけ落ち着いた印象の服装がいいと思います。華美なものは避けるほうが無難でしょう。
尋問前に(嘘を言わないという)宣誓書に署名押印する必要があるので,本人・証人の方は印鑑を持参してください。忘れても大丈夫ですが,その場合は指印をする必要があります。
上記6で述べたように,メモなどを見て答えることはできませんが,尋問は記憶に従って述べるものなので心配する必要はありません。
「知らない」ことは「知らない」でよいですし,「分からない」ことは「分からない」で問題ありません。
細かい数字などが分からないのも仕方ありません。どうしても,細かいことを答えてもらわなければならないときは,弁護士が書類を示して尋ねます。
なお,「証人」については,他の「証人」の尋問のときには法廷に同席できないのが原則です。待合室など別室で待つことになります。
これは,「証人B」が先に出た「証人A」の言ったことに合わせてしまう弊害を避けるためです。
尋問のときに,たまに,弁護士と本人・証人が「言い合い」のようになることがあります。
しかし,尋問は,「問い」に「答える」という形で進みますから,本人・証人が「問い」と無関係に意見を言う,というものではありません。
「問い」と無関係の意見などを述べると裁判官から注意されることがあります。
8 尋問の結果は「調書」に
現代では,ほとんど,「問い」「答え」がそのまま音声反訳の形で(ですから,関西弁は関西弁のままで)「調書」になります。
後日読むことが出来ます。
9 終わりに
以上が「尋問」についての手続きの解説です。
「尋問」に立たなければならない当事者の方は,「尋問」はとても気が重いといわれる方が多いです。
が,私の弁護士19年の中で経験した限りでは,法廷の尋問中に耐えられずに倒れてしまった方という方はいません。
むしろ,始まるまでは気が重かったが,実際,当日始まってしまうと「あっという間だった」という方が多いです。
気が重いのは確かかもしれませんが,必ず乗り越えられます。
「尋問」の目的は,必要な事実を法廷に出すことです。
よく「相手を言い負かしてほしい」と言われる方もいらっしゃいます。気持ちは分かるのですが,「尋問」では「相手を理屈で言い負かす」必要はありません。
反対尋問では,相手方からでも「当方に有利な事実」を一つでも多く引き出すのが目的です。
そこで引き出した事実(材料)を組み立てて「理屈」を述べるのは,「尋問」の中ではなく,後日,裁判所に提出する主張書面で行います。
以上です。
この記事が,裁判のクライマックスである「尋問」に臨む当事者の方の理解を助け,不安を取り除くことに役立てば幸いです。
2018-09-06 19:11
nice!(6)
コメント(1)
はじめまして。
本人訴訟(原告)で裁判をやっていて、先日尋問が終わったのですが、裁判官に2度同じことを聞かれました。
鼠径部に触られたときになぜ笑ったのかと聞かれ、1回目は同じ室内に女性がいたので助けを求めるためと答え、2回目は「(心理的)抵抗です。」と補足するために違う回答をしました。
2度同じ質問をするのは確認のためですか。
by みるく (2019-07-12 23:01)