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民事裁判 「判決日」には何をする? [法律案内]

 弁護士に依頼して民事訴訟(裁判)を起こしました。

 たとえば、AさんがBさんに対して貸金500万円を支払え、として訴えた裁判だったとします。
 Bさんは「そんなの借りた覚えがない」として争っていたとします。
 
 裁判が最終盤まできて、ある期日で、裁判所が

「審理を終結します。
 判決言渡期日は平成28年12月8日午後1時です。」

と言いました。

 さて、この「判決言渡期日」には何が行われるでしょうか?
 この日には、「誰が」「何を」するでしょうか?
 Aさんはどうすればいいのでしょうか?
 Aさんの弁護士は何をするのでしょうか?
 「判決言渡期日」の前後について、気をつけなければならないことがあるでしょうか?

 これは、弁護士に依頼して裁判を進めた人が、丁寧に弁護士から説明を受けないと、結構分からなくて「どうすればいいの?」となりがちなことなので、今回の記事で説明させていただきます。

1 「判決言渡期日」には何が行われる? 

 テレビで見ると、民事裁判でも大きなニュースになる事件(例えば、国に対して薬害などを訴えた事件など)では、

「勝訴」とか
「不当判決」とか

大きく書いた紙を持って、弁護団の若手弁護士が裁判所から出てくる映像が、多くの方の「判決言渡期日」のイメージではないでしょうか。

 これは特殊な例です。

 通常の裁判の場合は、裁判所が、「主文」といって、判決の結論部分だけを読み上げて終わります。

「1 被告は、原告に対し、金500万円及び平成26年5月24日より支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。」
「2 訴訟費用は被告の負担とする。」
「この判決は仮に執行することができる。」

という感じです。
 
 そして、多くの裁判では、「判決言渡期日」には当事者も弁護士も出頭しないことがほとんどです。(これは刑事裁判との大きな違いで、刑事では、被告人、弁護人、検察官が必ず出頭して判決言い渡しがなされます。)
 
 ということは、民事裁判では、

裁判官が、当事者がだれも出頭いない状態、いわば、観客ゼロの状態で、判決を読み上げることが多い

ことになります。経験のない人には、とても空しい絵に思われるでしょう。
 双方の弁護士もなんてやる気がないの?という感じを抱くかも知れません。
 誰も出頭しなくても「言い渡し」はしなければなりませんから、裁判所は判決の主文を読み上げます(これは省略しません)。

 当事者が誰も居なくていいのか?と思いますが、次の条文の通りで問題ありません。

民事訴訟法251条2項
 判決の言い渡しは、当事者が在廷しない場合においても、することができる。 
 
2 当事者は?弁護士は?当日なにをする?

 上のようなことなので、判決言渡期日に当事者は出頭しなくても構いません。
 例でいえば「Aさん」は出頭しなくても構いません。

 でも判決がどうなったか気になるじゃないか!

というのは当然です。もちろん、出頭しても構いません。

 じゃあ、肝心の「判決言渡期日」に弁護士は裁判所にも来ず、何もしないの?というのですが、「判決言渡期日」における弁護士の仕事は次のとおりです。

 裁判所まで行っても、実際に聴くことができるのは「主文」だけです。
 「主文」(結論)だけでは、なぜ裁判に勝ったのか、負けたのか分かりませんし、判決の理由を読まないと「次」(註 後で説明します)に向けてどう動くべきかの判断もつきません。

 ですので、要は当日、判決の結果さえ把握できればいいのです。
 多くの場合、弁護士は、事務所から裁判所に電話をかけ、

「本日午後1時言い渡しの○○事件の判決内容を教えて下さい。」

と尋ねます。そうすると、裁判所書記官が、判決内容を教えてくれます。これは普通のことなので、「横着しやがって。法廷まで、聴きに来んか!!」と怒る書記官はいません。

 そうして、当日に判決内容を聴いて、依頼者に電話などで伝えます。
「地裁で、あなたの請求が認められましたよ。」
「残念ながら判決は当方の負けでした。」
と。

 後日、判決書ができあがったら、弁護士(多くは事務員)が裁判所に取りに行くか、事務所に送ってもらいます。
 どちらの方法でも、弁護士(又は事務員)が受け取ったら、「判決書」が「送達」されたことになります。
 この「判決書」を見て初めて、勝った・負けたの理由が分かりますし、判決が納得いくものか、それとも間違った判決なのか、ということの検討が出来るようになります。

 以上のようなこと(実務の通例)は、普通の人は知りませんから、弁護士が当日のことを事前によく説明しておいたほうがいいです。

 私が受けた「他の弁護士の苦情相談」では、

「○○先生は、一番肝心な日に裁判に来なかった。どういうつもりか。信じてついてきたのに、残念で仕方が無い。」

という訴えがありました。もちろん、ここでいう「一番肝心な日」とは「判決言渡期日」のことです。
 説明されなければそう思うのも無理はありません。
 当事者にとっては「運命が決まる日」に他ならないのですから。
 私は、その方に、上で説明した「判決言渡日とはどういうものか」と、その日、弁護士はどういう仕事をするのか?を説明しました。
 そうすると、「なんだ、そうだったの。」と納得されました。が、「それならそうと説明してくれないと、分からないじゃない!心配したじゃない!」とも仰っていました。
 もっともです。

3 判決言渡日前後に気をつけなければならないこと

 何と言っても、

判決言渡日の後2~3週間は、なるべく弁護士と連絡が取りやすい状態にしておくべきだ

ということです。

 大事なのは、判決の「次」の準備です。

 つまり、

判決で負けた場合に不服申立をするか?

という点です。

 例えば、

神戸地方裁判所での判決に対して、負けた場合に、大阪高等裁判所に「控訴」するか?

です。

 まあ、これは「判決が出て、判決文を読んで、その内容次第で考える」でよいのですが、うっかりしてはいけないのは控訴期間です。

民事訴訟法285条 控訴は、判決書(略)の送達を受けた日から2週間の不変期間内に提起しなければならない。

 まず基礎知識として「2週間」です。
 この期間を過ぎてしまったら、泣いても笑っても、判決は「確定」してしまいます。

 依頼している弁護士が控訴する場合に、通常は、次のものが必要です。

(1) 控訴状    
 これは弁護士ならすぐに作れます。
 難しい事件でも控訴の理由を細かく書く必要はありません。
 「控訴する」趣旨を書いて、控訴の理由は「追って」と書けば良いです。

(2) 委任状    
 控訴審(例では高等裁判所)用の委任状が、第1審(例では地方裁判所)用に提出したものとは別に必要です。

(3) 控訴費用
 控訴状に印紙を貼って出さなければなりません。
 また、所定の郵券も納めなければなりません。

(4) 控訴審の弁護士費用
 これは弁護士との間の取り決めによります。

 上の(1)~(4)が揃わなければなりません。
 (3)(4)はお金です。「判決言渡期日」のあたりには、控訴する可能性がある場合に、必要なお金の準備をしておかなければならないということです。
 
 (2)は委任状に名前を書いてハンコを押すだけですが、弁護士と依頼者がなかなか連絡を取れないケースもたまにあります。
 長期出張、海外旅行、病気療養などで2週間連絡が取れず委任状ももらえなければ、場合によってアウトです。
 ですので、判決言渡期日付近(特にその後2週間)のスケジュールは確認しておいた方が良いです。
 委任状のこともありますが、2週間の間に控訴すべきかどうかを相談しなければなりませんから、弁護士と依頼者が連絡を取りやすい状態であるようにしなければなりません。
  
 「2週間」について細かく説明すると「判決書の送達を受けたとき」から「2週間」です。
 これは、本人が判決書の写しを弁護士からもらったときではなくて、「弁護士が裁判所から判決書の送達を受けたとき」です。
 2週間の数え方ですが、初日は数えません。翌日から2週間。
 つまり、

 12月8日  金曜日 判決言い渡し
 12月12日 月曜日 弁護士事務所に判決書が送達されてきた

という場合なら、翌13日から指折り数えて14日目、すなわち、26日月曜日が控訴期間満了の日ということになります。
 弁護士の中には、「月曜日に送達があって、控訴がなく、次の次の月曜日(同じ曜日)が経過すれば判決は確定する」という風に頭を整理している人が多いようです。

 結構あっという間なので、この期間は、弁護士と密に連絡を取れるようにしておいてください。

 控訴する場合は、何はともあれ、期間内に控訴状を出す(弁護士に出してもらう)のです。
 理由を考えるのは後からで構いません。

民事訴訟規則 182条
 控訴状に第一審判決の取消し又は変更を求める事由の具体的な記載がないときは、控訴人は、控訴の提起後五十日以内に、これらを記載した書面を控訴裁判所に提出しなければならない。

というルールになっていて、つまり、

とりあえず2週間以内に控訴状

理由はその後50日以内(これは随分余裕がある、と言っても結構すぐに来ますが…)に、しっかり練って書いて出せば良い

という仕組みです。

 ですので、例えば第1審(地方裁判所)で弁護士を付けずに裁判をやって負けたとして、
「どうしよう!控訴期間は2週間しかない。2週間で事件を初めから分かってもらって、バッチリ準備して、なんて頼める弁護士なんかいないんじゃないか…」
と考えて不安になってしまう必要はありません。
 不服があってこのまま裁判を終わらせたくないなら、ともかくも「控訴」するしかありません。
 その後、弁護士をつけるならつけてじっくり作戦を一緒に考えてもらう、ということでよいのです。

 最後は、控訴の手続についての説明になりましたが、「判決言渡期日」の前にある程度は控訴の手続についてもイメージを持っておいてもらったほうが安心でしょうね。

 控訴審(多くは高等裁判所)では何をする?については、また機会があれば書こうと思います。

  神戸シーサイド法律事務所                             弁護士 村上英樹



 

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ayu15

なぜ結論だけなのでしょう?

白か黒で物事を見るのを助長する気がします。
by ayu15 (2017-01-31 16:23) 

hm

ayuさん
 なるほど。そう言われると…ですね。
 本当は、民事でも、当事者も出頭して、簡単でも理由まで告げてもらう、というのが理想なのでしょうね。
by hm (2017-02-09 19:12) 

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