「USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門」(角川書店 森岡毅氏著) [読書するなり!]
読書評です。
東京ディズニーリゾート(TDR)には何度も行きましたが、USJは開園当初に行ったきりであとは数えるほど、特にここ最近は全然行っていません。
ただ、私の中の「開園当初のUSJ」の印象からは意外なほど、
若い人たちは頻繁にUSJに遊びに行っているし
遠くから、外国からUSJに来る人が多いし
大阪に来た人がやたらUSJを楽しみにしているし
というのが、何でなのか?と思っていたのです。
その理由がこの本を読んで分かりました。
簡単にいえば、ハリーポッターなど魅力的な出し物がどんどん出てきた、ということが要因なのですが、それらがただ思いつきとか短期的な魅力ということで出てきたのではなくて、
消費者の求めているもの、行動その他の要素の分析
がなされたうえで、
中長期的なパークの戦略の中で、本当に必要なものに限られた資源(お金、労働力など)を集中的につぎ込むこと
によって、今の魅力あるUSJになっている、ということでした。
いや、私から見て「開園当初のUSJ」が別に悪かったわけじゃありません。
ハリウッド映画の世界観を味わえる、それはそれで楽しめるパークでした。
ですが、ハリウッド映画が特別好きだというわけではない私としては、いいパークだと思うけど、一回行ったらしばらくはもういいかな、という感じでした。
この本によれば、通常の消費者というのは、だいたい私と同じような感覚だったようです。
USJが元々持っていたハリウッド映画のテーマパークへのこだわりは、消費者の目線とは少しズレがあったようです。
著者の森岡氏は、USJのマーケターとして、USJを「映画の専門店」から「世界最高のエンターテイメントを集めたセレクトショップ」にして、アニメ(「進撃の巨人」など)やゲーム(「モンスターハンター」)など多くのファンを持つ出し物を提供するようにした、とのことです。
確かに、当初のハリウッド映画のアトラクションだけではなく、「ハリーポッター」「モンスターハンター」「進撃の巨人」となれば、私も見てみたい、と思えるのです。
そして、それは多くの消費者がそうだ、ということが分析済みであるとのことです。
私自身は、「世間に広く売れるものをつくる」というのとは求められるものが随分違う世界で仕事をしていますが、森岡氏の戦略的な考え方はとても参考になります。
当然のことながら弁護士の仕事も、
・ 期日に追われて、裁判書類(準備書面)を書く
・ 裁判書類(準備書面)をとにかく長く書く
・ ただひたすら長時間の打ち合わせをする、現場に足を運ぶ
などということでは勤まりません。
・ その事件で、依頼者の求めるもの(又は、依頼者にとって真に価値のあるもの)は何か
・ その実現のためにどういう方法が採れるか(訴訟か、他の手続きか、など)
・ それを成功させるための要素は何か(何を証明しなければならないか)
などをしっかり見定めた上で、
・ 可能な限り、依頼者の求めることの実現という意味で成否を分ける部分にエネルギーを集中する。
・ (訴訟であれば)裁判官の立場を想像して、裁判官が正しい判断をするために役立つ主張をし、必要な証拠を出す(もちろん、裁判官が正しい判断をすることの妨げになりかねない無駄な記述などは極力避ける)。
ということを心がけることになります。
訴訟に提出する準備書面を書く、依頼者と打ち合わせをする、現場を見にいく… どれ一つをとっても、「何となくやる」という感覚ではなく、できるだけ目的をハッキリさせて仕事をすること、その積み重ねが「仕事の質」になります。(ときには、まずイメージをつかむために、「とにかく現場」ということもあります。ただ、これとて、事件をやる上で役立つ「イメージをつかむ」という明確な目的があるわけです。)
こうして書けば当たり前のことですが、実際は、日々スケジュールに追われる中で、弁護士も、特に何の意識も持たずに過ごすと、「何となく」スケジュール帳に書かれた打ち合わせ、裁判期日に臨み、〆切り日の迫った裁判書類を「間に合わせる」状態になりがちです。
実は、こういうのは悪循環で、目的の定まっていない仕事の在り方は非効率に繋がり、ますます時間がかかり、自分自身の体力気力を奪っていきます。
目的をハッキリさせて仕事に臨んだ方が効率よく、しかも、必要な部分に抜けることのない質の高い仕事ができます。
ですが、これは常にそうしようという「意識」「心がけ」があって出来ることです。また、それができる心身のコンディションの維持も必要になってきます。
私の場合、自分の仕事ぶりを自慢するという気になる要素はありませんが、ただ、自分が引き受ける仕事の目的を明確にして、効果的な(真に役に立つ)弁護士活動をするという心掛けだけは大切にしてきたつもりです。
この姿勢は変えず、さらに磨いていきたいと思っています。
本の話から弁護士の仕事の話に逸れてしまいましたが、この森岡氏の本を読んで、改めて、「戦略的思考」を意識し続けることの必要性を再認識しましたし、物事に対する「目の付けかた」という意味でとても勉強になるところがたくさんありました。
頭が活き活きしてくる本、という感じでした。
神戸シーサイド法律事務所 弁護士 村上英樹
USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門
- 作者: 森岡 毅
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
- 発売日: 2016/04/23
- メディア: 単行本
東京ディズニーリゾート(TDR)には何度も行きましたが、USJは開園当初に行ったきりであとは数えるほど、特にここ最近は全然行っていません。
ただ、私の中の「開園当初のUSJ」の印象からは意外なほど、
若い人たちは頻繁にUSJに遊びに行っているし
遠くから、外国からUSJに来る人が多いし
大阪に来た人がやたらUSJを楽しみにしているし
というのが、何でなのか?と思っていたのです。
その理由がこの本を読んで分かりました。
簡単にいえば、ハリーポッターなど魅力的な出し物がどんどん出てきた、ということが要因なのですが、それらがただ思いつきとか短期的な魅力ということで出てきたのではなくて、
消費者の求めているもの、行動その他の要素の分析
がなされたうえで、
中長期的なパークの戦略の中で、本当に必要なものに限られた資源(お金、労働力など)を集中的につぎ込むこと
によって、今の魅力あるUSJになっている、ということでした。
いや、私から見て「開園当初のUSJ」が別に悪かったわけじゃありません。
ハリウッド映画の世界観を味わえる、それはそれで楽しめるパークでした。
ですが、ハリウッド映画が特別好きだというわけではない私としては、いいパークだと思うけど、一回行ったらしばらくはもういいかな、という感じでした。
この本によれば、通常の消費者というのは、だいたい私と同じような感覚だったようです。
USJが元々持っていたハリウッド映画のテーマパークへのこだわりは、消費者の目線とは少しズレがあったようです。
著者の森岡氏は、USJのマーケターとして、USJを「映画の専門店」から「世界最高のエンターテイメントを集めたセレクトショップ」にして、アニメ(「進撃の巨人」など)やゲーム(「モンスターハンター」)など多くのファンを持つ出し物を提供するようにした、とのことです。
確かに、当初のハリウッド映画のアトラクションだけではなく、「ハリーポッター」「モンスターハンター」「進撃の巨人」となれば、私も見てみたい、と思えるのです。
そして、それは多くの消費者がそうだ、ということが分析済みであるとのことです。
私自身は、「世間に広く売れるものをつくる」というのとは求められるものが随分違う世界で仕事をしていますが、森岡氏の戦略的な考え方はとても参考になります。
当然のことながら弁護士の仕事も、
・ 期日に追われて、裁判書類(準備書面)を書く
・ 裁判書類(準備書面)をとにかく長く書く
・ ただひたすら長時間の打ち合わせをする、現場に足を運ぶ
などということでは勤まりません。
・ その事件で、依頼者の求めるもの(又は、依頼者にとって真に価値のあるもの)は何か
・ その実現のためにどういう方法が採れるか(訴訟か、他の手続きか、など)
・ それを成功させるための要素は何か(何を証明しなければならないか)
などをしっかり見定めた上で、
・ 可能な限り、依頼者の求めることの実現という意味で成否を分ける部分にエネルギーを集中する。
・ (訴訟であれば)裁判官の立場を想像して、裁判官が正しい判断をするために役立つ主張をし、必要な証拠を出す(もちろん、裁判官が正しい判断をすることの妨げになりかねない無駄な記述などは極力避ける)。
ということを心がけることになります。
訴訟に提出する準備書面を書く、依頼者と打ち合わせをする、現場を見にいく… どれ一つをとっても、「何となくやる」という感覚ではなく、できるだけ目的をハッキリさせて仕事をすること、その積み重ねが「仕事の質」になります。(ときには、まずイメージをつかむために、「とにかく現場」ということもあります。ただ、これとて、事件をやる上で役立つ「イメージをつかむ」という明確な目的があるわけです。)
こうして書けば当たり前のことですが、実際は、日々スケジュールに追われる中で、弁護士も、特に何の意識も持たずに過ごすと、「何となく」スケジュール帳に書かれた打ち合わせ、裁判期日に臨み、〆切り日の迫った裁判書類を「間に合わせる」状態になりがちです。
実は、こういうのは悪循環で、目的の定まっていない仕事の在り方は非効率に繋がり、ますます時間がかかり、自分自身の体力気力を奪っていきます。
目的をハッキリさせて仕事に臨んだ方が効率よく、しかも、必要な部分に抜けることのない質の高い仕事ができます。
ですが、これは常にそうしようという「意識」「心がけ」があって出来ることです。また、それができる心身のコンディションの維持も必要になってきます。
私の場合、自分の仕事ぶりを自慢するという気になる要素はありませんが、ただ、自分が引き受ける仕事の目的を明確にして、効果的な(真に役に立つ)弁護士活動をするという心掛けだけは大切にしてきたつもりです。
この姿勢は変えず、さらに磨いていきたいと思っています。
本の話から弁護士の仕事の話に逸れてしまいましたが、この森岡氏の本を読んで、改めて、「戦略的思考」を意識し続けることの必要性を再認識しましたし、物事に対する「目の付けかた」という意味でとても勉強になるところがたくさんありました。
頭が活き活きしてくる本、という感じでした。
神戸シーサイド法律事務所 弁護士 村上英樹
2016-06-23 09:47
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コメント(2)
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読ませてもらって説得力のあるいい文と思いました。
でここでふとおもうこと。
USJのような力がない場合は?昔は関西でもたくさん遊園地があったそうです。今生き残っているのはひらぱーぐらいらしいです。
消えていった遊園地の人たちはUSJのようなことができたのでしょうか?
時代の流れ・社会環境の変化・企業体力・人材・企業環境いろいろ考えてしまいます。
by ayu15 (2016-09-08 11:34)
ayuさん
そうですね。
「消えていった遊園地」に努力が足りなかったという問題では決してないでしょう、きっと。
話が逸れるかも知れませんが、例えば、廃園はどうしても避けられない遊園地があるとして、いかに転身するか?というところは色々な選択肢があり、時には私たち弁護士が関与することもある場面です。そうしたときに、企業や人が次の段階でいかに幸せに暮らしやすいか、ということが重要になります。
by hm (2016-09-29 16:48)