SSブログ

調停委員とは何者か? [法律案内]

 灘校文化祭とか読書感想文などの季節ものは別として、私の過去のブログ記事で閲覧数が多いのは、養育費・婚姻費用に関するもののほかには、次の記事です。

 「調停委員が相手の肩ばかり持つ!?」~調停を冷静に進めるために
 http://h-m-d.blog.so-net.ne.jp/2012-03-15

 これは、離婚調停などの場面で、

調停委員が常識的に調停を進めたとしても、当事者から見れば「相手の肩ばかり持っている」と感じることがよくある

ということを、調停の仕組みから書いたものでした。

 今日は、ちょっとその補足、ということで。

 調停委員とはそもそも何者か?ということです。

(以下、最高裁HP「調停委員」の解説http://www.courts.go.jp/saiban/zinbutu/tyoteiin/index.htmlより抜粋。太字・下線は村上による。)

 調停とは,私人間での紛争を解決するために,裁判所(調停委員会)が仲介して当事者間の合意を成立させるための手続です。調停委員は,裁判官または調停官と共に調停委員会のメンバーとして,当事者双方の話合いの中で合意をあっせんして紛争の解決に当たっています。調停は,どちらの当事者の言い分が正しいかを決めるものではないので,調停委員は,当事者と一緒に紛争の実状に合った解決策を考えるために,当事者の言い分や気持ちを十分に聴いて調停を進めていきます。また,調停委員は,自分が直接担当していない事件についても,他の調停委員会の求めに応じて専門的な知識経験に基づく意見を述べることもあります。

調停委員は,調停に一般市民の良識を反映させるため,社会生活上の豊富な知識経験や専門的な知識を持つ人の中から選ばれます。具体的には,原則として40歳以上70歳未満の人で,弁護士,医師,大学教授,公認会計士,不動産鑑定士,建築士などの専門家のほか,地域社会に密着して幅広く活動してきた人など,社会の各分野から選ばれています。平成17年現在,全国で約2万人の調停委員がいます。

調停には,地方裁判所や簡易裁判所で行う民事調停と家庭裁判所で行う家事調停があり,調停委員も,民事調停委員と家事調停委員に分かれています。その基本的な役割は,同じですが,事件の内容等に応じて,最も適任と思われる調停委員を指定するなどの配慮をしています。例えば,民事調停では,建築関係の事件であれば一級建築士などの資格を持つ人,医療関係の事件であれば医師の資格を持つ人など事件内容に応じた専門的知識や経験を持つ調停委員を指定しており,また,家事調停では,夫婦・親族間の問題であるため,男女1人ずつの調停委員を指定するなどの配慮をしています。

なお,調停委員は,非常勤の裁判所職員であり,実際に担当した調停事件の処理状況を考慮して手当が支給されるとともに必要な旅費や日当が支給されることになっています(民事調停法第9条,家事審判法第22条の3)。
                                                      (以上)


 ということです。
 原則40歳以上なので、原則として、私はあと3年くらいは調停委員になることはない、ということのようです。

 弁護士のほか、法律家以外の色々な人がいますから、調停委員は必ずしも法律家ではない、ということになります。
 男女1人ずつのペアで、片方は弁護士であるということは多いです。

 私が調停の際、調停室に入って、調停委員の顔を見た瞬間、「ああ、良かった」と思うことは実際にあります。
 私が知っている弁護士で、バランス感覚に優れていて、しかも、要点をつかむ力が十分におありの方だ、ということが分かっている場合です。
 なぜ「良かった」なのかというと、「知り合いだから有利にしてくれるだろう」などという期待をするわけではありません。そのような期待はできません。
 そうではなくて、調停委員が行う采配というのは、多分に、調停委員個人の方の判断力次第、というところがあるからです。
 勝つか負けるか、慰謝料がいくらになるか、そのものは、正しく言えば、調停委員が誰であるかによって変わるべきものではありません。
 ただ、それを決めるプロセスが、決めるための重要な要素をもらさず考慮し、お互い納得のいくものになるかどうかはかなり大切です。そして、それは調停委員の力によるところが大きいのです。

 こういう場合、私は、正直に自分の感想を、依頼者の方にお伝えすることがあります。

・ その調停委員の方を自分は知っていること
・ その人の、調停を采配する能力については信頼が置けると思っていること(あくまで私の感じ方であるけれど、と)
・ でも、知り合いだから有利にしてくれるわけではないこと

を、言ったほうが何かに良い、と思う場合はお伝えします。多くの場合、その後の手続について安心感を持って頂けているように思います。

 
 さて、これは、調停委員のアタリが良い場合の話です。

 アタリが悪い、という意味ではありませんが、調停委員は必ずしも法律家(弁護士)ではないため、調停委員が、

「法律ではこうなっています。」
「ルールはこうです。」

と言われることについて、不正確なことがないとは限りません。
 調停委員さんは、弁護士以外でも、調停をするにあたって必要な勉強はされており、例えば、離婚や相続、養育費などについて必要な法律の規定があることは勉強されています。
 しかし、法律の規定の解釈などは、法律家の間でも意見が分かれることもあり、何が正解か断定できないこともあります。
 そんなときに、ほかの解釈もありえるのに、
「ルールはこうです。」
といわれるケースもたまにあります。

 それから、たまには、特に、暴力があるとか浮気があるとか、分かりやすい決定的要素がない離婚調停などで、

「そんなことでは離婚の原因になりませんよ!?」

とおっしゃる調停委員さんがいます。
 前に記事http://h-m-d.blog.so-net.ne.jp/2011-10-07にした「モラルハラスメント」などのように、日常生活上の一つ一つのことの「積み重ね」ということについて、全体を見るのではなく、「一つ一つは大したことないじゃないか」という見方をして、

「離婚は無理」

などとおっしゃるケースがたまにあります。

 弁護士が代理人で同席しておれば、

「最近は、こうしたケースでも、生活全体の在り方をとらえて離婚原因有りとされる裁判例が多くなっています。相手方は離婚原因がないと争われると思いますが、こちらはあると思っています。」

と言えます。
 
 それでも、調停委員さんに、

「いや、そんなの無理だと思いますよ。」

と言われたら、

「調停委員の先生とは見解が違うようです。いずれにせよ、こちらは婚姻生活を続けていくことはできないので、離婚裁判を出します。離婚原因になるかどうかは訴訟の裁判所でご判断頂くしかないと思います。訴訟で認められなければもちろん諦めざるを得ませんが、いずれにせよ、別居を続けていくことになります。」

と言います(できるだけ穏やかな表情、口調で)。

 
 弁護士が同席するメリットは、こういうことです。
 つまり、調停委員さんが言われることについて、法や常識に適ったものかどうかの判断の助けになるということです。
 そして、「何かおかしい」と思ったときに、どういう対策を取るべきかの判断の助けになるということもあります。
 「調停委員さんに対して抗議すべき」ことなのか、「調停委員さんに何を言ったところで解決する問題ではなく、訴訟など別の手続での解決を考えるしかない」ことなのか、など。

 
 ですので、調停は、

本人でできる

のが建前ではありますし、素人にも分かりやすくやることが調停委員の勤めでもあるのですが、

本人でやっていて「これは手に負えない」と思ったとき

には、弁護士を依頼し、同席させたほうがいいということになります。


 中間的な方法としては、

本人で調停はやりつつ、「分からないこと」「すぐには決められないこと」「おかしいなと思ったこと」があったら、その場の調停は、とりあえず、

「次回までじっくり考えさせて下さい。」

ということにして、調停の間に弁護士に相談する、という方法があります。(この方法は、「私は流されやすいから…」という人には不向きです。「次回まで」が言えず、その場の雰囲気で、不本意な合意をしたりする恐れがないか、御自身でよく考えて頂く方がいいです。)

 
 以上、調停について前回の記事に付け加えた話をさせていただきました。

 「冷静に穏やかに言うべきことを言う、弁護士が代理人として同席します。」というように書きましたが、正直に言えば、私は、たまに、調停委員さんに対して強く抗議することもあります。ですから、元依頼者の方など、この記事を見て、「いやいや、村上さん、あのとき、めっちゃ怒っていたじゃないですか」と思われている方もいらっしゃるかも知れません。

 調停成立の見込みがないときは、調停の場では何も期待できないので、「強く抗議」する必要がありません。
 ですが、調停成立の見込みがある中で、たとえば、「本人の人格を不当に貶めるようなこと」や「(間違った、あるいは、偏った)価値観を押しつけようとすること」や「怠慢による法の無理解としか思えないような一方的な見解のごり押し」などがあったときには、それは実害につながりますので、調停委員さんに対して、敢えて、怒りの気持ちを伝えることがあります。「これはさすがに、こちらとしては『怒るべきところ』になってしまいますよ。」ということは、やっぱり、場面によっては、ある程度インパクトのある形でお伝えする必要があります。
 
 とはいえ、調停委員さんは、それでも大変な労をとっておられることは間違いありません。人と人とのトラブルの間に入り、それをなんとかしようという、これは大変なことです。普通なら、お金を払っても避けたいと思う種類のことでしょう。(実際、調停委員の日当で「もうかる」ということはありません。)

 ですから、調停委員さんの発言の中に、上に挙げたような「これはいけない」という点があったとしても、基本的な感謝の気持ちはもとう、そのほうが大抵うまくいく、ということは、調停が始まる前や合間に、よく依頼者の方とお話ししていることです。

 実際、調停委員の多くの方について、その仕事ぶりを尊敬できる、と感じています。

 あまりまとまらない記事になりましたが、調停とはこんな雰囲気のもの、というのがわかっていただければ、と思います。


                                     村上英樹(弁護士、神戸シーサイド法律事務所
 
 
 
 

 


 
 
nice!(2)  コメント(2)  トラックバック(0) 

nice! 2

コメント 2

hm

心如さん、shiraさん

 ナイス、ありがとうございます。
by hm (2012-10-19 13:13) 

不条理に屈した正直者

調停委員と申立人代理人弁護士が合意書作成の場で目配せをしていたのを確認した。知り合い弁護士が代理人の場合に本当に公平な進め方ができるのか疑問に思い、貴兄の説明を読ませていただきました。
申立人が不利になることは一切認めないという代理人の方針、大げさな嘘・誹謗中傷を反論書に書いてまで思い通りに進めようとする申立人とその代理人に、状況証拠しか提出できず大変悔しい思いをしてきました。
弁護士は成功報酬を得るためには、良心をも悪魔に売り渡すものなのかと、この国の法律関係者に暗澹たる思いです
by 不条理に屈した正直者 (2015-10-06 00:57) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。