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人身保護請求とは? [法律案内]

 オセロ中島さんのニュースで、最近「人身保護法」「人身保護請求」という言葉を聞くようになりました。

 今日は、この「人身保護法」について、お話しします。

 「人身保護法」というのは、全部を引用できてしまうくらい短いシンプルな法律です(この記事末尾に引用)。


 法テラスHPの解説によれば、


 ある者の身体の自由が侵害されている場合に、その侵害を排除することを求める請求。例えば、離婚した元の配偶者が勝手に子供を連れて行ってしまったような場合に、この請求がなされる。手続は迅速であり、審問は請求日から1週間以内に開かれ、判決は審問の終結から5日以内に言い渡される。


とのことです。

 「裁判って長くかかるんでしょ?」とよく言われますが、この手続は早いです。
 法律は昭和23年にできた古い法律ですが、なにせ、「人身保護」というわけですから迅速性が必要で、なので、この場合は本当にちゃんと迅速に裁判をやってくれます。

 
 中島さんの場合は、中島さん自身は成人であって、また(少なくとも形の上では)自分が選んで占い師さんと一緒にいるので、「中島さんの自身の行動の自由」との兼ね合いがあって難しい問題があります。
 
 しかし、もし、ある程度の証拠(この場合、状況証拠の積み重ねかもしれませんが)があって、マインドコントロールによって中島さんの身体の自由が奪われている、という風に裁判所が認めれば、請求が認められます。

 私たち弁護士にとって、「人身保護請求」を検討するのは圧倒的に、

一方配偶者による子の連れ去り問題

です。

 これは、心情的にはつらい事件です。どっちも親ですし、対象者は子どもですから。

 なので、判例も、

 両親ともに共同親権者である場合(離婚前)は、拘束者による幼児の監護・拘束が権限なしにされていることが顕著であるといえるためには、その監護が請求者の監護に比べて子の幸福に反することが明白であることを要する(最判平成5年10月19日民集47巻8号5099頁)

としています。要するに、どちらも親権はもっているので、普通離婚前では、人身保護請求の対象にならないというわけです。

 ただし、子の「監護権」というのを特に決めている場合は別です。

 子の監護権を有する者が監護権を有しない者に対し、人身保護法に基づき幼児の引渡しを請求する場合には、幼児を請求者の監護の下に置くことが拘束者の監護の下に置くことに比べて子の幸福の観点から著しく不当なものでない限り、拘束の違法性が顕著であるというべきである(最判平成6年11月8日民集48巻7号1337頁)

ということなり、監護権をたとえば母と決めたのに、監護権を持たない父が勝手に子を連れ去った場合などは人身保護請求によって、「子をお母さんの元に戻しなさい」という判決が出る可能性が高くなります。

 子の連れ去り問題については、

人身保護請求

のほか、人身保護請求は上記のように「監護権」者がはっきりしていない場合には有効でない場合があるので、

家庭裁判所に仮処分(子の引渡し)を申し立てること         監護権者の指定(父か母かどちらが子を監護するか決めてくれ、ということ)を求めることといった手段を検討して、

夫婦間のルールとか信義に明らかに反するような連れ去り行為があったときや、子の身体などに心配があるような場合には、正常な状態に戻す

ことを弁護士は検討します(ただ、本当に「連れ去り」が心配されるときは、用心して、たとえば保育園に事情を説明しておいて、勝手に、相方の配偶者に子を引き渡したりしないように言っておくなどのことが大切です。やっぱり「予防」が一番です)。

 
 元に返って、成人の場合でも、たとえば、

カルト宗教

などに対しては、人身保護法を使うケースというのは、子の連れ去り問題よりはレアケースですがそれでもそれなりに数があると思います。

 (カルト宗教による被害など)そういう目に遭った人や家族ならば、その大変さはわかると思いますが、そうでない人でも、被害者の立場を想像していただければ、と思います。

「俺は、そんなん(カルト宗教なんか)にひっかからへんもんねー」
「はまる人の勝手ちゃう?」
と第一感でそう思う人もいるかもしれませんが、その人自身の優秀さや有能さにも関わらず、誰だって、弱さや心の隙間は必ずありますから、

そういう「心の隙間」を利用して、人をマリオネットのように縛って、誰かに思い通りにされる

という恐れは誰にだってあります。

 そう、私にだってある、と思います。

 
 人が悔いのない人生を送れるように、この法律もより活かされれば、と思います。




(以下、法律引用)

人身保護法
(昭和二十三年七月三十日法律第百九十九号)



第一条  この法律は、基本的人権を保障する日本国憲法 の精神に従い、国民をして、現に、不当に奪われている人身の自由を、司法裁判により、迅速、且つ、容易に回復せしめることを目的とする。

第二条  法律上正当な手続によらないで、身体の自由を拘束されている者は、この法律の定めるところにより、その救済を請求することができる。
○2  何人も被拘束者のために、前項の請求をすることができる。

第三条  前条の請求は、弁護士を代理人として、これをしなければならない。但し、特別の事情がある場合には、請求者がみずからすることを妨げない。

第四条  第二条の請求は、書面又は口頭をもつて、被拘束者、拘束者又は請求者の所在地を管轄する高等裁判所若しくは地方裁判所に、これをすることができる。

第五条  請求には、左の事項を明らかにし、且つ、疏明資料を提供しなければならない。
一  被拘束者の氏名
二  請願の趣旨
三  拘束の事実
四  知れている拘束者
五  知れている拘束の場所

第六条  裁判所は、第二条の請求については、速かに裁判しなければならない。

第七条  裁判所は、請求がその要件又は必要な疏明を欠いているときは、決定をもつてこれを却下することができる。

第八条  第二条の請求を受けた裁判所は、請求者の申立に因り又は職権をもつて、適当と認める他の管轄裁判所に、事件を移送することができる。

第九条  裁判所は、前二条の場合を除く外、審問期日における取調の準備のために、直ちに拘束者、被拘束者、請求者及びその代理人その他事件関係者の陳述を聴いて、拘束の事由その他の事項について、必要な調査をすることができる。
○2  前項の準備調査は、合議体の構成員をしてこれをさせることができる。

第十条  裁判所は、必要があると認めるときは、第十六条の判決をする前に、決定をもつて、仮りに、被拘束者を拘束から免れしめるために、何時でも呼出しに応じて出頭することを誓約させ又は適当と認める条件を附して、被拘束者を釈放し、その他適当な処分をすることができる。
○2  前項の被拘束者が呼出に応じて出頭しないときは、勾引することができる。

第十一条  準備調査の結果、請求の理由のないことが明白なときは、裁判所は審問手続を経ずに、決定をもつて請求を棄却する。
○2  前項の決定をなす場合には、裁判所は、さきになした前条の処分を取消し、且つ、被拘束者に出頭を命じ、これを拘束者に引渡す。

第十二条  第七条又は前条第一項の場合を除く外、裁判所は一定の日時及び場所を指定し、審問のために請求者又はその代理人、被拘束者及び拘束者を召喚する。
○2  拘束者に対しては、被拘束者を前項指定の日時、場所に出頭させることを命ずると共に、前項の審問期日までに拘束の日時、場所及びその事由について、答弁書を提出することを命ずる。
○3  前項の命令書には、拘束者が命令に従わないときは、勾引し又は命令に従うまで勾留することがある旨及び遅延一日について、五百円以下の過料に処することがある旨を附記する。
○4  命令書の送達と審問期日との間には、三日の期間をおかなければならない。審問期日は、第二条の請求のあつた日から一週間以内に、これを開かなければならない。但し、特別の事情があるときは、期間は各々これを短縮又は伸長することができる。

第十三条  前条の命令は、拘束に関する令状を発した裁判所及び検察官に、これを通告しなければならない。
○2  前項の裁判所の裁判官及び検察官は、審問期日に立会うことができる。

第十四条  審問期日における取調は、被拘束者、拘束者、請求者及びその代理人の出席する公開の法廷において、これを行う。
○2  代理人のないときは、裁判所は弁護士の中から、これを選任せねばならない。
○3  前項の代理人は、旅費、日当、宿泊料及び報酬を請求することができる。

第十五条  審問期日においては、請求者の陳述及び拘束者の答弁を聴いた上、疏明資料の取調を行う。
○2  拘束者は、拘束の事由を疏明しなければならない。

第十六条  裁判所は審問の結果、請求を理由なしとするときは、判決をもつてこれを棄却し、被拘束者を拘束者に引渡す。
○2  前項の場合においては、第十一条第二項の規定を準用する。
○3  請求を理由ありとするときは、判決をもつて被拘束者を直ちに釈放する。

第十七条  第七条、第十一条第一項及び前条の裁判において、拘束者又は請求者に対して、手続に要した費用の全部又は一部を負担させることができる。

第十八条  裁判所は、拘束者が第十二条第二項の命令に従わないときは、これを勾引し又は命令に従うまで勾留すること並びに遅延一日について、五百円以下の割合をもつて過料に処することができる。

第十九条  被拘束者から弁護士を依頼する旨の申出があつたときは、拘束者は遅滞なくその旨を、被拘束者の指定する弁護士に通知しなければならない。

第二十条  第二条の請求を受けた裁判所又は移送を受けた裁判所は、直ちに事件を最高裁判所に通知し、且つ事件処理の経過並びに結果を同裁判所に報告しなければならない。

第二十一条  下級裁判所の判決に対しては、三日内に最高裁判所に上訴することができる。

第二十二条  最高裁判所は、特に必要があると認めるときは、下級裁判所に係属する事件が、如何なる程度にあるを問わず、これを送致せしめて、みずから処理することができる。
○2  前項の場合において、最高裁判所は下級裁判所のなした裁判及び処分を取消し又は変更することができる。

第二十三条  最高裁判所は、請求、審問、裁判その他の事項について、必要な規則を定めることができる。

第二十四条  他の法律によつてなされた裁判であつて、被拘束者に不利なものは、この法律に基く裁判と抵触する範囲において、その効力を失う。

第二十五条  この法律によつて救済を受けた者は、裁判所の判決によらなければ、同一の事由によつて重ねて拘束されない。

第二十六条  被拘束者を移動、蔵匿、隠避しその他この法律による救済を妨げる行為をした者若しくは第十二条第二項の答弁書に、ことさら虚偽の記載をした者は、二年以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。

   附 則

 この法律は、公布の後六十日を経過した日から、これを施行する。



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shira

 大学1年のときに同級の女子が某教団にのめり込んでしまって、郷里の親と音信不通になってしまったことがあります。大学にはホームルームなんてものもないので、親は教務掛の先生に相談したものの、なかなか進展がなかったようです。その後のことはまったくしらないのですが、もしこの記事のような知識があれば、親御さんに何かアドバイスができたかもしれません。
by shira (2012-02-11 17:40) 

hm

>shiraさん

 そんなことが身近であったのですね。
 もちろん、「人身保護請求」にしても、「身体の自由を拘束されている」というある程度の証明がないと裁判所は認めてくれないので、ハードルはそこそこあるのですが、しかし、shiraさんの同級生の場合など、親御さんとしては本当に大変な気持ちでしょうから、「うまくいくかどうかやってみなければ分からないけれども、こういう手続がある」という手段があれば、考えない手はないですね。
by hm (2012-02-13 16:06) 

ayu15

「人身保護法」
の応用で各種いじめで被害者の保護できないんですか。
「調査」「協議」している間待てないので、とりあえず身の安全確保しないと・・。

あ~~法律ではいじめてないんですか?
具体的に
暴行
猥褻
名誉毀損
脅迫
窃盗
とかになるんですか?
by ayu15 (2012-02-13 22:23) 

hm

ayuさん

 ナイス・コメントありがとうございます。

 場合によって可能な場合はあると思います。「身体拘束」されているということが言えれば。
 この法律、本当に大変なときは、重要な選択肢だと思います。
by hm (2012-02-14 09:38) 

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