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借金弁護士が増えることは怖くないか?(2)~司法修習生の給費制廃止問題 [弁護士業について]

 「法律家、裕福な人しか…」司法修習生の給与廃止に異議
http://www.asahi.com/national/update/0519/TKY201005190199.html

 ちょうど、このニュースです。

 この問題、私は、宇都宮会長を応援します。

 
 さて、司法修習生の給料の問題ですが、
 前回記事で書いたとおり、

司法試験合格者の急激な増大



司法予算

の問題が、そのキモです。

 
 まず、「司法改革」が本格的に動き出した平成12年以降を考えても、


司法予算は、ずっと、国家予算の0.4%くらいの水準であり、増えていない(増える気配もない)

ということが重要です。

 ところが、

司法試験合格者の数は、年間で、倍以上に増えた

のです。こうなってくると、予算の都合上は、

一人当たりの司法修習生の育成に、今まで通りのコストをかけられない

ことは理屈から言って当然になってきます。


 さて、合格者数が増えたからといって、今の合格者の元々持っている能力が昔の合格者と比べて低いなどとは限らないし、それは人それぞれだとは思いますが、しかし、

合格者数が増えること = 試験合格の基準点は下がること

は事実です。
 だとすれば、少なくとも、合格時点での、試験科目(法律科目)についての理解度については、人によっては、昔の試験よりは、低い状態でも合格している場合があります。

 なので、本当は、

合格者が増えたら、合格後の教育が昔よりも充実していなければならない

はずなのですが、予算の都合上は、逆になり、

一人当たりの司法修習生の育成に、今まで通りのコストをかけられない

となるわけです。


 だから、今の、これからの司法試験合格者の方が大変です。
 やはり、私たちの後輩には、

せめて修習期間中は、お金のことを気にせず、必要な勉強に集中できる環境

を残してあげたい、と思います。


 そして、国全体、国民の皆さんの問題としては、

金をかけずに安上がりに、法律家を増やそうとしたら、危険。 借金を抱えた法律家を大量に生む。 新しい法律家はじっくり勉強する機会も得られない人が増える。 金儲け主義の弁護士が増える恐れもある(要するにアメリカっぽくなる)。

ということを念頭に置いて考える必要があります。

 なので、

もし、本当に、今よりもたくさんの法律家を育成する必要があるなら、丁寧に育成するためには、それ相応の国費がかかる。  法曹人口が急激に増えているのにあわせて、司法予算を大幅に増額しなければならない。  つまり、そのための税金を大量に投入しなければならない。

のです。

 ただし、

弁護士の数が足りているか

は、国民の皆さんにとってはそもそもピンと来ない問題。

 ただ、今は、昔と違って、各法律事務所のHPもあり、弁護士会での弁護士紹介等があり、「弁護士に依頼したいけれど、弁護士がいない」という状態は、少なくとも都市部においては殆どなくなったでしょう。

 その意味では、今までの、合格者増が一定の成果をあげて、国民の皆さんから見れば、意外に(!?)弁護士が身近にいる状態になっている、ともいえるのではないか、と思います。

 過疎地の問題はまだ残りますが、これは、過疎地の医者不足と同じで、「数を増やしさえすれば…」という問題ではなく(数としては大した人数は元々必要ありません)、過疎地で開業するハンディを克服する公的な仕組みを整備する必要がある、という問題です。

 これは、弁護士である私の視点ですから、一般市民の方の目線と同じでないかも知れませんが、是非、

「最近で、弁護士を依頼しようとしたが、弁護士が不足しているために、弁護士が見つからなかったり、困ったりしたケースがあるか。」

あるいは

もしも、弁護士を依頼したい場合、インターネットや弁護士会や法テラスに問い合せても、相談する弁護士がみつからないだろうか

というくらい身近にひきつけて考えていただければと思います。

 そして、私は、

年間司法試験合格者が2000人にもなっているのは多すぎる。年間1000人くらいにしておいたほうがよい。

と考えています(元・行列の出来る法律相談所の、現自民党国会議員である丸山弁護士が加入しているグループも、同様の意見を発表されていました)。
 
 実は、この「年間1000人に」としても、弁護士の数は増えていきます(元々昔の合格者が500人だったので、年間1000人でも、これから数十年にわたって、どんどん、若手弁護士の数は増えていきます)。

 だから、私は、

弁護士の数を減らせ

などと主張するわけでないし、ただ、

弁護士を増やすスピードが今は急激すぎるので、それを、せめて、丁寧に育成できる範囲のスピードにしよう

と主張するのです。

 そして、その

丁寧に

と言う部分が、

司法修習生というのは、もう20代後半~30代になっている人であるし、法律家には特別な重責があるのだから、給料を出して、修習に集中してトレーニングしてもらおう

ということなのです。

 また、宇都宮会長が言うように、

司法修習生には給料も出るから、たとえ、貧乏人でも、志があれば、是非法律家になって下さい

という制度でなければならない、と思うのです。


 「事業仕分け」がなされたりする中、国費を司法修習生に出し続ける、という主張は、この時代の空気としては、「流れに合わない」のかも知れませんが、しかし、私は、

司法修習生に給料を出し続けてもらうことは、国民にメリットがある(但し、司法予算が拡大できないこととの関係上も、ある程度は少数精鋭にして)

と確信しています.

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ayu15

素人なんで弁護士のかたの懐は知りませんが・・・。

某タレント弁護士のように高収入の人
消費税ひきあげても全然こまらない高収入の某タレント?弁護士もいれば

利益にならない刑事事件の国選弁護をいっぱいやる貧乏弁護士・・・

「 社会正義」でお金にならないお仕事もひきうけてもらわないといけない弁護士の方が事務所が維持できない、生活費の心配しなきゃいけないという状態は不安感じます。


by ayu15 (2010-05-21 12:34) 

hm

>ayuさん

 コメントありがとうございます。

> 「 社会正義」でお金にならないお仕事もひきうけてもらわないといけない弁護士の方が事務所が維持できない、生活費の心配しなきゃいけないという状態は不安感じます。

 このあたりが、まさにこれから、危なくなってくるところです。

 弁護士自身は自営業なので、経営が成り立たない場合には、やりたくても、お金にならない仕事は現実的に出来なくなる傾向にあります。
by hm (2010-05-21 14:33) 

shira

 なるほど。司法試験合格者数をあまり増やさない方がいいと主張すると「それは現役弁護士の保身だ、弁護士は足りないじゃないか」と批判というか非難されますけど、「増やさない」ことを求めているのではなくて、「増やすスピードが早すぎるのはよくない」ということことなのですね。増加は賛成だか、加速度が大きすぎるのはまずいと。
 すると、メディア人は一次関数のレベルだけで批判をするが、弁護士会は二次関数のレベルで物事を考えていると言えるでしょうか。二次関数や加速度や微分積分の概念は現在でも高校までに習うはずなんですが、どーもメディア人は(本人たちは絶対に肯定しませんが)高校までに学習したことが現場で応用できてないみたいです。
by shira (2010-05-21 23:53) 

hm

shiraさん

 ナイス・コメントありがとうございます。

 弁護士の中でも、法曹人口の問題に言及することを避けたがる人が多いです。
 これを言えば、「保身だ」とか「市民に背を向ける」かのように見られることを恐れるためです。
 
 メディアの姿勢は、完全に「逆風」です。
 但し、最近、新人弁護士やロースクール生の苦境が目立ち始め、かわっていくきっかけはあるとおもいますが。

 かくいう私も、ブログでこういう意見表明をすることが、果たして、読者の皆さんの理解を得られるかどうか、丁寧には書いたつもりですが、やはり、不安もあります。 

 なので、shiraさんのように、この問題を冷静に受け止めて下さる意見は本当にありがたいです。
 
 昔から比べると、ある程度弁護士の数を増やすことそのものは、国民の利益を守る意味で役にも立ってきたと思います。

 ただ、それが何故、こんな「激増」(10年もたたないうちに無茶が明らかになるほどの激増)になったのか、というのは、政府の方針が取りまとめられた時代特有の空気がありました。すなわち、小泉・竹中時代に支配していた、いくら増やしても悪いものは競争により淘汰される、それにより痛手を被るのは自己責任、という乱暴な考え方でした。 


by hm (2010-05-24 10:54) 

memo26

> 司法試験合格者の数は、年間で、倍以上に増えた

 このように表現すると、「急増した」かのような印象を与えますが、逆に考えれば、「今までが少なすぎた」にすぎないとも考えられます。私は、「今までが少なすぎた」のではないかと思います。

> 合格者数が増えること = 試験合格の基準点は下がることは事実です。
> だとすれば、少なくとも、合格時点での、試験科目(法律科目)についての理解度については、人によっては、昔の試験よりは、低い状態でも合格している場合があります。

 それはその通りですが、合格者が少ないと、「実務」において無能な弁護士が淘汰されない、という問題があります。
 また、合格者500人時代(?)の合格者のなかにも、法律の基本すらわかっていない弁護士がいるのも、事実です。そのような者でも、長年、弁護士の業務を行うことが可能だった、という「現実」があります。その点も、あわせて考慮する必要があります。
 どの程度の合格者数が適切か、を考えるにあたっては、「弁護士に依頼しようとしたが、弁護士が要求する費用が高すぎるために、依頼をためらったり、あきらめたりしたケースがあるか」という視点をも、考える必要があると思います。

> 合格者が増えたら、合格後の教育が昔よりも充実していなければならない

 この部分、論理的ではありません。法科大学院制度は、合格後の教育の一部を合格前に行う、といった性質をもっています。合格者増が、合格後教育充実の必要性に直結するわけではありません。

> せめて修習期間中は、お金のことを気にせず、必要な勉強に集中できる環境を残してあげたい

 合格後の教育の「質」を考えるにあたって、修習期間中の「給与」は、問題にならないと思います。別個の問題です。
 「実務教育を担当する判検事等の」給与が問題である、と主張されるのであれば、まだわかりますが、「修習生の」給与を問題にされているのは、まったく論理性を欠いていると思います。

下記に、関連する私の主張を記しています。よろしければご参照ください。

「弁護士増員と、弁護士の質の関係」
http://blog.goo.ne.jp/memo26/e/833bc6b491b77347b7aacd02965a7f29

「なぜ司法修習生に給与を支払う必要があるのか」
http://blog.goo.ne.jp/memo26/e/e357d3f7c30df774b9a0f67dfaa2d167

by memo26 (2010-06-07 23:02) 

hm

>memo26さん

 コメントありがとうございます。
 
 御説の中に、部分的には、同感の部分もあります(下記の部分)。

>合格者500人時代(?)の合格者のなかにも、法律の基本すらわかっていない弁護士がいるのも、事実です。そのような者でも、長年、弁護士の業務を行うことが可能だった、という「現実」があります。その点も、あわせて考慮する必要があります。

 
 但し、新しくなった法曹養成課程の制度的出来映えについては、私は、memo26さんよりも非常に厳しい見方をしています。




 
by hm (2010-06-08 09:41) 

shira

 再コメ失礼します。
 今日、勤務先の進路指導室で法科大学院の話題が出たので、主事にこちらの記事を紹介しました。
 で、主事がネットで調べてわかったのは、司法試験とロースクールに関するデータが案外入手しにくいということでした。
 例えば高校生が大学進学する時に「法学部に行かないと司法試験合格はどの程度の可能性になるんでしょうか?」とか聞かれても、こちらは答えようがないです。でも高校生からすれば、それは絶望なのか、100人に5人くらいは可能性があるのか、というのは必要な情報なんです。
by shira (2010-06-17 23:13) 

hm

shiraさん

 最近の制度変更、また、その制度変更がうまくいっていないことも相俟って、(もちろんデータそのものの公開の問題が大ですが)、本当に分かりにくくなっているのだとおもいます。

 法学部外からの法科大学院入学、司法試験というルートはありますし、ルートとしては狭くはないです。
 「絶望」ではないとおもいます。

 が、現実的には、法学部外の人の合格率は悪いようです。
 それでも、数%の可能性はあります。
 
 司法試験というのも一種のペーパーテストなので、学部関係なく、試験に対応する科目の勉強さえ自分でやれば合格することは合格します。
 
 ただ、やっぱり、合格レベルにまで法律の基礎を身につけるとすれば、法学部時代にもある程度予備的な勉強がなされているほうが有利なのでしょう。

 なのでしょう、というのは、私としては、自分のこととして実感がないからです(昔と制度も違うので)。
 私の場合は、法学部でも「不登校」だったもので。

 また、大学の法学部そのものの勉強も、単位を取る程度のレベルならば、あんまり司法試験に直結するともいえない感じがするからです。

 他学部卒とか社会人卒で、どういう理由でもモチベーションがものすごい高い人は、合格レベルに到達するのに1,2年で十分、という人は存在します。
by hm (2010-06-18 15:12) 

井上信三

日本ニュースリポート&何とかというサイトにあなたの文章が出ていたのを読み、それに対するコメントを投稿しましたが、下の文章がここにあることを知り、そのコメントを投稿することにしました。

 コメントにも書きましたが、弁護士がそんなに崇高な職業であるとは私は少しも感じていませんし、それは大多数の人も同じことでしょう。特に、今までよりもはるかに多数の弁護士が出てくることになったらアメリカと同様、きわめて少数の弁護士以外は他の職業と同様に利益追求専門が多数派となるでしょうから、そういう連中に国民の税金を「浪費」することは無駄であるという以上に、極論すれば専門知識で装備した「犯罪人」を税金で養成する、ということにもなりかねません(現在の判事・検事の多数がそうなっているように)。

以下が元のコメントです。

 ずいぶん図々しい話です。
 医学部を含めた一般の学校の学生生徒は勉学のために学校に入学金・授業料を払う必要がありますが、司法研修所はそれらは一切なし。しかも普通の学校では奨学金も希望者全員がもらえず、ほとんどが利子つきで、貸与金額は数万円程度。
 修習期間のことを書いているので、このコメントもそれと同じような条件の医学部のことを書きましょう。
 医学部は学部4年に専門教育機関が2年ありますから合計6年、そして国家試験に受かってもそれでは使い物にならないということで無給かきわめて低い給料でのインターンのような期間が何年かあります。これは司法修習希望者とほとんど同じ学習期間です。
 そして、大学の6年間入学金や授業料など、特に私立医大では司法修習に要するものとは比較にならないほどの莫大な金額になりますが、それはすべて自己負担、奨学金はあっても利子付きで最高数万円のわずかなものです。
 ところが司法修習生は入学金・授業料ともに無料。そして奨学金はといえば無利子で月に20万円以上が希望者前任に無条件で給費されます。
 医師は人間が生きていく上に不可欠の職業ですが、弁護士などの法曹分野の仕事は生活にとって不可欠のものではぜんぜんありません。
 人間に欠くことができない医師の教育に要する莫大な金がすべて自己負担で、奨学金のような国家の補助も司法修習のそれと比べて半分以下。
 しかも医師はよほど特別で辺鄙な場所以外にはまず間違いなく開業していますが、弁護士はどうです。東京や大阪などの客が多くて儲かりそうな場所には客の奪い合いをするほど多数が開業しているくせに、無弁護士県とか、きわめて少数のものしかいない県がかなりの数あるそうです。これを見ても「社会公益のため」というのが単なるお題目であることが一目瞭然です。
 弁護士は社会公益のために存在するという耳障りのよい言葉を、それも弁護士自身からよく聞かされますが、無弁護士県の話や大都会集中などのことを聞くといかにもウソだろう、といいたくなりますし、うそであることは、ごく一部の弁護士を除くほとんどの弁護士自身がようく承知していることでしょう。(かの人権擁護を旗印としている社民党の党首福島弁護士の年収がうん億円とか、議員の数が減少して政党助成金などのあぶく銭が入ってこなくなったので、多数の党職員を「党職員には労働基準法は適用されない」などというめちゃめちゃな理屈で首を切ったそうですが、人権擁護が旗印の福島弁護士は知らぬ顔だったとか)
 そういうことで、司法修習生に対する給費製には絶対反対です。
 給費制度を望むなら、欧米のようにほとんどすべての教育の無料化を実現してからにすべきでしょう。何しろOECD国の中で教育費の公的負担が最低の国が日本なのですから、私利ばかりを追求しているとしか思えない弁護士養成制のために、給費制度を復活するなどとんでもないことであります。
 それに弁護士自身が書いていることですが、法科大学院の学費が高いのは教授陣に弁護士が多くて給与が馬鹿高いせいであるとのこと。かんぐれば、そういうやり方で稼いでいる弁護士センセーの給料を出すために司法修習生の給費制度を復活しろと弁護士会は運動しているといえないことはないでしょう。


by 井上信三 (2010-09-17 14:17) 

hm

 井上さん

 コメントありがとうございます。

 部分的には、近い考えの部分もあります(教育費無償化の点など)。
by hm (2010-09-21 12:19) 

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