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NOVA訴訟確定 ~ 弁護士の心意気!  [消費者事件]

 今日は,普通の弁護士日記です。

 新聞一面を見ると,このニュースがありました。

 これは,もう,弁護士の気合い,根性,心意気!というのが私の感想です。

(ニュースより引用)
受講料返還訴訟、NOVAの2件の上告棄却
 英会話学校大手「NOVA」(統括本部・大阪市)との受講契約を中途解約した東京都内の男性と、京都市内の女性が、未受講分の受講料の返還を求めた2つの訴訟の上告審で、最高裁第3小法廷(那須弘平裁判長)は3日、NOVA側の上告をいずれも退ける決定をした。
 男性は約61万円、女性は約18万円の返還を求めていた。NOVA側に請求全額の支払いを命じた1、2審判決が確定した。
 NOVAの中途解約を巡っては、同小法廷が都内の別の男性(39)が起こした同種訴訟で同日、「中途解約時に、既に受講した授業分の単価を、契約時より高額で計算して差し引くことを定めた規定は、特定商取引法に違反し、無効」とする初判断を示し、NOVA側の上告を棄却する判決を言い渡している。
- 読売新聞 [04/03(火) 19:53] (引用終わり)

 この事件何が争点でどういう判断が示されたのか,というのは,代理人として訴訟活動をされた杉浦弁護士のHPhttp://www.psylegal.com/NOVA2.htm

を参照してください。

 特定商取引法という法律の話なのですが,昔は何でも契約したら,

「途中でやめても一切お金は返しません!」という商売が割と許されていたのですが,それでは,知識も力もない消費者が強引な勧誘に負けたりして可哀想な目に遭うことが多かったので,

 特定商取引法49条というので,英会話とか塾とかのように「継続してサービスを受ける」種類の商売の場合,

「途中でやめたくなったら中途解約できるよ。」

「その場合,サービスを受けなかった分お金で精算してもらえるよ。」…※

ということに決めたのです。自営業者である私としては,「一旦もらったお金を後で返すのは何だか損した気分。ぷぃ~~~!!」という業者側の心情はわからないではないけれど,でも,やっぱりサービスをしない分も代金をもらえるのはおかしいから,「清算する(返金する)必要がある」という新しい法律は正しいと思います。

 で,ここ※の清算の仕方について,NOVAは特殊ルールを定めていたという話なのです。これは,NOVAが実施していた前払割引という制度とも関係あるのですが,

「300回分前払いして,半分受講したところで『やめる』と言ったら,返金されるのは半分ではなくてわずかのお金しか返金されない」

というルールになってしまう,というものです。

 何でやねん?とツッコミますと,NOVAの規定によれば,

前払するときの授業の単価は安い(割引料金) けど 解約するとき未だ授業を受けてない分の清算する単価は高い(通常料金)

ということになるそうです。NOVAいわく,こうしなければ「前払して途中でやめた人は,前払割引だけ受けて途中でやめちゃうので,『得をしちゃう』からズルい!他の生徒さんと比べて不公平だ。」というんだそうです。んん,んなこと言われるとそんな気もしてきた…??

 でも「契約っちゅうのは,あるお客さんとNOVAの一対一でやってるわけよ。『他の生徒との不公平』とか,知ったこっちゃないやん!ぷぃ~~~」というのが消費者側の反論で,そっちが裁判所には支持されたわけです。わたしもこれに賛成(特商法という法律も顧客の平等ではなくて,契約した当該消費者対業者の関係を調整する法律だから,これでよい。)。

 多分以上のような話だったということで,だいたい合っていると思いますが,正確には,上の杉浦弁護士のサイトで御確認下さい。

 

 さてさて,さても,これは,弁護士の気合いだ,というのは,今日「とくダネ!」でも杉浦弁護士が出て言われていましたが,

「30万円の訴訟で,弁護士に頼むとそれぐらいかかってしまう。泣き寝入りしている人は沢山いる。」

その通りです。

 弁護士がぼったくっているわけではありません。この事件,30万でやってもきっと赤字です。

 それが消費者事件の多くの本質で,NOVAがそうだというのではなく一般的に,

「弁護士を頼むと費用倒れになるほど額が小さい範囲である」がゆえに,法律に反しても,顧客側は訴えないことが多いというのをいいことに無茶をする業者もいる

ということなのです。

 さてさて,実際には,「赤字覚悟の事件ばかりをどんどん引き受けて悪い業者をやっつけまくる」なんてことが心おきなく出来るのは,一生お金の心配がないような超セレブ弁護士だけです。

 だから,今回のような杉浦弁護士らの気合い!による勝訴は,すごい!と拍手なわけです。と同時に,同業者からすれば,気合いやなぁ~と思えるわけです。「気合いは途を拓く!!」だなあ,と。

 じゃあ,基本的に消費者は救われないか?ということでもイカンので,一つ私からアドバイスです。

「お金を取り返すには裁判費用がいる。難しければ弁護士費用もいる。」

これ裏返せば,

「業者が客に支払い請求するには,客が拒めば,裁判費用・弁護士費用と手間暇が要る。しかも,拒否に正当な理由があれば,裁判で争っても,NOVAのように最高裁までしつこくやったあげくに負ける。」

ということです。

 給食費のような不払いをすすめているのではありません。そんな当たり前のものはちゃんと払わなければダメです。人としてダメよ,の世界です。

 そんなのではなくて,もし悪質商法に引っかかったりした場合,悪質商法ではなくても法的に問題のある代金について,代金が未払いのうちは,払ってしまわずにきちっと理由を表明して支払を拒否することが最強の方法ということです。

 だから,そもそも,「前払」などというのは極めつけ不利な契約だということがお分かりいただけるでしょう?そんな気前の良いことしちゃダメ!

 おかしいときの支払拒否の理由が,消費者契約法であったり,特定商取引法であったり,それによるクーリングオフであったりするのですが,結構色んな場合に「拒否」できるような法律の仕組みになっています。だから,

おかしいな?と感じたとき,「払ってしまうまえに」弁護士や各都市の消費生活センター(http://www.ddart.co.jp/shouhisha/hyougo.html 私もN市で顧問をしています)に御相談いただければ,上手くいくor被害を最小にすることが出来ることが多いです。

 消費生活センターは無料で相談してくれるし,地方公共団体のちゃんとした機関なので,特に数十万円の被害の場合,弁護士に駆け込むより前に相談されるのが経済的にはお得です。

 いつも,N市などの消費生活センターの方とお話しさせていただいていますが,相談員の方は本当に頼りになるしっかりした方ばかりなので,是非多くの市民の皆さんが活用されて,良い経済生活を送って下されば,と思います。


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 これはいい!この記事、すんげー納得!niceを5つつけたいくらい。
 「泣き寝入り」する人の気持ちはよくわかります。自分の権利や正当な要求をするのは、気力も体力も勇気も要りますからね。でも、正当なことを要求することが少なければ、不当なものがはびこることになる。それはマトモな国家の状態じゃあないですよね。
 だから、自分の損得だけでなく、主張すべきことは主張していかないと。話が飛びますが、そういう点で、東京で「君が代不起立」の先生方を、私は全面的に支持しています。
by (2007-04-07 20:10) 

hm

shiraさん 有り難うございます。
 
 本当に仰るとおりで,裁判でたたかうこと自体が普通の人にはもの凄く負担なわけです。
 その人の人生・生活全体の中で,そのたたかいがどれほどの価値があると考えるかという問題に直面します。
 
 その意味では,弁護士としてアドバイスするときに,本当にその人にそこまでしてたたかうメリットがあるかor覚悟があるかをよく考えてもらうことが重要だと感じることが多いです。

 しかし,何らかの巡り合わせで,「これは俺がやらなきゃいけない」と思う場面にぶち当たった場合は,それを宿命と思って,(自分以外の人も通れる)道を拓くためにエネルギーを注ぐことには,大きな価値があるのだろう,と思います。
 本当に大変なことですけどね…
by hm (2007-04-10 11:51) 

杉浦幸彦

 悪口を書かれているのではないかとNOVAの最高裁判決の記事を検索していて,本ブログを見つけるに至りました。
 もったいないような賛辞を送っていただきありがとうございました。そんなに気合いも根性も心意気もなかったのですが,最高裁がなかなか判断してくれなかったことで疲れました。ただし,その結果,経産省の立ち入り調査もあり,いつの間にか意外にも大事件になってしまいました(所詮,上告を受理しないとの決定で終わる可能性が高いと思い,何もしなければ報道すらしてもらえない可能性が高いとの考えから,かなり前から記事にしてほしいと報道機関に働きかけていました)。
 現在,勢いで,名古屋でもNOVAとの訴訟を1件やっています。1審は,気合いも根性も心意気もお金も時間もなかったせいで,思わしくない結果となってしまいましたが(最高裁の判決の限度で勝ったにすぎません),名古屋高裁は気合いと根性とやせ我慢で少しは頑張ろうと思っています(とはいえ,結局は控訴理由書次第であってそんなに期日を重ねることはないと思っています)。いくつかの論点で当方が勝った暁には,報道ぐらいはしてくれるかなと思いますので(記者の取材や記者会見の場で「名古屋事件はおもしろい」と宣伝しておきました),今後ともNOVA事件を注視していただければ幸いです。
by 杉浦幸彦 (2007-04-11 00:59) 

hm

杉浦先生
 
 本当に大変な労力があったこととお察ししますが,見事な成果,尊敬いたします。

 私から見ても,特商法の趣旨からすれば当たり前のことだと思いますが,実際にそれをその通りに「代金返還」させようとした場合,それだけの労力がかかりますよね。
 
 NOVA関連訴訟についても部分的にしか私は知らず,先生のサイトを見せていただいて勉強させていただいているところです。

 今後とも先生の御活躍を祈念するとともに,激務と想像しますので,どうかご無理なさらぬように(矛盾するのでしょうが)と願っております。
by hm (2007-04-11 10:16) 

杉浦幸彦

 早速のレスありがとうございました。「労力」という先生のことばを契機として,最高裁の件で何度裁判所にいったのかと考えたところ,6回だろうということになりました(簡裁2回,地裁1回,高裁2回,最高裁1回。ただし,最高裁を除き,判決言渡しには出頭していませんのでカウントしていません。NOVAが移送の申立をしたため,簡裁の2回目の期日は移送決定しただけで終わってしまい全くの無駄でした)。最高裁判決まで実質4回の期日回数をどう思われますか?
ちなみに今やっている名古屋の事件の原審では電話会議システムを使った手続は何度かやりましたが,私自身1回も裁判所に行っていません。
by 杉浦幸彦 (2007-04-11 10:48) 

hm

 杉浦先生
 
 う~んどうなんですかね?
 事実関係そのものには殆ど争いのない法的解釈の事件ですよね。
 労力というのは,やはり,(典型的事件でない事件での)法解釈論における精緻さ等についやすものが中心(つまり準備書面作成中心)だったのではないかと想像しますが…
 
 期日の回数は少ないですね。
 解釈論が争点だとすれば,訴訟指揮や双方の書面のスタイルによって,きちっとかみあった議論がなされていれば,あるいは,裁判所がそういう整理をきちっとしたうえで判断できておれば,この程度の回数弁論を開くことで足りるのではないか,とも思います。
 しかし,審級が…
 NOVAもしつこかったのですね…
by hm (2007-04-12 10:42) 

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