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こぼれ原稿~戦後教育を知っていますか? [だから,今日より明日(教育)]

 パソコンのデスクトップを整理していて,ふとこの原稿に気づいた。教育基本法「改正」問題に関連して,このブログにアップしようと思って書いた文書ファイルだが,アップしそびれていた。

 日にちをみると昨年11月上旬のもの。きっと,同時期に「タウンミーティングやらせ発覚」のニュースがあってアップせぬ間に飛んでしまったようだ。

 教育基本法「改正」はされてしまったけれども,教育の現場の力,創意工夫の力をみなが信じ,それを育ててゆくのが,子どもたちのため,私たちの明日のためだという考えは私は全く変わらない。

 その意味で,現場の創意工夫がいかに力を持っているか,それを私が本を読んで感じた内容を記した原稿なのでここにアップしたい。

 もちろん,この本は「偉大な教師」のエピソードをまとめたものであって,反面,戦後~現在の教育現場に様々な問題点があることも確かだ。が,それでもなお,教師が現場で知恵を絞ること,創意工夫をすることの力が計り知れないことを,国民も文科省も信じ,その力を引き出さなければ教育は豊かさを失ってしまうと思う。現場における「負の出来事」にもやはり,現場での知恵・創意工夫によって対処するしかないのであるから。 

 豊かな知恵と創意工夫が産まれる条件,それが何かを見つめ直したうえで教育改革論議をすべきだ。

(以下,こぼれ原稿) 

「戦後教育を知っていますか?」

 私は正直よく知らない。だから,本を読んだ。

「時代を拓いた教師たち ~戦後教育実践からのメッセージ」 日本標準 田中耕治著

 このところ,「戦後教育のせいで…」とか,「戦後教育の弊害で…」とか言う人がいますよね。
 でも,「戦後教育」って何やろ?と思っても,よく分からない。
 私自身は,75年生まれで,小中高で言えば,81年~92年まで12年間という「断片」しか「教育」がどんなものだったか知らないわけです。
 「戦後教育」という言葉の意味からすれば,戦後1945年~2006年まで60年間の「教育」の営みが,「戦後教育」なわけで,それは改めて調べてみなくては,良いものか悪いものか分からない。
 ということで,読書!

 15名の教育者たちの取り組みを,時代の流れと共に伝える内容でした。

 いやー面白かった!!
 とても感動しました。15名のうちの1人に,私の大好きな遠山啓先生(算数数学)も入っているのですが,その他の14人は元々全然知りませんでしたが,

「もの凄くアツい教育者が日本にはこんなにいるんだ!!」

と思ってとても新鮮でした。
  本当にこの国に生まれ育って良かった!だって,こんなアツい人たちに育てられたんだから!と思った。
 
 私の言葉と共に,一部を紹介しよう!
 
1 「むずかしい理論,高い思想,深い感動を,みんなにわかるやさしい,平らな,なめららかなことばで伝えていかなければ,文化はみんなのものにならないのだ。」と説いた女性国語教師  大村はま

 このはま先生の言葉に,私は深く共感した。
 弁護士村上英樹のやるべきことはこれだ。
 法律を市民みんなのものにするのだ。
  
2 算数の分野に,真の理性の光をあて,子どもたちに真の合理的理解と納得を得させたうえで計算を指導することを可能にした水道方式の親 遠山啓
 
 盲目的なドリルに苦しむ子どもたちを救い,「落ちこぼし」を作らせず,できる子にも苦手な子にも,算数数学の楽しさを伝えた。
 遠山氏の孫へのプレゼントは,「さんすうだいすき」(ほるぷ出版)という大作の,さんすうおもちゃ教具+絵本セットであった。
 そして,遠山氏の人間への深い愛と比類なき頭脳と執念は,たしかに未来へ引き継がれてゆく…
 
3 遠山の水道方式に学び,「落ちこぼれ」を出さない実践を目指した,百マス計算産みの親 岸本裕史

 遠山氏らの数学教育教育改革運動に学びつつ,実践の中で,「百マス計算」を産み出した。
 計算の習得の段階を分析し,一通りの理解が確実となった後の,計算「手続の自動化」のために,独自の工夫した練習法を実践した。有名な蔭山英男氏が取り入れている「百マス」はこうして生まれた。
 
4 「金八先生」も読んだ「学力挑戦への挑戦」~一円玉を顕微鏡で覗いて,「底辺校」の高校生全員に「微分積分」を身につけさせた 仲本正夫

 金八先生は,初期,トシちゃんやマッチが生徒役で出ていたころのシリーズで,教師が数学「落ちこぼれ」を「ダボハゼ」と罵倒したのを聞き,その教師の教育観を改めるため猛然と奮起する。
 そして手に取ったのが,「学力への挑戦」仲本正夫の書だった。
 
 仲本正夫も,遠山啓らの数学教育協議会が工夫した教材・教具を通じて数学の本質を発見し,「つまづき」「落ちこぼれ」ている高校生たちにも学力を保障することは可能であるという信念を持ち実践した。
 それが,金八先生にも引き継がれているというのだから,教育の発展というのは,偉大な先人たちのバトンリレーだ。

 ちなみに,一円玉を顕微鏡でのぞくと,一円玉の縁の丸い部分も,倍率を150倍くらいにすれば「直線」に見える。これが微分の本質だ,という意味だ。
 面白い!
 
5 「15分で,跳び箱は誰でも跳ばせられる」と主張し実践した 向山洋一
 
 向山いわく「私もまた,15分で全員を跳ばせることができる。…『跳ばせる技術』を,跳ばせられない教師に,5分で教えることもできる。」
 向山は,優れた教育実践は歴史的な財産であり,教師の世界の共有財産でなければならない,「私的財産」「隠し財産」にしてはならない,と主張した。
 
6 妊婦やガン患者,障害をもった人を教室に招き,「いのち」を教え,「100%生きる」ことの大切さを教えた 金森俊朗
 
 ここはまさに現代の課題そのものだ。本文を引用しよう。
 「たとえば,給食が始まるときにはすべての食材を子どもに調べさせ,自分たちが他の生物の命のもと(卵など),命を育てるもの(牛乳など),命そのもの(ネギなど)を食べていること,その種類が膨大な数にのぼることに気づかせる。」
 子どもたちに,「『いのちのリレー』のか細さや,奇跡的な存在としての自分たち」を気づかせる。
 「いじめによる自殺というニュースが報道されるたび,道徳教育の教科が叫ばれたり,『命を大切に』というアピールが出されたりする。しかし,命の教育は,教師が『命を大切にしましょう』と言い,子どもが『命を大切にしたいと思います』と答えるだけでは成り立たないものである。生活教育の思想に裏打ちされ,豊富な体験と言葉を使った交流に支えられた金森の『いのちの学習』は,そうした言語主義に陥った教育に対して鋭い批判を投げかけている。」

 
 どの人もみんなもの凄い先生ばかりだ。
 そして,どの先生も,その時代その時代の課題と真っ正面から向き合い,そしてなにより,子どもたちひとりひとりと向き合い,

真に子どもたちが必要としているのは何か

を見つめ,自分の信じる教育実践を産み出した。
 創意工夫の宝庫である。

 戦後の教育とはこのような,偉大な教育者たちの努力と実践の結晶であったことがよく分かった。
 もちろん,時代は戦後から始まったのではない。戦前からもずっと引き継がれてきている。その前にも教育の営みがあり,偉大な教育者たちがいたはずだ…

 この本を読んで,少なくとも私は「戦後教育のせいで…」などと軽々しく言いたくないと思った。
 だが,この本に紹介される偉大な教育者たちと同じ心を持って

今の社会,今の教育現場,今のこどもたちに何が必要なのか

を真っ正面から見つめ,その課題に対して,

私たち自身の頭で,創意工夫を凝らして,途を拓いてゆく

ことを考えていきたいと思いました。
  


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keiko

1 の大村はま先生のお言葉ですが, 「文化」のところを「憲法」にすると,
「やさしいことばで日本国憲法」 になるなあ,と思いながら読みました。
村上先生のコメントがそのものズバリだったので,大変うれしく思いました。
by keiko (2007-03-29 18:46) 

 hmさん、75年生まれだったんですか。
 慶応大の小熊英二氏によると、75年というのは、戦後の発展がひと段落して、バブルに向かう混乱もまだ起こっていなくて、ある種の安定状態があった時期だというんです。今「戦後」を批判する人たちは必ずしも戦前派でも戦中派でもなくて、40代だったりするんですが、そういう人たちが拠り所としている「古き良き時代」はこの75年ころなのではないか、と小熊氏は指摘しています。
 戦前の青少年の状況については「少年犯罪データベース」と「無限回廊」というサイトがオススメです。これ見ると、戦前から昭和30年代の青少年って、メチャクチャですよ。
by (2007-03-29 22:41) 

keiko

金森先生のお話は,新聞の地方版でコラムになっているので時々見ていました。
いのちの大切さ は親が教えるものだ,というのが私の考えです。
それをどういう訳かしなくなった・出来なくなった現在の親に代わって,この細やかさで教えている金森先生には頭が下がります。
言語主義には限界があります。それ以外の方法で子供と向き合うのには,かなりの手間と時間と工夫が必要です。金森先生の強い情熱がすごいです。
by keiko (2007-03-30 06:02) 

hm

>keikoさん
 コメント有り難うございます。
 言葉の力を信じそれをみんなのものにしようとした大村先生,言葉だけでなくそこにある内実を教えようとした金森先生,ともに素晴らしい先生ですよね。
 これが一部の優れた先生というだけでなく,もっともっと当たり前のように各地の現場で多種多様な創意工夫の花が開くようにと願います。
 そのための教育改革論議であって欲しいと願います。

>shiraさん
 サイト紹介有り難うございます。
 今の子どもがおかしい,凶悪化している…という危機感を過剰に煽る言説が(無批判なかたちで)溢れかえっているところが,教育を巡る昨今の議論の,第1・第2ボタンあたりの掛け違えを生んでいないか?という風に思います。
 客観的事実の認識をまず丁寧に行うこと,本当に大切ですよね。
 参考になりました。
by hm (2007-04-10 11:59) 

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