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「難しく考えすぎ?」~個人情報保護法に対する過剰反応? [時事ニュースから]

 久しぶりに法律の難しいお話しです!!
 と一瞬思いきや,なんのことはない,本来は簡単な話。

 以下のニュースですが,先に要約すると,鹿児島の高速船事故で,
「けがをした人の情報を,『個人情報保護法があるから』と言って病院が教えてくれないので,被害状況の把握をしないといけないひとが,教えてもらえなくて困っている。」
 という話です。
 その話をもとに,法律をどう扱うべきか,を話してみたいです。 
 答えは単純「普通に考えようぜ」というだけです。
 
(So-netニュースより引用)
海保の負傷者情報収集が難航…個人情報保護が壁に

 鹿児島県・佐多岬沖での高速船事故で、事故直後、鹿児島海上保安部が負傷者の情報を収集する際、搬送先の医療機関から「個人情報保護の観点から電話では言えない」と次々に断られ、捜査が難航していたことが分かった。

 負傷者が100人以上と多数だったこともあり、第10管区海上保安本部(鹿児島)の幹部も「人命救助や被害の把握を最優先し、柔軟に対応してほしい」としている。

 鹿児島海保によると、事故発生後の9日深夜から翌10日未明にかけ、少なくとも約80人の負傷者が、同県指宿市と鹿児島市の十数か所の病院などに運ばれた。

 同海保は、負傷者が到着した二つの港で負傷者の氏名や搬送先などの概要をまとめ、各医療機関に電話で確認しようとしたが、「個人情報にかかわることは言えない」と大半は断られた。

 このため、すべての搬送先に海上保安官を派遣、海上保安手帳を提示して身分を明らかにした上で、ようやく人数や氏名、負傷の程度などを確認できた。負傷者情報の取りまとめには最終的に4日を要した。

 厚生労働省のガイドライン(指針)の事例集では、医療機関は災害発生時などに捜査機関の照会に対し、負傷者の住所や氏名、負傷程度などを答えられる。堀部政男・中央大法科大学院教授は「今回の対応は過剰反応ではないか」と指摘している。(以下略)
                                   [ 04月13日 03時11分  ]
                                            (引用終わり)

 新しい法律が出来ました。
 法律に書いてあることは守らなければならない。
 そういう,法を守る意識は当然必要です。大切です。
 
 でも,誰しもその法律の全てを知っているわけじゃないですよね?
 だとすれば,まずは,「当たり前の常識」で考えなければなりません。
 
 海上保安部の上のような問い合わせは,人命救助がより適切に行われることや被害実態の把握に役立てる,要は「みんなのいのちのため」なので,それは情報を教えないといけないんじゃないかなあ,と普通なら考えるでしょう。

 それが正解!!です。法律に照らしても正解!!です。
 基本的には法律は,その時代の社会の常識に近づけて作られているはずだからです。

 個人情報保護法の第23条1項の1号,2号,4号あたりをみれば,この場合,病院が情報提供することは法律の明文で許されていると解釈することができるはずです。(上のニュースで言う「ガイドライン」も,この条文に基づいて作られているはずです。)

 (個人情報保護法の条文)
第二十三条 個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。
一 法令に基づく場合
 二 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難で
あるとき。
(略)
四 国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対し
て協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすお
それがあるとき。
                                           (条文引用ここまで)

 でも,病院の窓口の人を責めることは出来ません。窓口は大混乱だったでしょう。
 本当は,各病院が,しかるべき部署で,個人情報保護法の趣旨(「こころ」です)を理解して,情報の取り扱いについて正しい考えを持って,方針をきちっと決めて対応しなければいけなかった,という話です。
 「電話だったから本当に保安官かわからない」も余り理由にならず,それなら,その場で保安本部にかけ直せばいいだけだったでしょう。

 もっと言えば,個人情報保護法は,

個人の情報を,本人が望まない使い方で使わない

というもともと当たり前のことを書いただけの法律であって,何も難しい法律ではない。
 だから,「何でも教えちゃダメ!」ってわけではないし,何も難しく考えなくていいのですよ,ということを,社会に広く知ってもらうべきだ,そういう努力を国もしておくべきだ,ということだと思います。
 
 個人情報保護法の何条にどう書いてあるか,など一般の人はいちいち知らなくて良い(弁護士も一々覚えていません。六法を開けば見つけられるだけです。)けれども,その法律の「こころ」だけは知っておいた方がいいです。
 「こころ」をしらずに,「かたち」の一部だけなぞれば,とんでもない間違いを起こします。

 実は,個人情報保護の「過剰反応」は,病院関係以外の他のケースでもたくさんあります。酷いものでは,本人が自分に関する情報を教えてくれと言ったときに「個人情報保護法があるのでダメです」などという対応まであります(こんなのは論外ですが…)。
 結果として,ごくごく正当な権利行使すら出来ず,ものすごく困る人がたくさん出てきています。
 
 で,法律に関しては,「間違い」は間違える人が悪い,といってすむことではありません。
 国会が「わかりにくい」ものを作ってしまったのではないか。
 官庁の広報が足りなかったのではないか。
 だとすれば,「過剰反応」が起こらないよう方策をとる,もしそれが出来ないなら法改正も考える,これも国の責任だと思います。
 これは,一法律家としても見過ごせないな,という記事でした。 
 「伝わってこそ法」なのですから。


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