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弁護士は何でも調査できるのか?~弁護士の調査能力、弁護士会照会など [弁護士業について]

 よく尋ねられることの一つに、

「弁護士さんって、他人の住所とか、貯金とか、何でも調べられるのですか?」

というのがあります。

 今日は、弁護士の調査能力についてお話ししたいと思います。

1 弁護士には「捜査」能力はない
 
 調査、といって、一番強力なものとして何を思い浮かべますか?

 そう、警察の「捜査」ですね。
 特に、いわゆる「ガサ入れ」(家や事務所などに対する、捜索、差押というやつです)などは、刑事ドラマなどでもおなじみです。
 タンスなどもひっくり返して無理矢理調べることができる(しかも、片付けずに帰ってしまうというアレです)。
 これは、「強制捜査」の一種で、警察や検察にしかできないことであり、しかも、裁判所が出す令状があってはじめてできることです。

 弁護士は「強制捜査」はできません。
 ですので、基本的に「調べられるのはいや」という相手に対して調べることはできないのです。

2 しかし、弁護士だからできる調査方法はある!
 
 では弁護士には、調査能力が全くないか、といえばそうではありません。
 
 受けた事件に必要なことであれば、いくつかの方法で、弁護士でない人には難しい調査ができることがあります。
 それを順に紹介しましょう。

3 住民票・戸籍の調査

 お金を貸したけれど返してくれない相手を訴えるために住民票を調べることなどができます。

 また、訴えたい相手がいるけれど既に死亡している場合などは、その相続人を調べるために戸籍を調査することもできます。

 ただし、あくまで、事件の処理のため必要な範囲で他人の住民票・戸籍謄本が取れるという話です。
 「あの人に隠し子がいるかどうか興味本位で調べてみたいから弁護士に委任して調べてもらう」というような「調査のための調査」はできません。

4 普通の文書・問い合わせによる調査
 
 これは別に弁護士だから、という特別な方法ではありません。
 
 例えば、亡くなったおじいちゃんの晩年のお金がたくさん無くなっていたという場合に、身近な人に使い込まれたんじゃないか?と疑ったとします。

 そのころのおじいちゃんの体や判断能力がどれくらいのものだったかを調べ、使い込まれる状況に合ったかを確かめたいということがあります。

 そんなときに、おじいちゃんの様子を見ていた人、例えば、出入りしていたヘルパーさん、介護事務所などに、文書や電話で、「そのころのおじいちゃんの心身の状況について教えて下さい」と尋ねるなどです。

 これは弁護士でなくても誰でもできます。
 しかし、プライバシーのこととか、紛争に巻き込まれるのがイヤとかで、普通に訊かれても「回答しません」という場合でも、弁護士が回答を求めると答えてくれる場合があります。

 弁護士ってそんなにえらいのか?と思われるかも知れません。

 が、「えらい」というわけではなく、紛争解決については、弁護士は弁護士法という法律上特別の役割が与えられた存在なので、そのことを信頼して回答してくれるということがあるのです。

5 弁護士会を通じての照会(23条照会)

 最近(平成28年10月19日)、これに関する最高裁の判決がありました。
 
 このニュース

(引用)
転居先照会、愛知弁護士会が敗訴 最高裁逆転判決
毎日新聞2016年10月19日 中部朝刊

弁護士法に基づく情報照会(弁護士会照会)の回答を拒んだのは違法として、愛知県弁護士会が日本郵便に約30万円の損害賠償を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷(木内道祥裁判長)は18日、「回答を拒絶されても弁護士会は損害賠償請求はできない」との初判断を示した。その上で2審判決のうち日本郵便に1万円の支払いを命じた部分を破棄した。愛知県弁護士会が賠償を求めた部分の敗訴が確定した。


 弁護士会照会は、裁判の証拠を集めるため依頼を受けた弁護士会が公的機関などに資料の提出を求める制度。判決によると愛知県弁護士会は2011年9月、民事訴訟の和解金を払わない相手先に強制執行を求める男性から依頼を受け、日本郵便に相手先の転居情報の回答を求めたが、「郵便法の守秘義務がある」と拒否された。

 小法廷は同制度について「照会先は正当な理由がない限り、回答をすべきだ」と言及。その一方で「弁護士会に照会権限があるのは制度の適切な運用を図るために過ぎず、賠償請求の前提となる法律上保護されるべき利益はない」と判断した。

 小法廷は、弁護士会側が日本郵便に回答義務があることの確認を求めた請求については2審で審理が尽くされていないとして、審理を名古屋高裁に差し戻した。同会の弁護団は「最高裁は正当な理由がない限り回答すべきだと示した。意義ある判決だ」と述べた。日本郵便は「コメントは差し控える」としている。【島田信幸】
                                    (引用終わり)

 タイトルの通り、弁護士会が裁判に負けたという悲しい判決なのですが、中身はいいことも言ってくれています。

 このニュースにあるとおり、弁護士は弁護士会を通じて「照会」ができます。
 弁護士法23条の2という条文に根拠があります。
 それで、この「照会」のことを「23条照会」とも呼びます。

 弁護士が、弁護士会を通じて、事件に必要な調査を「公私の団体」相手にかけることができる、という制度です。

 ニュースに補足ですが、この最高裁判決(本文)は次のように述べています。

「23条照会の制度は,弁護士が受任している事件を処理するために必要な事実の調査等をすることを容易にするために設けられたものである。
 そして,23条照会を受けた公務所又は公私の団体は,正当な理由がない限り,照会された事項について報告をすべきものと解される」

 弁護士は、トラブルを裁判などで解決しなければならないわけですが、正しく解決するためには真実を知ることがとても大切です。
 なので、こういう制度があるのです。

 ですから、照会を受けた団体は(拒否する)正当な理由が無い限り答えるべきだ、と最高裁が言っているということです。

6 裁判を通じた調査

裁判の中で、相手方に対しては、
・ 証拠として、必要な書類を出すように要求する(「求釈明」と呼ばれます)
・ 裁判所から文書提出命令を出してもらう方法
などがあります。
 例えば、労災事故が起こって、会社に対して、事故に関係する会社内部の文書(調査報告書など)を出して下さい、などと求める場合などです。
 文書提出命令に逆らっても犯罪になるわけではありませんが、その文書に関係する部分について不利な判断がされる場合があります。

 また、裁判の当事者以外に対して(例えば、兄弟で相続について争っている場合に、亡くなったお母さんの預金を調べる場合。銀行など)、
・ 文書送付嘱託(口座の金銭の出し入れ履歴を出して下さい、など)
・ 調査嘱託(そもそも口座がありましたか?という質問など)
というのを、裁判所からしてもらうことがあります。
 「嘱託」というのは「依頼する」というくらいの意味ですが、裁判所からの依頼なので、銀行などもこれに応じて資料を出してくることが多いです。

 さて、裁判を起こさない限り上のような手段が採れないのか?という問題があります。
 そこで、「裁判にできるものか見込みが分からないけど、とにかく調べるために、裁判を起こしてみるしかない」という感じで裁判を起こす、という発想が出てきます。
 これはちょっとまずいです。
 最終的に勝ち負けがあるし、予想通りにならないこともあるのは裁判の常ですが、「勝負になるかどうかも分からない」裁判がたくさん起こされたら困る。裁判所もパンクするし、何より訴えられた人はたまらない。
 こういう不都合をなくすために「訴訟予告通知制度」というのがあります。

 「訴訟予告通知制度」というのは、裁判を起こしたわけではないけれども、起こすことを予告して、上に書いた「文書送付嘱託」などの調査ができるという制度です。
 その調査の結果、入手できた書類を見て、「これでは裁判は無理だ」と思ったら、訴訟をやめればよい、というものです。
 結果、「あてずっぽう」みたいな裁判が減り、ちゃんと根拠のある裁判が増える、ということを目指した制度です。
 この制度も、依頼事件によって有効に活用したいものです。


 以上、弁護士がどんな調査をするのか?について解説しました。

 何かの事件を依頼するときには、できるだけ自分で資料を集められる限り集めて頂き、弁護士に見せて頂くのがよいです。
 ですが、自分1人でできることには限界がありますから、

「どんな証拠を集めればいいでしょう?」
「それにはどうすればいいでしょう?」
「自分は何を? どこからは弁護士に任せていいか?」

ということも含めて、弁護士に相談して頂くのが良いと思います。

              神戸シーサイド法律事務所                             弁護士 村上英樹
   

 





 
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コメント 2

ayu15

うちの中で漠然としたイメージなのが具体的に解説されていますね。

司法書士
探偵
税務署など警察以外の行政

それぞれ違うでしょうけど素人にはわかりづらいです。


それに・・・・情報は漏れますから(マイナンバーに紐付けされた情報は漏れます)

調査・情報収集・j情報管理など考えさせられます。
コンピューターでオンライン化されそこに蓄積されそこで管理され、それを下に実体ある人が言動をおこす社会。


弁護士の方も大変そうですね。

by ayu15 (2016-11-23 09:38) 

hm

ayuさん

 コメントありがとうございます。
 おっしゃるとおり、どんどん個人情報は丸裸に近くなっていると思います。
by hm (2016-11-24 17:24) 

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