戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗~加藤陽子著 [読書するなり!]
日本が太平洋戦争に至った過程で、大きく選択を迫られていた3つの場面、
リットン調査団報告に基づく勧告を受け入れるか
日独伊三国同盟
1941年の日米交渉
を取り上げ、日本の置かれていた状況を、中高生との講義実況の形で本にしたものです。
まず、そのときどきの国際情勢がどうであったかということの整理として大変勉強になる本でした。
大雑把に捉えて「戦争に進んだのは誤りだった」ということ自体は結果から見て否定しようがないことだとは思いますが、その前段階で、例えば自分がその時代の政治家だったら、一体どういう選択を強いられていたのか、ということを知るのは有意義だと思いました。
戦争の結果を知る私たちとしては、おそらく多くの人が、「どうにか止められなかったのか」という風に思いながらこの本を読むことになります。
そうしたときに、
・ 政治家の中でも、冷静な判断で、戦争を拡大しないようにすべきという意見を言った人もいた。
・ 外国にも、日本のメンツを立てた上で事態を収束しようとする動きがあった。
などのことが具体的に分かるのですが、その時代の現実を考えるとき、
・ 誰か、個人的に判断力のある政治家がリーダーだったら止められたのか。
・ あるいはそれでは不可能だという、国家のシステム上の問題があるのか。
・ その他に、日本の意思決定に影響を及ぼす強い要因がどのようなものか。
・ それぞれの要素がどの程度強いのか。
などを深く掘り下げて考えるきっかけになる本でした。
実際に、加藤氏が中高生相手にこのような授業をシリーズ物として行ったというのですが、それは、未来の平和な世界を創造するための大切な勉強になることだっただろう、と思います。
「戦争はあかん」ということを伝えていくことはそれ自体大事です。
ただ、今の私たちの世代も若者も、みんな「戦争はあかんのはわかっとんねん」といいます(本当にわかっているかどうかはともかく)。
そして、「戦争があかんとして、じゃあ、どうすればいいのか?何もしなくて平和が守られるのか?」というところが問題。
そうしたときに、なぜ戦争が起こって、あるいは、どういう風になれば国際紛争が戦争になってしまうのか、それを止めるために具体的に何が必要か、などの実際を考えてみる。
それを過去から学び、現代にも通用するものがあるかを考えてみる。
こういう大事なことを考えるきっかけや視点を与えてくれる本でした。
どなたにもオススメの本です。
神戸シーサイド法律事務所 弁護士 村上英樹
追補
最初、こっちの本をタイトルに挙げていたのですが、私が読んだのは「戦争まで」のほうでしたので、タイトルと冒頭のリンクを変更しました。
2016-10-06 16:38
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国と国とが戦争に至るには、子どもの喧嘩と違って、いろんな事情があるし、お互いの言い分があるのが当然だと思います。問題なのは、戦争に負けた日本の言い分はまったくと言っていいほど戦後生まれの国民には伝えられていないことだと思います。当時の世界の価値観は、弱肉強食、適者生存が自然の摂理である。よって、優秀な白人が劣った有色人種を武力で支配するのは当然だという風潮にあったということを抜きで考えるとおかしな話になりかねないと思いますが。、、
by 心如 (2016-10-07 01:24)
心如さん
ナイス、コメントありがとうございます。
ご指摘の通り、当時の世界の状況をリアルに見てこそ、本質に迫れるものだとおもいます。
by hm (2016-10-07 09:41)