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夏の読書感想文~「誰も書かなかった武豊 決断」(島田明宏 徳間書店) [読書するなり!]


誰も書かなかった 武豊 決断 (一般書)

誰も書かなかった 武豊 決断 (一般書)

  • 作者: 島田明宏
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2014/04/16
  • メディア: 単行本



 今年もこの季節がやってきました。
 夏休みもあと1週間、小中学生の皆さんの何割かは、最後に残ってしまった読書感想文をどうしようかと考えておられると思います。

 というところで、私の読書感想文を。

 私は、昔から武豊騎手が憧れの存在でした。

 飄々とした雰囲気の天才、という感じで、表には、苦労も見えないし、また、レース運びも余り強引なことをせずに、それでいて馬群の中から凄いところをすーっと通って勝ってしまう、という余りにかっこいい騎手、というイメージでした。

 そんな武豊騎手の栄光と、その後成績が低迷しリーディングから陥落した後復活までの苦しい日々などについて書いた本です。

 私は読書するとき、良いな、と思う文章があるところに「折り目」をつけて読むのですが、この本で「折り目」をつけた箇所2カ所を紹介します。

その1

 騎手につきものの怪我について書いたところで、

(本から引用)
 …彼の基本的な考え方は、「苦労や挫折は必要なものではなく、せずに済むならしないほうがいい」というものである。それでも、怪我をしてしまったら受け入れるしかない。くどいようだが、彼の口から「怪我をしてよかった」という言葉は絶対に出ない。「怪我をしてよかった」というのは、一見ポジティブなとらえ方に思えるが、実は「現実逃避」の発想ではないか。彼はそうした考え方をよしとしない。
 (中略)
 よしとしないが、受け入れて、行動を起こす。受け入れるが、けっしてよしとしない-ということを、強い気持ちで繰り返しているのだ。
                                                      (引用終わり)

 これを読んだときに思ったのは、ちょっと飛躍していると思われるかも知れませんが、戦争です。
 日本の場合、太平洋戦争の悲惨な経験があったから特別に平和の価値に重きをおいてきた、というわけですが、それでも「戦争があってよかった」とは言えない。
 先人たちの尊い犠牲の御陰、という人もいますが、その「御陰」には私は違和感を覚えるのです。
 でも、歴史のうえで悲惨な時代があったことは事実だから、それを謙虚に受け止めた上で、明日に繋がる行動をしなければならない、そういうことだと思います。
 それこそが、戦争で亡くなった人々への私たちの思いを顕すために現実に出来ること、ということになります。

 重い話題になってしまいましたが、要するに、人も国家も「苦労知らずでええやん」ということです。

 ただ、苦労しているとき、失敗をしたときにあんまり自分を責めすぎると、凹んでしまって行動を起こせなくなる、だから、元気を維持できるように「若いうちの苦労は買ってでもせよ」とか、「失敗は成功の母」というわけです。

 というより、「苦労知らず」を願っても、他人が苦労するところで苦労せずに「すーっ」っと通り過ぎた場合にも、その人は、先のどこかで何らかの「課題」に直面するものです。
 でも、常人がなかなか直面できないレベルの「課題」に、私たち人類の内の誰かが直面してくれていること自体、素敵なことではありませんか。
 なので、「苦労」が少ないのはいいことなのです。

 というわけで、「あいつは苦労知らずだから」なんていうのはなんだかひがみ根性みたいで私は好きになれません。
 天賦の才があって苦労知らずの人がいたら純粋に応援したい。その分、高い課題に挑むなどして、みんなを元気にして下さいね!というものです。

 でも武豊騎手でも大けがをするのです。それを、ちゃんと受け止めて前に進む。さすが、と思いました。


その2

(本からの引用)

 …他人と競争したり、成績を比較したりするのではなく、ただ、今の自分より上手くなることだけを目指す。自分と比べるのは「武豊」だけ-というのが、本来の彼の考え方だ。
                                                (引用終わり)

 これ、私の経験でも、成功の秘訣はこれです。
 というより、競争に勝つ秘訣がこれです。
 
 私は大学時代、関西の某有名進学塾で講師をしていましたが、同塾では毎週・毎月テストがあって順位によってクラスが変動します。
 なので、「他人と競争」「成績を比較」を子どもと親に強い続けていました。

 でも。
 教育相談の場では、私もそうですが、私だけではなく、多くの講師が、親に「競争を忘れろ」とアドバイスします。


「模試の算数のテストで80点を取ろうとしても取れません。」
「○番の順位を取ろうとしても取れません。」
 当たり前です。取ろうとして取れないから教育相談に来ているのです。

「順位とか、点数とかはとりあえず忘れて、今の自分(息子さん、娘さん)に何が必要かにだけ集中して下さい。」
「漢字をよく間違えるのなら、毎週出される漢字の宿題だけは完璧にして下さい。」
「国語の文章題が苦手なら期限ギリギリに一気にやるのではなく、一つの文章題でいいから毎日集中してやるスケジュールにしてください。」
という、具体的に、昨日の「自分」より良くなること、だれでもやれば出来ることに意識を集中させるようアドバイスするのです。

「でも、順位は上がりません。その月の模試では。」
と言っておきます。 

「ただ、力はついていくはずなので、いつかは結果に顕れてきます。」
「いつかって?それは分かりませんが、『現実に合格のために出来ることはそれだけ』です。」
といい、まあ、それでも納得いかない顔のお母さんには、
「取り組みを変えて結果が出るのは○ヶ月後」といいます(ここの○は入試までの期間によって変えます。だって気休めですから)。

 そんな感じで、受験戦争というのは、一般社会でもそうかもしれませんが、

競争に勝とうとして競争に勝てない

競争を忘れることができた者が競争に勝つ

という根本的な矛盾が本質という世界なのです。 で、当然、その矛盾した本質を知っている人が勝ちやすいわけです。対象の子個人を伸ばす塾講師はこのことを教える。
   
 武豊騎手の強さの一つの要素がそこにある、というのも納得。

 ですが、そんな武豊選手でも、

(本の引用)
 ところが、長らく守ってきた日本のリーディングを失ってから、それをとり戻そうと海外遠征期間を短くするなど、らしくないことをするようになってきた。
                                                      (引用終わり)

 競争を意識してしまって本来の良さを出せない状況に陥ることがあったようです。

 「1番」、それも「ダントツ1番」というのは、心境として「競争の外」にいやすい。(ちなみに、ダントツビリでもOKです。)
 皆さんの記憶の中でも、クラスで成績がダントツ1番の人がいたとして、その人は成績に執着する様子もなかった、なんてことがあったのではないでしょうか。天才かも知れませんが、他人との比較から自由な心境であれば余計有利なんですね。

 いかに武豊選手でもリーディングでなくなり、上下する順位の中に入ってしまうと、心境としては大変だったというのは、人が他人との比較から自由になることの大変さを物語っているように思いました。
 
 他人との比較は幸福の毒

です。けど、この「毒」から自由になるためには、色々工夫が要りますね。

 なので、教育における「順位づけ」の発想を公立小学校の全てに広げようなんていうのは、いたずらにストレスばかり多くする方法です。
 もともと出来る子は、「順位を気にせず、自分のすべきことをすれば順位はついてくる」と思って成功します。
 出来ない子は、「○番以内をとろう」「○点とろう」という出来ないことをやろうとして、力をつける方法を知らないので出来ない、苦労し続けます。がんばっているのにお母さんに怒られ続けたら、勉強なんて嫌いになります。
 格差は広がるばかりです。
 出来ていない子も、順位を忘れて、自分ができることに集中すれば「出来る」ようになるのに。

 この本で、武豊選手は、武豊らしさを取り戻して復活します。
 「ありのままの姿」に戻ったわけです。

 というものの、まあ、実社会では、誰もが自分らしくやれば成功するというわけではないので注意が必要ですが、他人との比較に惑わされず、やるべきことをやって、それで無理なら仕方ない、という在り方がよいのではないかと思います。

 
 そんな感じで武豊騎手の本、いろんなことを考えながら読みました。


                              弁護士 村上英樹(神戸シーサイド法律事務所
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コメント 5

シルベーヌ

1・2とも示唆に富んでいて良いな、と思いました。
by シルベーヌ (2014-08-26 06:18) 

shira

 短い引用ですけど、著者と武豊の距離感がいい感じに思えます。この種の本はスターに媚びたヨイショ本になりがちですけど、これは大丈夫っぽいですね。
by shira (2014-08-26 21:58) 

hm

シルベーヌさん コメント有り難うございます。

心如さん ナイス有り難うございます。

shiraさん ナイス・コメント有り難うございます。
 おっしゃるとおりです。著者は、武豊に惚れ込んでいるわけですが、確かに媚びている文章ではなく、自分が見た本当に凄いところを伝えようとしているようです。
by hm (2014-08-28 11:58) 

NK

中学校を検索して偶然こちらを拝見しました。
受験を控えた小6の子供に競争(順位)にこだわっていた自分には目から鱗でした。子供が今できることを応援するように徹しようと思います。
by NK (2014-08-28 13:42) 

hm

NK様
 コメント有り難うございます。
 親である以上、順位・偏差値は絶対に気になります。中学受験はまさに、親も、そんな自分との闘いみたいなところがありますよね。
 私の知り合いの息子さんはお母さんに、「模試が悪いからってそんなに落ち込むなよ。自分の模試じゃ無いんだから。」と声を掛けていたそうです。その息子さんは見事第一志望校に合格されました。
 私も自分の子どものことになれば、順位なんて気にしない、という心境にはきっとなれないでしょう。
 だから、塾の先生が「競争を忘れろ」とアドバイスする必要があるのですね。塾は競争させて、先生が「忘れろ」、は矛盾していますが、先生個人が生徒個人を思えばそういうアドバイスになります。
 お書きの通り、お子様が今できることを応援してあげれば、きっとベストな準備で受験に臨まれることが可能になると思います。
 合格お祈りします。
by hm (2014-08-28 18:03) 

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