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私の持論~法律家への道について [弁護士業について]

 今、弁護士の世界の中でも、激しい意見の対立があります。

1 司法試験合格者の数をどうするか?
 かつては年間500人だったのを、平成12年閣議決定(小泉内閣)では年間3000人目標に。
 しかし、現実は、色々問題があって、現在2000人超。
 年間3000人目標は非現実的として、政府も方針転換へ、という情勢。
   
 あくまで年間3000人をめざすべきという意見 vs それは無理、過当競争を生み、弊害がある。2000人よりもっと少なくすべきという意見(具体的には、1000人、1500人、800人など色々な意見がある。) vs 現状維持2000人でよいという意見

2 ロースクールどうするか?
 以前の記事 http://h-m-d.blog.so-net.ne.jp/2013-01-23 などでも書きましたが、ずばり、ロースクール制度はうまくいっていません。
 何がうまくいっていないか、というと、端的に言えば、志願者が激減している(今年はピーク時2004年の2割に)のです。
 
 ロースクールは廃止すべきという意見もあります。
 存続することを前提にしても、学校の統廃合・定員削減が必要だとする意見が大半です。
 
3 司法試験をどうするか?
 原則、ロースクールを卒業した人のみが司法試験を受けられる、という制度になっています。
 しかし、一昨年から、「予備試験」という制度がはじまり、ロースクールに行かなくてもこの「予備試験」に合格すれば司法試験の受験資格が得られる(まだ司法試験合格ではない)という仕組みになりました。
 ただ、この「予備試験」は、「ロースクールを卒業して司法試験を受ける」という原則ルートの例外という位置づけですので、合格ラインが大変厳しく「狭き門」とされています。
 「狭き門」ですが、実は、こっちの受験者は急増しています。
 
 司法試験受験資格にロースクール卒業という要件はいらないという意見 vs ロースクール卒業者だけが司法試験を受けられる制度を守るべきという意見
 
の対立があります(細かく言えば、「予備試験」は廃止すべきという意見や、逆に、「予備試験」の枠を拡大すべきという意見もあります)。


 以上のような意見の対立があり、これらについて、弁護士同士でもかなり激しく対立があります。

 さて、上記3点についての私の意見は、過去にこのブログの記事で色々書いたことがあるのですが、今回はそれはおきます。

 私の持論として、法律家志望の人が法律家になろうとするとき、その人の立場を考えると、意外と大切な要素の1つとして、

うまくいけば、(4大卒新卒就職者とおなじ)23歳から給料をもらって自立できる制度であること 

がある、と思っています。
 「意外と」と書きましたが、私は本当は意外でも何でもないと思っています。「普通に」大切な要素です。ですが、この要素をあんまり議論の中で重視してくれない人が多いのです(それこそ「意外に」)。
 法律家の養成制度を議論するみなさんは、みんながみんな、こんなことが気にならない「大金持ち」ばかりなのでしょうか?そうとも限らないと思うのですが…

 「今のロースクール制度+卒業者だけが司法試験を受けられる原則」を前提にすれば、最速で、4大卒(22歳)+ロースクール卒業(24歳)となってはじめて司法試験を受験できて、司法修習生になれるのが早くて24歳。
 そして、私が司法試験合格したとき(平成10年ころ)と違って司法修習生に給料は出ませんから、司法修習1年を経て、25歳になってはじめて給料がもらえます。
 ただし、これは、大学浪人無し、留年無し、ロースクールでも留年・休学等無し、司法試験一発合格という「オールストレート」の場合です。
 それでも、「自分で稼げるようになるのは25歳になってから」という世界です。
 平均的には20代後半でやっと「自分で稼げるようになる」ことが多いようです。

 私が司法試験に合格したとき(平成10年ころ)の制度はこうです。簡単に言えば、

 大学在学中に司法試験を受験することは可能(私は、3回生時にも試験を受けており、合格したのは4回生時)で、大学卒業と同じ春から司法修習生になれる。そして、給料21万円がもらえる。

という制度です。
 
 この話をすると、自分が在学中に合格したことを強調する鼻持ちならない奴、と思われるかもしれませんが、この点は大事だと思うので、鼻持ちならない奴と思われてもよいので、敢えて言いたいのです。

 やっぱり、

4回生卒業年齢から経済的に自立できる

ということは、学生にとって大きいことなんです。私の中では凄く大きかった。
 この不景気の世の中、今のほうが、この要素はもっと大きいのではないでしょうか。

 もっとも、私の場合、4回生時に合格しなかったとしても、それまでせっかく司法試験勉強をしていたのだからここでやめるのはもったいないということで「司法試験浪人」をしたかもしれません。ですが、ともかく、「上手くいけば、23歳から経済的に自立可能」というのは進路を決める上で、大変大きい要素でした。
 「大学の学費まで払ってくれた親にこれ以上の要求はできない」と言えばとても親思いの良い子みたいですが、実は、私の場合、むしろ、ちょっと悪い子であったため「もうこれ以上親に借りを作ることはできない」心境だったからです。

 ロースクールの制度、教育そのものが、別に悪いとは思わないのです。私も以前はロースクールで教師をしていました。
 ですが、23歳以上の人を対象とした学校というのは、基本的に、すごく贅沢な制度だと思います。
 「贅沢は敵だ」というわけではありませんから、それは、それを望む人には結構な制度だと思うのですが、

一刻も早く一人前になって、親に楽をさせたい

と考える若者にとっては、23歳を超えても学校へ行かなければ目指す道にいけないのはつらい。
 そして、昔から、「一刻も早く一人前になって、親に楽をさせたい」と考える若者の多くは、勤勉で、仕事も真面目にやる人が多かったと思います(あくまで一般論であり、かつ印象ですが)。
(繰り返しますが、私はちょっと違います。そんな殊勝な若者ではなく、「もうこれ以上親に頭を下げるのが嫌だ。嫌でしょうがない。」という単に生意気な若者でした。)

 ここで、対比されるのは、医者でしょう。
 医者の場合は大学6年。
 実は、これこそが、私が医者を志望しなかった最大の理由です。
 「血ぃ見るのが怖いから嫌だ!」というのもあったのですが、私は高校時代から「大学6年間は俺には長すぎる」と思って、医学部進学の道は選びませんでした。
 弁護士になれるのも、司法修習2年があるので、最短で24歳。ストレートで医者になるのと同じなのですが、何せ、その前の、

司法修習2年に給料がある

のが違う。

 そう、「目先の金」が大事だったのです!

 教育は未来への投資ですから、目先の金に拘るのは間違い?そうかも知れません。理念的には。

 しかし、私も親になって分かりますが、親が子の学費・生活費を負担するとして

15歳まで
18歳まで
20歳まで
22歳まで
24歳まで
30歳まで

と区分けするとすれば、これ、現実問題として「えらい違い」です。いや、ほんとに。
 
 ですから、「法律家への道」についての私の大きな持論の1つは、

23歳から経済的自立ができるチャンスのある制度にすること

です。

 ロースクールや司法試験をどうするか?というので政府が求めていたパブリックコメント(国民の意見)があったので、私も書いて提出したのですが、その内容として、

 法曹志願者を増加させるためには、ロースクールを廃止するにせよ、存続するにせよ、ともかく、上手くいけば22歳までに司法試験合格が可能で、23歳から経済的自立が可能な制度にすることが必要

と主張しておきました。


                        村上英樹(弁護士、神戸シーサイド法律事務所
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shira

 もうメチャクチャに同意です。特に日本は教育支出の自己負担がひどく高いので、教育期間が伸びることはそのまま本人保護者の「持ち出し」が増えることを意味します。教員養成も6年制化という話がお金持ちの人たち(政財界のこと)から出ますけど、あんまり気楽にそういうことをいわないで欲しいです。
by shira (2013-06-06 21:27) 

hm

shiraさん

 ありがとうございます。
 付け加えると、若い頃、私は、学校に行くよりとにかく早く働きたい、と思っていました。
 基本的に学校が余り好きではなくて、働くことに興味があったのです。
 今となっては、一日中勉強出来る学生の身分はうらやましい限りですけど。

 教員養成6年制化というのも、同じ問題ですね。
 家にお金がないから教員になるのを断念する、という人が出てくるととんでもない。
 
 むしろ逆で、お金がなくても努力をして学ぶ意欲のある人が入りやすくすることこそ、教員にせよ、法律家にせよ、その専門的水準を高めるはずだと思っています。



by hm (2013-06-07 17:32) 

ayu15

なんかよさそうな気がします。
先日新聞にありましたが
弁護士の方も「ワーキングプア」がでてきたとか。


医師と教師と弁護士はお金稼ぐのに夢中になってほしくないです。
(一定収入保証がある)
by ayu15 (2013-06-08 20:14) 

hm

あゆさん

 ナイスコメントありがとうございます。

 お金のことは考えず、関わる人の幸せに如何に役立てるか、だけを考えたいです。
 仕事をする上で、そのほうがずっと幸せです。

 でも、現実は、一自営業者なので、どうしても経営のことも考えなければなりません。市場の「競争原理」にさらす、などということをされたら、弁護士の使命(人権擁護と社会的正義の実現)は危うくなります。


by hm (2013-06-11 17:12) 

ms

「23歳から経済的自立ができるチャンスのある制度にすること」
今でも、一応あるけど、ほとんど使ったという話は、聞いたことがない。
在学中に予備試験と司法試験、に合格し、副検事試験、裁判所事務官等の、弁護士法5条の用件を満たして弁護士登録するルートなら、多額の借金も作らずに済むし、23歳から経済的自立ができる。
私は、司法修習は廃止して、司法試験合格者用の検察事務官と裁判所事務官の5年の任期付き公務員枠を新設しろと意見を出しました。

by ms (2013-06-16 23:26) 

hm

msさん
 コメント有り難うございました。
 なるほど、司法修習を受けない前提だとそういうルートがあるわけですね。今からどうしても弁護士になりたい、とすれば、私ならそのルートを考えるかも知れません。
by hm (2013-06-17 15:57) 

ayu15

弁護士の使命(人権擁護と社会的正義の実現)には市場の競争原理・・というののですが

なにか提案ありますか??


この件から外れますが先日の記事の提案

人間関係トレーニング(傾聴)のワークはお勧めです。
まずクライアントの方のお話だけでなく気持ちを受け止める
力を学べますよ。


正論
お説教
それは違いますよ

これらは基本×です。
by ayu15 (2013-07-19 09:57) 

hm

ayuさん
 参考になります。ありがとうございます。
by hm (2013-07-19 15:23) 

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