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ライブドア最高裁判決のニュース~金融商品取引法21条の2 第2項「推定規定」 [時事ニュースから]

 ライブドア事件の最高裁判決が出たそうです。


(yahooニュースより引用)

 ライブドアへの賠償命令確定=「推定規定」で初判断―最高裁
時事通信 3月13日(火)18時30分配信

 ライブドア(現LDH)の粉飾決算事件で株価が暴落し損害を被ったとして、株主だった日本生命と信託銀行5行がLDHに計約108億円の損害賠償を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷(大谷剛彦裁判長)は13日、二審判決を一部変更して賠償額を約1200万円減額し、LDHに総額約98億8400万円の支払いを命じた。賠償命令が確定した。
 金融商品取引法は、虚偽記載の公表前後それぞれ1カ月の平均株価の差額を損害額とみなす「推定規定」を設けており、「公表」の時期や、賠償額の算定方法が主な争点だった。推定規定の解釈をめぐる最高裁の判断は初めてで、同種訴訟に影響を与えそうだ。

                                                         (引用終わり)


 このニュースでいう金融商品取引法の「推定規定」とは次のものです。

(以下、法律条文)

(虚偽記載等のある書類の提出者の賠償責任)
第二十一条の二  (中略)

2  前項本文の場合において、当該書類の虚偽記載等の事実の公表がされたときは、当該虚偽記載等の事実の公表がされた日(以下この項において「公表日」という。)前一年以内に当該有価証券を取得し、当該公表日において引き続き当該有価証券を所有する者は、当該公表日前一月間の当該有価証券の市場価額(市場価額がないときは、処分推定価額。以下この項において同じ。)の平均額から当該公表日後一月間の当該有価証券の市場価額の平均額を控除した額を、当該書類の虚偽記載等により生じた損害の額とすることができる。
(略)

5  前項の場合を除くほか、第二項の場合において、その請求権者が受けた損害の全部又は一部が、当該書類の虚偽記載等によつて生ずべき当該有価証券の値下り以外の事情により生じたことが認められ、かつ、当該事情により生じた損害の性質上その額を証明することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、賠償の責めに任じない損害の額として相当な額の認定をすることができる。


 
                                                (法律条文終わり)

 法律の条文は大変読みにくいです。

 それで、要するに何のことかと言えば、次のようなことです。

 「株主の損害額が何円か」を考えるに当たって、

もともと、ライブドアの粉飾決算のせいで株主が正確に言って何円の損害を被ったのかは、非常に分かりにくい問題である。

つまり、株価は、粉飾決算のせいだけではなく、元々色んな要素で動いているもの

なので、「5x(エックス)」という文字式があったとして「x=5」を代入したら「5x=25」となる、というように論理的に明快に、「粉飾決算→○円株主が損害」というものを求めるのはもともと無理な話だ

ということがあります。


 しかし、損害賠償請求をするならば、本来は、

損害額が何円であるかは、原告に立証責任がある 「立証責任がある」とは、「立証できなければ負けになる」ということを意味する( 「挙証責任」「立証責任」とは何か [法律案内]http://h-m-d.blog.so-net.ne.jp/2007-06-01

のです。それでは、原告(この場合、損失を被った株主)にとって、訴訟を起こすことがとても大変ということになります。


 そこで、

 粉飾決算等があった場合にそれで被害を被った株主が泣き寝入りせず損害賠償しやすくなるように、 ・ そうして、粉飾決算等がなされにくくする

という考えで、この場合の損害を、たとえば、


「粉飾決算が明らかになったニュースが報道された日をはさんで1ヶ月に株価が下落した金額を損害と推定する」


という風に「計算方法はとりあえずこれでよい」ということを法律に書いて、「立証責任」を軽くしている、ということです。こういう風に決めてくれると、損害賠償を請求する側は、大いに楽になります。

 
 平たく言えば、

「株価なんて色んな要素があるから、厳密に、粉飾決算のニュースが出たせいだけで何円株が下がったか、なんて決められないよね。単に景気が悪くなって下がっている分だってあるだろうし。  けれども、まあ、ともかくも、ニュースが出る前と後では『ドーン』と下がっているわけで、他の色んな要素を考えていたらキリがないので、 ニュースが出る前1ヶ月の平均株価 - ニュースが出た後1か月の平均株価 を損害だということにしよう!それでいいことにしよう。」ということです。

 ただ、金融商品取引法21条の2第5項では、バランスを取っていて

「それ以外の要素もあると裁判官が考えるときは『相当な額』を損害賠償額から減らしても良い」

という風にしています。

 裁判官が、

「まあ別のこれこれこういう要素もあるので、『1割減』にしておくくらいが妥当なのではないか」

と認めれば、バランスを取るために、「損害額を1割減する」というのも可能である、というわけです。(もちろん、裁判官の気まぐれであっては困ります。「全てラオウ次第」 北斗の拳で憲法を!http://h-m-d.blog.so-net.ne.jp/2012-03-07  のようなことが許されるのではなく、ちゃんとした理由を挙げたうえでならそういうことも可能というわけです。)

 厳密に考えているとキリがなく、「粉飾決算問題以外の株価変動要素(政治の動き、経済全体の動き、為替の動き・・・)を全て分析して、それを全て厳密に排除して、純粋に粉飾決算だけの影響による株価変動額を割り出す」なんてことについてケンケンガクガクいつまでもやっていたら誰も救済できない、という場合に、「とにかくある程度大雑把でもいいから額を決めちゃおう!」という発想です。

 どこかで、「えいやっ!!」とやらなければ何も動かないとき、ってありますよね。
 
 こういう発想については、全然場面が違いますが、

離婚の際の婚姻費用(別居時の生活費)・養育費のことでも、共通します(養育費・婚姻費用の算定表~なぜ表で決めるのか?http://h-m-d.blog.so-net.ne.jp/2009-05-14

 
 法律や司法というのも、細々としたことに首をつっこみ「ほじくり回す」ことばかりが能ではなく、現実に人と人との問題をタイムリーに解決する役割がありますから、

「必要な大雑把さ」を発揮すること

は重要なことなのです。


 新しい法律とか法の新しい運用というのは、やはり、ここ10年くらいでも少しずつ進歩していて、

「裁判などは、ややこしいことをいつまでもやって、なんかわけわからないけど、細かいことのせいで全然解決しない!!」という自体は、仕組の改善とか、それによる法律家の意識の変化などによって、良い方向に随分変わっていっています。

 法律家は、確かに、「緻密に仕事をしなければならない」という面がありますし、それを求められていることもあります。
 けれど「趣味や学術研究で調べている」のではなくて、「はたらく=はた(他人)を楽にする」ために仕事をやっているのですから「緻密」といっても小さなことに無駄に時間を掛けて解決を遅らせては本末転倒、というわけです。

 つまり、「緻密さ」と「覚悟を持ってともかく決めてしまう」との使い分けが必要、というわけです。

 こういう意識をしっかりもって仕事を続け、できたら、一緒に働く他の法律家(裁判官、検察官、弁護士)の皆さんとも、また、法律家以外の皆さん(仕事で何らかの関わりのある民間企業の方とか、公務員の方とか、他士業の皆さんなど)とも同じ意識を共有して、仕事が出来たらなぁ、と思っています。

 
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コメント 2

ayu15

損失額認定ていろんな要因あり難しいとかんじます。
ケンケンガクガクいつまでもやっていたら誰も救済できないのでそういう判例あるんですね。

このテーマから外れますが、被告は社長とか個人でなく法人なんですか?!
明石の事故・福知山線などおおきいものでなくても法人責任なのか法人構成する個人の責任なのかこういうとこ今気になるので。
by ayu15 (2012-03-25 11:12) 

hm

心如さん、shiraさん ナイスありがとうございます。

あゆさん、ナイスコメントありがとうございます。

この場合被告は「LDH」とあるので、法人のようです。

by hm (2012-03-26 16:01) 

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