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弁護士と依頼者の打ち合わせ~「話す」ということ [弁護士業について]

 これは、弁護士業として重要なテーマです。

 「話す」ということを、大雑把に分けると、

1 話したいから話す

2 目的に合わせて話す

と分けて考えるとしましょう。

 基本的に、弁護士が関わって事件をきちんと処理できるか、という観点からは、出来るだけ、「法律相談」や「事件の打ち合わせ」では、「2 目的に合わせて話す」ほうがよいのです。
 弁護士の方は、仕事なので、元々「2 目的に合わせて話す」わけですが、依頼者側としても「2 目的に合わせて話す」ことを心がけて頂く方が良い、ということになります。

 つまり、この場面では、事件処理に関係のあること、事件の解決のために必要なことに絞って、それを話して頂くことが役に立ちます。
 が、果たして何が、「事件処理に関係のあること」「事件の解決のために必要なこと」なのかはわからないので、弁護士が「問診」をするように尋ねる質問について答えて頂くのが通常ということになります。
 で、出来れば、弁護士の質問そのものに答えて頂き、話がそれることの少ないようにして頂くと、相談や打ち合わせがスムーズに行きます。

 と、いうのですが、しかし、扱う事柄が「紛争」だけあって、依頼者の方が「話す」という行為は、実は上のように「事件処理の目的のために理想的な話し方」というわけに現実にはなかなかいきません。

 法律相談は、「紛争」に巻き込まれた方が、誰かに、その悩みを打ち明ける、という面をもつわけなので、「2 目的に合わせて話す」だけではなく、やはり、「聞いて欲しい」ことを話す、という面があります。
 そして、「聞いて欲しい」こと、いいかれば、「1 話したいから話す」ということの中に、依頼者の本音であるとか、真に願っていることが含まれることもあります。 

 また、そもそも、「話したい」という気持ちが完全になくなれば、本当に必要なことでも話せなくなってしまいます。

 というわけなので、弁護士は、「直接、事件の処理に関係しないかな」と思っても、ある程度、依頼者の「話したい」話を可能な範囲で聞くほうがよい、そのほうが依頼者の考えや心情をよくわかったうえで事件処理ができる、というわけです。

 このあたり、私が弁護士になりたての頃は、どうしても「事件の処理」や「事案の争点」に関係する事実を聞き出したい、という方に気持ちが強く向いているので、依頼者の方の「話したい」ことを聞くのがもどかしい感じがしたものです。
 年数を経るに従って、「話したい」ことを取り敢えず聞いておくことは、「親切」というだけではなく、後の事件処理においても結局スムーズにいきやすい、ということが経験でわかってきたものでした。

 で、今日の記事をまとめると、

1 事件処理に必要な中身については、できるだけ、依頼者の方も「目的に合わせて話す」ようにして頂き、弁護士と依頼者の共同作業(事件への取り組み)がスムーズにいくようにして頂いた方が、事件処理そのものが上手くいきやすい。

2 「目的に合わせて話す」、つまり、お話し頂く必要があると弁護士がお伝えする事項などについて、要領よく話すことが難しいと思われれば、雑なものでもいいので簡単なメモを作っておいて頂くと、だいたい思うとおりにいきやすい。

3 1,2の事件処理に必要なことはそれとして、それとは別のことでも、依頼者の考えておられること、あるいは、心情なども、出来るだけ伝えておいて頂ければ有り難い。

ということになります。
 できれば、この「1」「2」部分と「3」部分の区別を意識したうえで伝えて頂ければ、要領よく、打ち合わせが進みやすいように思います。
 
 この場面に限らず、「話す」ことはその要領が難しいことなのですが、弁護士に相談される場合、上記のようなことを少し頭に置かれておくと、幾分か、話しやすくなるのではないか、必要なことも伝えたいことも伝わりやすくなるのではないか、と思います。
 
 いずれにせよ、弁護士と依頼者はある程度長い関係になりますので、コミュニケーションが円滑にいっていることが、とても重要な要素になります。もちろん、弁護士の側では、そのための最大限の努力を致します。

 どうぞよろしくお願いします。

 
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コメント 4

shira

 記事を読んでいて、弁護士さんというのは学校の先生と同じような苦労があるのだなと思いました。私たち教員は相手が子どもですから、彼ら彼女らの本当に言いたい事を引き出すためのあれこれを常に意識しています(本当にです)。
 社会人とはいえ、人が弁護士さんに足を運んであれこれ相談をするというのは、相当な決意や覚悟がいる行為だと思います。特に初めての場合。そういう人たちが臆せずに本当に相談したいことを口にできるようにするというのは、ほとんどテクニックの世界なんですが、でも、そういう弁護士さんに会えたらクライアントは嬉しいでしょうね。
by shira (2010-07-29 23:05) 

hm

>shiraさん

 ありがとうございます。
 この点は、日々、試行錯誤という部分です。
 
 先生は、そうですよね、生徒の口に出せない本音なども、その現れがないか、本当によく見ておく必要があるのでしょうね。
 その意味でも、前から言われていますが、先生が、書類とかパソコンとかではなくて、十分に余裕を持ってたくさん子どもに向き合える環境、そのための条件整備が必要ですよね。
by hm (2010-07-30 13:34) 

ayu15

なかなかいいお話です。

「この場面では、事件処理に関係のあること、事件の解決のために必要なことに絞って、それを話して頂くことが役に立ちます。」とありますね。
ふと思い返すに、裁判法的トラブルは切り取ったその内容でみますよね。(たとえいいかわかんないですが刑事事件は起訴罪状のみ)

 人は相談の時価値観も背負っている負荷もそれぞれちがいますよね。起きている問題のどういう部分はどうしても!どういう部分はやむおえないと思うのは人それぞれ。

きっと教師・弁護士・医師は技術知識だけでなく聞き上手な人が好かれるのかも??

by ayu15 (2010-07-31 21:25) 

hm

>ayuさん

>人は相談の時価値観も背負っている負荷もそれぞれちがいますよね。起きている問題のどういう部分はどうしても!どういう部分はやむおえないと思うのは人それぞれ。

 全くその通りです。
 それだけに、事件の持って生き方も、その人の望むことに応じたものになり、色んな選択肢があるわけです。

 「こういう部分を重視するならこの方針、こういう部分を重視するならこの方針」という整理をするというのが、弁護士の役割の大きな一つであるとおもいます。
 

by hm (2010-08-02 11:03) 

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