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「オレンジの取り合い」から考える平和創造~北斗の拳「種もみじいさん」の話まで [くらしと安全(交通事故その他)]

 
 私は、「弁護士9条の会」に属していますが、実は、特別なイベントを除いて、1回も例会に参加したことはなかったのです。
 が、この間はじめて、例会に参加してきました。

 というのは、今回、2007年の兵庫県弁護士会での憲法市民集会に来て下さった、奥本京子さん(大阪女学院大学 平和学 准教授)が来られ、「紛争を非暴力で解決する」をテーマに、実際に参加者が討論をする、という企画で、特別に先輩弁護士から声をかけてもらったからです。

 平和学というのは、例えばこんな本があります。↓ 


ガルトゥング平和学入門

ガルトゥング平和学入門

  • 作者: ヨハン ガルトゥング
  • 出版社/メーカー: 法律文化社
  • 発売日: 2003/09
  • メディア: 単行本



 私がもともと「9条の会」に入ったのは、イラク戦争 と 改憲言論が盛り上がり という2つの要素が時期的に重なっていたことによるものです。
 要するに、アメリカに言われて、どんどん外国に出て行って(出て行かされて)、必ずしも日本や日本国民の利益にならないような戦争にまで巻き込まれ、日本人が命を奪われたり奪ったり、そんなことになっては困る、それを阻止するには、そのときの改憲の動きに抵抗するのが良い、と思ったわけです。

 しかし、私の場合は、もともと、必ずしも徹底した非武装論者でもなくて、憲法9条の精神は尊いのは間違いないが、そうかといって、例えば文字通り「軍隊持たず」と言って自衛隊をいま急に廃止すると言われればちょっと・・・、という感じだし、また、時間と共にイラク戦争は多くの意味で「間違いでした」という評価が優勢になり、さらに、安倍内閣が参院選で惨敗し改憲の動きが一気に下火になったことにより、「特に私がなにもせんでも」というサボタージュ機運が高まり、私の「9条の会幽霊部員化」が加速したのです。

 
 
 さてさて、上は余談で、今回の「紛争解決」のテーマの学習、実に有益でした。

 私は、かねがね、平和主義の理念は何者にもまして重要だと考えていますが、一方で、国家の安全保障というのも現実的に考えなければならない、と思っています。
 そこが欠けると、護憲と言っても改憲と言っても、憲法9条論議もつまらないなあ、と思ってしまいます。

 つまり、日本の国・日本国民がどのようにして安全に生きてゆくか?

 危険のタネ、紛争のタネ、にどういう備えをするか?

です。

 つきつめるところ、「実力」によって備えをしなければならないということも、それを完全に否定することはできないでしょう。
 「実力」は、国家レベルで言って程度の軽いものだと「警察」の「警棒」とか「銃」とか、それが大きくなると、「戦車」「大砲」みたいなものになってくるので「武力」に近づいてきます。
 でも、「軍隊」や「武力による威嚇等」は憲法9条で禁じられるので、ギリギリそうではないということになっている「自衛隊」というもので備えをしている。
 これはこれで、頭を捻った知恵だとも言えると思います。
  
 しかし、「戦車」がないと困る、「イージス艦」がないと困る、という必要性の度合いを、減らせるものなら減らしたいのは誰もがそう考えるでしょう。
 つまり、「実力」「武力」以外の方法で、「危険のタネ」を減らせるならばそれに越したことはないと。
 このあたりになってくると、改憲論者・護憲論者の区別無く賛同できる話でしょう。

 今回は、武力(暴力、実力)行使をせず、紛争の解決(紛争のタネの解決)の可能性を探る、ということでした。


 この講座でやった「問題解決」の思考事例は、つぎのような至ってシンプルなものからはじまります。
 
 「ここに7歳くらいの子どもが2人いました。オレンジが1つありました。さて、どのようなシナリオが考えられるでしょうか?」
 シンプルすぎて「馬鹿にしとるんか?」と言い出す大人げない弁護士もいました。が、それは置いておいて、まじめにシナリオをあげてみますと

1 飽食の世界の子どもは、オレンジを無視する。キャッチボールをする。

2 一方の子はオレンジを所望するが、他方は譲る。
 
3 どちらの子もオレンジを欲しがる。
 → 力の強いほうがとり、弱いほうが譲る。
 → 殴り合いになる。
   → どちらかがとる。
   → 殴り合いの過程でぐしゃっとつぶれてしまう。
 → ジャンケンで決める。
 → ナイフで半分こ。または、ふさごとに分ける。
 → 一人は実を食べ、一人は皮をマーマレードにしてパンにつけて食べる(確かこれは、偉大なる食いしん坊弁護士 津久井進先生 http://tukui.blog55.fc2.com/?tag=%A5%AB%A5%EC%A1%BC  案だった。)。
 
4 オレンジの実(その中の種?)をつかって、オレンジを栽培する。

5 オレンジをもっと必要としている人にあげる。

などなど・・・ということになります。

 それぞれを、分析的に見ます。

  Aの満足度 |①       ④
          |
          |    ⑤
          |
          |③       ②
          -------
                  Bの満足度

 というグラフをつくって、それぞれのシナリオが、上のグラフ上のどこに位置するか、ということを分析していくというのがスタートです。
 
 まず、一番わかりやすく、A対Bで限られたものを取り合う(ゼロサムで取り合う)と考えると、上のグラフの①から②を結ぶ直線上で解決が図られます。
 A100  B 0  の満足
 A70   B30
 A50   B50
 A30   B70
 A 0   B100

 で、一方、紛争解決の公平性を考えると、上のグラフでは、③と④を結んだ線にちかいものが優れているということになる。で、実際に紛争が平和的にまとまりやすいのも③と④を結ぶライン。
 つまり、
・ 両方オレンジをあきらめる
・ 半分こ
・ なぜかオレンジが2こに増えて両者にゆきわたる
等というわけです。

 ということならば、すなわち、線①②と線③④がまじわる「⑤」が唯一の解決の答えか!?という発想が出てきます。
 これは、「オレンジ半分こ」解決案です。
 これしか仕方ない場合はこれでよいのですが、できたら、⑤から④にいける方法を考えよう。
 これを考える際に、頭を柔軟にして、奥本さんの言葉によれば、

「(思考の)飛躍をしてください」

とのことです。

 例えば、
・ オレンジを植えて、いくらでも食べられるようにする
・ オレンジをより必要としている人にあげて、自分が食べるのとは違った種類の満足を互いが得る
・ それまで前提にしていたオレンジの食べ方にとらわれず、皮も利用してマーマレードにする(これは、「価値が増えた」と同じこと。やっぱり津久井先生はスゴイ!食いしん坊万歳!)

などの可能性がないかを、頭を柔軟にして、既存の考えにとらわれずに探る、ということです。

 簡単に言えば、「取り合う」発想(ある意味「常識的」)にとらわれず、もっと互いがハッピーになれる方法はないか、ハッピーの総量が増える良い方法がないかを探れ、ということです。

 逆に、「公平」解決でも、上の図⑤のラインが③方向に下がるものは、あまり優れていない(物別れよりはましだけれど)ということです。
 戦争で互いを破壊し尽くしたとしたら③で最悪、ということになります。(一般に戦争はコストがメチャクチャ高いので、どっちが勝とうと①②ラインよりも左下寄りの結果にしかならないので、極力避けるべきは当然です。)

 
 簡単な「オレンジの話」からでも、紛争解決とは何か、どんなことを目指すべきかということの基本的な発想法のエッセンスは得られるものです。
 
   
 キモは、知恵の働かせどころは、「思考の飛躍」であって、①②ラインから右上のほうに飛べる何か(あるいは、互いが「飛んだように感じられる」でもよい。オレンジの皮→マーマレードのように。)を探れるかどうか、であるようです。
 それができれば、当事者も「暴力や戦争でカタをつけるよりも・・・」となるから、紛争は平和的に解決できる。 
 

 こんな風な「紛争の非暴力解決」の発想法・それに導く技術を高めよう、というのが、奥本さんらのやっていることです。
 このような「紛争解決マンパワー」をはぐくみ強くしていけば、武力に頼る度合いを減らせるはず、というのが今回の趣旨でした。
 紛争のタネのある地帯に数百人規模で「紛争解決技術」を訓練したひとが赴き、平和的解決をサポートするような体制が作れれば、と奥本さんは言われていました(現実には、10数人規模くらいでは世界各地でそのような活動をされているそうです)。

 
 
 ところで、オレンジの話の中で、思い出したのは「北斗の拳」。

 「北斗の拳」は暴力マンガの代表格で、平和とは程遠いように思われます。

 しかし、「北斗の拳」には「種もみじいさん」という素晴らしい登場人物がいます。
 コアな「北斗の拳」ファンの中では絶大な支持を集めています。

 
 「種もみじいさん」とは、こういう人です。

 「北斗の拳」の舞台は、核戦争後の世界。
 暴力と恐怖が支配する無法の世界。

 「種もみじいさん」は、食糧を奪い合い殺し合う必要がなくなるように、村を出て「種もみ」を入手し村へ持ち帰ろうとするところを賊に襲われます。そこに、北斗の拳の主人公ケンシロウが通りがかります。

 おじいさんは賊に対して、

「頼む見逃してくれ!来年この種もみが実ればおまえらにもわけてやろう、それまで待ってくれ!今日より明日、今日より明日なんじゃ!
と言います。(※ここの「今日より明日」が、私の「教育について」のテーマのサブタイトルでもありますが、まさに、「種もみおじいさん」からいただきました。)
 ケンシロウも、おじいさんにいたく感動して、
「今日より明日・・・ひさしぶりに人間に会った気がする…行こうじいさん、あんたの村へ」
と言って、おじいさんに協力するという話です。

 
 じいさんの「来年この種もみが実ればおまえらにもわけてやろう」が、紛争の「飛躍」的解決で、上の図の④に近づくキーワードでもあるのです。


 理念も大事ですが、お互いの立場を想像して、どっちもハッピーになれる方法を知恵を絞って考えること、また、発想を柔軟にして「飛躍」してアイデアを創造することが、平和な世界をつくるために本当に重要だと思いました。

   
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shira

 面白い!私も利益両立でチャレンジしてみます。

1 ジュースにしてわける
2 A君が2等分し、B君が好きなほうを取る。(これは昔からあるケンカにならない2等分法。A君が2等分したのだから、どちらが残ってもA君にとってはきっちり半分なので絶対文句は出ない)
3 A君が全部食べ、代わりにオレンジ半個分なにか(お金、カード、漫画本)をB君にあげる。
4 房の数だけ友達を呼んできて、一人一房ずつ食べる。
5 そのオレンジを使って何かを生産して(オレンジの絵、オレンジ柄のタペストリー、オレンジ香料など)儲けを二人で山分け。
6 今回は片方が食べ、次回はもう片方という念書を取る。
7 2人でオレンジをじっとみて匂いをかぎながら水を飲むとオレンジジュースを飲んだ気分に・・・なるわけねーか。

by shira (2009-06-06 09:08) 

hm

shiraさん小父蔵さん

 ナイスありがとうございます。
by hm (2009-06-11 13:14) 

hm

shiraさん

 さすが、色んなアイデアがありますね!「5」に特に心ひかれる私はきっと欲張りなのでしょう。
 
 しかしまじめな話、現実の紛争解決も、これくらいに柔らか頭で想像力・創造力を働かせてみることが、戦争等の最悪な事態を防ぐことに繋がること多々あるのだろうとおもいます。
by hm (2009-06-11 13:20) 

ayu15

これ借用して・・・。

頼む見逃してくれ。会社が苦しいんだ!もうけたらわけるから。

もうけているが、頼む見逃してくれ。競争が大変なんだ。勝ったらわけるから。

いつわけてもらえるんでしょう???

軍事戦争とは無関係ですが・・・。

信頼・思いやりのないところでは紛争解決は難しそうです。
by ayu15 (2009-09-11 13:30) 

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