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ひき逃げ事犯と危険運転致死傷罪 [くらしと安全(交通事故その他)]

 下記ニュースに関連して,平成13年に新設された危険運転致死傷罪についてお話しです。(ニュースの加害者が「危険運転」状態にあったかどうかは分かりませんので,一般論として。

 危険運転致死傷罪(酔っぱらい運転など悪質な運転で事故を起こした場合)は,平成17年の刑法改正の結果,

被害者が死亡した場合最長20年

被害者が傷害を負った場合最長15年

という長い懲役刑が定められるようになりました。

 

 が,ひき逃げ事犯との関係では,これが上手く機能していないのでは?という指摘があり,ちょっと難しい話ですが,考えてみたいと思います。

 問題点は,

 「危険運転が重罪であるため,逆に『ひき逃げ』を生んでいないか?」

 「逃げた場合の危険運転の証明が難しいので『逃げ得』になってしまわないか?」

(so-netニュースより引用)

佐賀小5ひき逃げ・放置、50歳代男の逮捕状請求へ

 佐賀県唐津市立厳木(きゅうらぎ)小広川分校5年の家原毅(つよし)君(11)がひき逃げ、放置された事件で、同県警は、毅君が事故に遭ったとみられる現場に落ちていた車の塗料片などから、建設会社に勤める同市内の50歳代の男が事件に関与した疑いが強まったとし、23日にも道交法違反(ひき逃げ)と業務上過失致傷容疑で逮捕状を請求、男を指名手配する。

(中略)

 県警は、毅君が事故の後、連れ去られて放置されたとみている。

[ 05月23日 01時32分  ]

                                   (引用終わり)

 実は,こないだ,私の仕事の関係で,ひき逃げ事犯で,ひき逃げ犯が飲酒をするなど「危険運転致死傷罪」にいう「危険運転」状態であった場合に,

① その場で警察に連絡する

② 逃げて後日捕まる

とで法定刑がどう違うか?これを調べてみました。

 

 私は日頃は交通事故に関して民事の損害賠償請求(被害者)を主要分野の一つとしていますが,刑事手続への関与は余りしていませんでした。ので条文に自分であたって調べる機会は初めてでした。

 が,特に死亡事故や上記ニュースのような児童に対する悪質なひき逃げの場合では,遺族や家族の立場にたってみれば,

「いくら賠償してもらえるか」だけでなく,

「加害者にどんな制裁が加えられるか」というのが重大な関心になるのは当然のことと思います。(事案が悪質であればあるほど,後者が重要になります)

 

 で,刑の比較ですが,たとえば,飲酒の「危険運転」状態で,被害者死亡の場合は,

① その場で警察に連絡 

 危険運転致死罪となれば,20年までの懲役(刑法208の2,12条)

② 逃げて後日捕まる  

 この場合に,呼気検査が実施できないため「危険運転」状態が証明できなかったとしたら,業務上過失致死と道路交通法違反で,7年6ヶ月まで(法律勉強中の方用→刑法211,道路交通法117条,これらの「併合罪」。刑法218条の保護責任者遺棄致死が適用できれば,最長20年になるが…)

となってしまい,こういう知識をインターネット等で仕入れている加害者は「逃げた方が…」などと考え,「危険運転致死傷罪」があることにより,かえって,「ひき逃げ」が起こりはしないか?という問題が指摘されています。

 

 私は,私のブログでこんな「悪知恵」につながるような記事をのせるのもどうかとは思いましたが,この問題点は既にTV等でも指摘されているし,もはや広く議論すべきものだと思い,今の仕組みをよりよくする提言のきっかけになれば,と思い,書いてみました。

 根本的な問題点は,ひき逃げをした犯人を後日つかまえても,危険運転状態だったことの証明が難しいという点にあります。

 「後日」になってしまうと難しいのです。

 「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態」や「その進行を制御することが困難な高速度で」等というのが「危険運転」です。特に前者(アルコール…)は,その場で呼気検査をやらなければ普通は証明できません。

 ひとことで言うと,

飲酒状態が証明されれば,「危険運転」で極端に罪が重くなるので,逃げてアルコールを抜こう

という人がいるかもしれない,ということです。

 

 アルコール原因以外でも法律の定める「危険運転」の事実が証明できれば問題ありません。

 が,それは証明できない場合を考えると↓

 何日も前の体内のアルコールの状態が証明できるまでに科学が進歩すれば解決するでしょうが,今のところそれは無理でしょうから,現行法のなかで,ひき逃げを対象として罪を問おうとすると,刑法219条の「保護責任者遺棄致死傷罪」を考えることになるでしょう。

 これが適用できる場合は,死亡事故なら最長20年の懲役刑になります。(上記佐賀のニュースは,「連れ去り…」の事実から,保護責任者遺棄罪の適用も考えられそうです。)

 ただし,この保護責任者遺棄致死傷罪は守備範囲が狭く,例えば即死事件のひき逃げなどには適用できません。(この罪は,「生きているけれど放置したら死ぬような人」を放置する犯罪だから。)

 

 刑法208条の2「危険運転致死傷罪」も,刑法219条「保護責任者遺棄致死傷罪」も,今の道路交通法の規定も,それらを単独で見ると,別におかしいものではないと思います。

 が,罪の中身が証明できるかどうかの技術的な問題などが絡んで,現実的にはチグハグな結果になっている。と言われれば,否定出来ないところです。

 解決するには,

道路交通法の救護義務(事故を起こしたとき,負傷者を助ける義務)や報告義務(警察に報告する義務)について,その違反の刑罰を引き上げる

死亡事故に関して報告義務違反は特別に重い刑を定める

といった方法で「ひき逃げ」そのもの法定刑を重くする,危険運転致死傷罪に出来るだけ合わせていくことが考えられる,と思います。

 これは,今あるチグハグについて,刑を「上限」や重い方に合わせるやり方なので,「解決方法」にはなりますが,本当にそれでよいかは慎重に議論する必要はあると思いますが…

 

 必ずしも厳罰であればよい訳ではありませんが,後を絶たない交通事故の悲劇を思うと,平成13年以降の一連の厳罰化の流れそのものは社会の要請だったし,遺族らの心からの叫びに応えようとしたものだった,と思います。その意味で,刑の重い危険運転致死傷罪を作ったのも,私は間違いだとは思っていません。

 が,「厳罰」を恐れての「ひき逃げ」が生じているなら,その点では,せっかく法律を改正した思惑とは外れていることになります。「行き当たりばったり」の改正だったではないか!?とまで言われると余りに厳しいかもしれませんが…

 まぁしかし,余り「結果論」を言っても仕方ない…

 これから求められるのは,「事故を起こしてしまった,目の前に被害者が血を流して倒れている」という場面で,加害者を上手く導く法律ということになります。

 とにかく事故直後の場面において,加害者に,

せめて,人間として最低限の当たり前のことだけでもやらせる

という,被害者側や家族からすれば切実な思いの実現を,法の作り方によって導くということでしょう。

 こうしてみると,「技術」も大切で,人々の思いを実現するために技術を尽くすべきです。こういうところにこそ,弁護士である国会議員には「職人魂」を発揮して頂きたいところです。議員さんにそれが足りなければ,私たちが外野から意見をだしていかなければなりませんね…

 私は,この問題について,ちゃんとしらべたのも最近,真面目に考え出したのは昨日今日,ですから,この記事も不勉強な記事であることは間違いありません。

 ですので,読者のみなさんには,正確性を欠く部分があるかもしれないことをお断りしつつ,もしあればご容赦願います,ということで筆を置きます。

 

 


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