舟を編む

  • 作者: 三浦 しをん
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2011/09/17
  • メディア: 単行本



 久しぶりに、読書感想文です。

 この本、カバーがいいです。
 辞書風のカバー。

 内容は、新しい国語辞典を編纂するために心血を注いだ人たちの物語。
 「舟」とは国語辞典(「大渡海」という辞書のタイトル)のことです。
 うわ、地味ー、という声が聞えてきそうですが、辞書を作る人たちの熱い心や笑える日常がコメディタッチで描かれている、笑いあり感動ありの小説です。

 それますが、「大渡海」という辞書のタイトルも素敵です。
 数学の参考書も、私は、「チャート式」(チャートは「海図」の意味)が大のお気に入り(というか、チャート式が数学勉強のほぼ全て)でした。
 海、舟にちなんでいるのがいい。「世界に漕ぎだそう」という積極的な気持ちになります。

 この小説、映画化されます。間もなく公開で、主演は松田龍平さんや宮﨑あおいさん。GWあたりに観に行こうと思っています。

 私も、家庭の事情で、今年何十年かぶりに国語辞典を買いました。
 三省堂「新明解国語辞典」ですが、この辞典は知る人ぞ知る、面白い解説オンパレードの大変「癖のある」辞典です。
 この小説中でも紹介されますが、新明解の「恋愛」などは面白く、「特定の異性に対して他の全てを犠牲にしても悔い無いと思い込むような愛情を抱き、常に相手のことを思っては、二人だけでいたい、二人だけの世界を分かち合いたいと願い、それがかなえられたと言っては喜び、ちょっとでも疑念を生じれば不安になるといった状態に身を置くこと。」(確かこれは第7版。版によって多少違いあります。)とあります。
 辞書って面白いものだなあ、と思っていた矢先に、この小説の存在を知り買って読むに至ったのでした。
 
 言葉への扱いは、時代の進歩、特にネット社会の進歩のせいで、一般にはどんどん「軽く」なっている感じは否めません。
 が、一方で、言葉に対して物凄く思い入れのある人が活き続けている(小説中にも、現実の中にも)ことは、なんだかほっとさせられます。

 対して、私の仕事の日常。特に、「裁判」の場では、結構、「言葉」にとっては無慈悲な場面が多いです。
 つまり、ぴったりくる「言葉」を選びに選んだとしても、「そんなの関係ねえ」(もう古いですか…)とバッサリ斬られてしまう場面が非常に多く、言葉に対するみずみずしい感性を持ちつつ仕事をすれば、心痛むことがしょっちゅうです。

 それでも!言葉を使って仕事をする私は、言葉にとって無慈悲な現実のなかで感性を殺すことなく、やはり、丁寧に、よりふさわしい言葉を選ぶ存在でありたい、とこの本を読んで思いました。

                                  村上英樹(弁護士、神戸シーサイド法律事務所