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「任意後見制度」ってご存じですか? [弁護士業について]

 昨日は、「任意後見制度」の勉強会に出席してきました。元公証人の方のお話しを聞いてきました。

 「後見」というのは多くの方が聞いたことがおありでしょうか。
 例えば、高齢になって判断能力が衰えてきた場合に、「後見人」(「成年後見人」)がついてその人の能力を補う制度というところです。
 昔は「禁治産宣告」「禁治産者」という呼称でした。

 「後見」には大きく分けて2種類あり、裁判所が審判をして開始する「法定後見」と、当事者間の契約によって後見人を事前に決めておく「任意後見」とがあります。
 →関心のある方は、神戸シーサイド法律事務所の「成年後見」解説ページをご覧下さい。(http://www.kobeseaside-lawoffice.com/soudan/102/

 利用状況としては、「法定後見」が多く、「任意後見」という制度の利用は低調です。
 私の執務の中でも「法定後見」に関わることが多く、「任意後見」に関わるのは数年に一度くらいのものです。
 
 というには理由があって、後見が必要な状態、例えば、

既に認知症により判断能力が低下している状態

が発生してはじめて問題が表面化するというケースが多数だからです。
 つまり、「おじいちゃんの判断能力が低下し、自分では契約のなんたるか分からない状態になっている。そんなおじいちゃんが、老人ホームの入所契約をしなければならない。」という場合です。
 
 契約をするには、「サインして判子を押す」だけでは不十分な場合があります。つまり、本人に判断能力(「意思能力」)がないとサインして判子を押しても契約は無効になってしまいます。

 ですので、この例の場合は、成年後見人をつけて、成年後見人がおじいちゃんの代理人として契約をしなければならないというわけです。

 で、既に判断能力が低下している状態の場合には、「任意後見」は基本的にできない理屈になります。
 なぜなら「任意後見」は契約によって行うものだからです。

 従って、「任意後見」ができるのは、判断能力が低下する前です。
 つまり、「今後加齢によって自分の判断能力が衰えることが心配されるが、今のところ、判断能力に大きな問題は無い」という人が、事前の備えとして「任意後見」契約をする、というものです。
 通常、「任意後見」契約ができる時点では、表面化した大きな問題は無いことが多いわけですから、あくまで「備え」として行う方法です。
 「差し迫った必要があるわけではないけどもすること」ですので、やっぱり数は少ないといえます。

 「任意後見」のメリットは、自分の意思で、将来の自分の後見人や、面倒を見てもらうことの内容を決めておけるということです。
 「法定後見」ですと、自分の意思では決められず、裁判所の決定や監督に委ねることになります。

 ただ、デメリットは、「任意後見」は裁判所の直接の監督が入らず、本人と親族その他第三者の間だけでいろんな事が行われることです。
 ですので、「任意後見」契約は、公正証書でしなければならないという方式が法律で決められています。(それで昨日の勉強会の講師は元公証人だったのです。)不正の起きる確率を減らす目的です。

 
 私が相談を受ける場合の基本姿勢としては、実際に認知症の症状が出始めている方の場合、やはり「法定後見」を中心に考えます。
 裁判所の審判を受けて行う「後見」の方が、制度的にもきっちりしていて、不正や疑いの余地が無く安心出来るからです。
 ですが、裁判所に「法定後見」(程度によって後見、保佐、補助に分かれます)を申し立ててもまだ審判がもらえそうもない状態で、それでも将来の自分の財産管理が心配である、という御相談があれば、「任意後見」も選択肢の1つに入れて、最善策を考える、ということになります。
 
 高齢者を狙った悪質商法などには本当にひどいものがあります。
 判断能力の低下を狙ったというのも悪質ですが、それ以上にひどいなあと私が思うのは、社会をリタイアした方の心の寂しさにつけ込む手口です。投資詐欺に多いです。たとえば、被害者の高齢者に、(本当はインチキの)株を買わせるなどをして、「社会と繋がっている」「バリバリ経済活動をしている」錯覚に陥らせるやり方がここ数年流行りました(もう下火ですが)。「だまされていた」と知ったときの被害者の方の寂しそうな表情を何度見たことか。

 話がそれましたが、誰でも加齢などによる能力低下は避けられないもの、そうした中でも、ちゃんと尊厳が守られるようにするのが「後見」の制度です(高齢者をねらった悪質商法はその逆)。
 ここ10年程度でも色々な法、制度が整備されてきており、上手く活用すれば、よりきめ細かな支援を受けることができる場合があります。

                              村上英樹(弁護士、神戸シーサイド法律事務所

  
 

 
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