橋下市長の体育系「入試中止」に賛否 大阪市教委に電話殺到

 http://sankei.jp.msn.com/life/news/130116/edc13011614070004-n1.htm


体罰が違法であること、今回の件に関して橋下市長が体罰が違法であり良くないことであるという認識の元に行動していることは当然であることを前回の記事に書きました。

 さて、今、センター試験も真っ最中です。
 また、京阪神では私立中学校の入試の真っ最中だということです。

 小さいうちから受験勉強というのが良いことかどうかには色んな考えがあるでしょうが、京阪神の私立中学校には、たとえば小4から志望校を決めて、志望校に入学することを思い描いて勉強をしている子どももたくさんいます。
 親が一方的にそうさせているだけとも限りません。例えば、あちこちの中学校の文化祭を観に行くところからはじまり、そうする中で、子ども自身がモチベーションを高く持って頑張っている姿というのもあるのです。

 前々回、福嶋さんの著書「国語が子どもをダメにする」に関する記事でも書きましたが、入試問題は、その学校がその年度だけではなく、将来、何年か後にその学校を受験するであろう人に向けても、「こういう部分を大事にした勉強をしてきて欲しい」というメッセージを込めたものであるはずだ、と思います。

 そうしてみると、新設校の場合などは例外として、通常は、

学校と生徒との関係は、入学よりもずっと以前から始まっている

と言えます。

 それは、進学を主体とした学校にしても、スポーツを主体にした学校にしても同じことでしょう。

 入試の定員の変更はもちろん、試験スタイルの変更などについても、学校は、受験生の混乱を防ぐため、決まったらできるだけ早く告知します。今度の入試から科目数が増えるなどというのを、年度途中に発表することはまずないでしょう。「再来年からこうします」という発表の仕方が普通だと思います。
 それが将来の生徒への当然の配慮ですから。

 何年か先でも、
 
自分の年度においても、その前後と変わりなく、入試が実施され、入学するチャンスがある

ということは基本的に信頼していい、というのが社会の了解事となっているはずです。


 ここで1つたとえ話。
 法律の話ですが、私人同士の法律関係は、基本的に「私的自治の原則」に支配されるといわれます。
 この原則をドライに貫けば、「契約関係に入ったら約束を守らなければならないけれども、契約関係に入りさえしなければ、人の期待を裏切ろうと何しようと勝手です。」となるのではないか?と思われるかも知れません。
 しかし、実はそうと言い切れません。

「契約締結段階の過失」

という論点があって、正式の契約に入る前にも、当事者同士には守るべき「信義誠実」というものがあって、それを裏切り損害を与えた場合には、場合によって損害賠償しなければならないことがあります。

 また、公的な要素がほとんどない商売の契約であれば、「いやなら買わなくて結構」でいいわけですが、公教育である学校というのは、最低限守られるべき信頼、という要素が極めて重要です。

 
 
 今回の事件があったことを受けて「桜宮高校では体罰は決して行われない、学校教育法等の法規に則った指導を行う」という事項を確認し、今年も入学試験を実施する、ということになるのが当然である、と私は思います。

 入試をどうしても中止しなければならない、とは思えません。他のより迷惑の少ない手段で学校を正常化させることは可能だと思われますから、そうである以上、その学校の志望者を裏切る「入試中止」という手段を採るべきではない、というのが私の考えです。

 
 もっとも、橋下市長は、受験生などが大混乱をすることも承知の上で、

「体罰を容認するようなことをすれば『入試さえできないかも知れない』『学校は存続さえできなかも知れない』ということを、関係者や、他の学校、教育者にも、心の底から分かってもらいたい。」

と考え、それをインパクトをもって分かってもらうのが目的で、敢えて、この時期に、悪者になって、乱暴とみえる「入試中止」を叫んでいるのであり、結局は、私が上に書いたように、「桜宮高校では体罰は決してしない」と確認したうえで入試を実施する、ということに落ち着けるつもりである(初めからそのつもり)、ということなのかもしれません。
(↑他人の内心のことは分かりませんので、私なりに好意的に解釈すればこうだ、というところです。)

 そうだったとしても、今の時点まででも、入学希望者を大混乱に陥れたことは、基本的な社会の公的仕組みに対する信頼を損ねた、という意味で、この件に関して首長として問題のある対応だったと私は思います。

 今日結論が出るのでしょうか。
 理性的な結論となることを期待します。


                           村上英樹(弁護士、神戸シーサイド法律事務所