確約書は市長あてで、「私は、学校給食費を納入期限までに納入することを確約します」という内容。連帯保証人については住所、氏名、電話番号を記すほか、押印も求めている。
昨年5月現在、同市で2001年度~05年度分の給食費について滞納がある人は、702人で、滞納額は約3289万円。昨年9月以降、悪質な滞納者に対して簡裁への支払い督促の申し立てなどを行った結果、今年2月現在、滞納は446人、約2414万円に減少した。
しかし、06年度も新たな滞納があり、市教委は「保護者の意識を高めるため」と確約書を求めることにした。ただ、「給食費を払っているが、保証人の選定は難しいという場合は、個別相談に応じるよう校長にお願いしてある」という。保証人の記入欄がある確約書を求める方法は、長野県伊那市教委が05年度から行っている。
(2007年4月12日0時23分 読売新聞)
1 給食費支払い義務と不良債権
まず,今の仕組みの中では,保護者は市に給食費を支払う義務があることは間違いない。義務教育だから無償であるべきというのは,「あるべき」論としては傾聴に値するが,法律論としては「払わなくて良い」理屈にならない。
「支払義務」のことを「債務」という。
保護者から見てこれは「債務」と言い,市(学校)からみればこれは「債権」である。
この代金がなかなか支払ってもらえないとき,給食費もいわゆる「不良債権」と化す。
さて,何年か前,銀行の不良債権の問題などがクローズアップされたが,「不良債権」は実際なかなか回収できない。
回収するためには,訴訟をしたり色々コストがかかる。
その結果,「不良債権」は額面通りの価値はないことになる。
額面1000万円の債権でも,コストを引いて,回収の可能性を考えると,30万円くらいの価値しかないということがある。(現実には,これはまだ良い方である。)
では,毎月数千円の給食費が「不良債権」になってしまった場合,上のように見たときの実際の価値はいくらだろうか?
支払督促を行った,訴訟を行ったという記事があるが,そのためには公務員がせっせと書類を作っていたり,市の顧問弁護士に代金を支払っていたりするのだ。その財源は全て税金である。
その結果回収できたのが幾らとか,未納がこれだけ減ったとか書かれているが,そういう法的手続のために支払ったコストとの損益計算はニュースには書かれていない。
実際は,毎月数千円の給食費が「不良債権」になったとして,訴訟や何やらを行うだけ赤字であろう。つまり,市民の側から見れば,税金をさらに無駄遣いされるということである。
冷静に考えると,今の制度の下での給食費は,金額から見て,支払われない場合にはあきらめたほうがよい種類の債権である。
これは,給食費に限らず,毎月数千円程度の代金などは何の商売をしていても同じだ。
私の仕事の中でも,いわゆる代金の「もらいそびれ」はたくさんあり,回収不可能なまま順次時効にかかって消滅していっている。
まったくもって腹立たしいが,しかし,所詮,代金支払い義務というのはそういうものなのだ。
誰でも商売人は大なり小なり「踏み倒し」にやられている。それも込みで経営するしかないのが常識だ。
私の気持ちとしては,「踏み倒し」に対しては,
「他人に仕事をさせて代金を払わんという奴は人として許せん。
だが,全ての踏み倒し相手に訴訟をしても手間暇と成果が見合わないのでイチイチやってられんから仕方ない。
金はもう綺麗さっぱりあきらめるが,ともかく,そんな奴の仕事は二度と受けねえ。」
ということになる。
保証人を立ててもらうなどというセコいことは絶対したくない。
2 保証人を立てさせることの効果はあるのか
さて,給食費未納の対処法として,
「連帯保証人を立てさせる」
これが得策か?
得策ではない。
保証人は,本人と同じ義務を負う。つまり,親と同じ給食代金支払いの義務を負う。
だが…
給食代金を支払わない親が立てる保証人は,やはり,給食代金を支払わない可能性が大きい。
要するに,「不良債権」が「不良債権」×2になるだけの話である。
3 保証人を立てさせることのデメリット~その1 むかつく
さらにデメリットは…
まず,保護者からすれば大変ムカツクという点である。
つまり,普通に支払っている大多数の保護者に対して失礼だということだ。
私が感じるように,
「なんで月々数千円程度のものにごたいそうに『保証人』なんか立てさせなければならんのか。支払わん奴はケシカランとして,俺はそんなもの間違いなく払う。そんなに人を信用しないこと自体が失礼だ。」
というムカツキを感じるのは正常というものだ。人間としてある程度のプライドがあれば,こんな「保証人」要求にはむかつくはずだ。
自分の子どもの給食費のことくらい,自分で解決できるわい!
つまり金額レベルとしてはこうだ。ファミレスに家族で行ったとして,数千円の代金にはなる。
だから,ファミレスに行ったら,席に着いたときに,
「連帯保証人の署名押印のある飲食申込書をお持ちいただけましたか?食い逃げ防止のために,御協力を御願いしています。」
といわれ,飲食申込書がなければ食べられない,というようなもので,
私なら,
そんなくだらぬ失礼な要求をするファミレスなど,看板すら見たくない
と思う。人へのリスペクトがかけらもない。泣けてくる。
4 保証人を立てさせることのデメリット~その2 個人の尊厳に反する,他人に迷惑を拡大する
それより何より,
我が子の給食費のことで他人様に義務を負わすという負担をかける,他人に迷惑を掛ける
ことである。本人がきちっと払っても,保証人になると言うことは本人と同じ義務を負うのだから,保証人にされるだけでも十分迷惑である。
学校に行く子の親がこんな形でいきなり「他人に迷惑を掛ける」ことを強要されるなどというのは,ひどいことだと思う。個人の尊厳を踏みにじることも甚だしい。
そして,私は,法教育という面からしても,子どもに対しては「頼まれたからと言って安易に連帯保証人になることは身の破滅を招く」という大切なことを教えるべきだと思っている。なのに,こんな施策は全く逆のことを教えてしまう。将来生徒たちが大人になって「保証人 巻き添えくらって 自己破産」(←いちおう五七五調川柳にした)という目に遭うような人がでてきたら,この給食費保証人政策の被害者かも知れない。
5 給食費問題などくだらぬ。あっさりと,税金にすればよろしい。
では,抜本的に給食費の問題を解決したいと思えばどうすればいいか?
給食費に相当する分を,法律又は条例で「税金」にするのが賢いとおもう。
税金にするとしてこれを誰が負担するかは,別問題として議論すればいい。
給食のある公立校に行っている子の親だけが負担する種類の税にするもよし,全市民が負担する税にするも良し。(前者の方が「利用する人が払う」という対価性を重視するということになろう。後者の方が貧困層救済・福祉重視ということになろう。これは政策論の問題としてみんなが良い方に決めればいい。)
法律又は条例で「税金」としてしまえば,未納の場合は,財産の差押等が今よりは遙かにスピーディにできるから回収コストは,制度上は,極限まで少なくなる。それでも回収しようとしたら赤字になるものはもうどうしようもない,あきらめるのが合理的だ。
自治体は知恵を働かせて,クールにスマートにお金を回収する仕組みをつくればよろしい。
「保証人徴求」などと,下品な金貸しのような真似はやめよと言いたい。
金銭の回収という極めて現実的な問題に,親のモラルの低下への対処などというもっともらしい「道徳」的配慮がごっちゃに混ざるならばちゃんちゃら可笑しい。
それはそれ,これはこれ,である。
何しろこんなものに保証人を要求する失礼な国など,武士道の国の姿とは到底思えぬし,品格ある国でも,美しい国でもない。新渡戸稲造もさぞや泣いているだろう。
何よりこれでは給食が不味くなる。