Silent War 見えない放射能とたたかう

  • 作者: 今中 哲二
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/11/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



 京都大学原子炉実験所助教の今中哲二さんの本です。
 今中さんにはお会いしたことがあります。

 一昨年、兵庫県弁護士会で行った集会を含めて2度お会いしました。

 京大原子炉実験所の小出さんと仲間の方です。

 私は、今中さんについては、大変信頼できるという印象を持っています。

 この本も、

今の科学で分からないことは分からない

分からないものに対してどのように対処するか

という視点で書かれています。

 放射能について「『怖い、怖い』とふくらませた話に、みんなが飛びついてしまうのも、それはそれで問題である」としつつも、「直ちに健康に影響がない」からといって安全などという決めつけは許されないことを述べておられます。

 今中さんは、小出さんとともに、世間的には反原発の最先端と言われていますが、あくまでも、科学者としての立場を守って、はっきりいえることとよく分からないことの区別をしっかりした上で、原発、放射能についての意見を書かれています。

 小出さんが福島事故の前に書かれた本も読みましたが、小出さんも、利己的に「放射能はイヤ」などという立場は決してとっておらず、「既に世界はある程度放射能に汚染されている」という前提のもと、「自分は敢えて汚染された農作物を食べる。なぜなら、そうしなければ、原発の恩恵も受けていない国の弱い立場の人が食べさせられることになるから。それは不正義だから。」という信念を述べられていました。

 確かに、たとえ、利己的な動機であっても、不当なものを我慢せず、「私は、納得いかない放射能被害を受けるのはイヤだ」と声を上げることは、それをしないよりはよい、と思います。

 ですが、それに終わらず、多くの人の考えがその先に進まなければ、根本的には原発問題を解決することができないと思います。
 つまり、自分の立場(例えば消費者としての自分)だけではなくて、社会全体、産業などをどうするか、電力についてどうするか、ということに目を向けて、その上で、多くの人が納得できる道筋をつけなければ、原発の危険を実際に取り除くことは実現しないだろうと思います。

 そんなことを考えさせられました。
 
 原発事故からある程度経っていることもあるかもしれませんが、今中さんの筆致には気負いがありません。

 例えば、福島の現状について、自分が福島で仕事をして暮らしているならば、たぶん、今の放射線量ならば住み続けるだろう、ということを述べられています。
 ただ、孫がいたらどうするか、は難しい問題で答えに困る、と述べられています。
 
 自分は「反原発」であっても大袈裟なことを言わず、正直な感覚を述べよう、という姿勢が現れており、この部分からも信頼できる印象を持ちました。

 気負わないのは、自信の現れ、とも感じられます。

 翻って、自分も原発に限らず、何かの点についてハッキリした意見を持っていて、それを強く言いたいときでも、「自分に都合良く言う」とか、自分に都合のいい材料を「大袈裟に言う」とかするのではなく、今中さんのように、気負わず、ハッキリ言えることと分からないことは区別して、理路整然と、理があると思うことを確実に述べればよいのだ、ということを意識した方がいいな、と思いました。

                        村上英樹(弁護士、神戸シーサイド法律事務所