神戸学院大学後期の講義を担当しています。
ようやく終盤に入り、毎週授業のネタを準備するのに追われている状態も、ほぼ終りが見えてきました。
先週は、
「法が人の幸せに寄与するか?」
をテーマに講義を行いました。
そこで、第一の疑問が、
「幸せとは何か?」
ですので、冒頭に紹介した本の内容を参照していく、ということからスタートしました。
この本は、人が幸せを感じることと関係ありそうな諸要素、つまり、
金
社会的地位
家族
結婚生活
健康
などなど
が、実際どのくらいのパーセンテージで幸せに繋がっているのか、ということを分析した本です。
例えば、金、をとってみると、
一定水準までは金があることと幸福度にはストレートな関係がある。
しかし、一定水準を超えると、金があることによって必ずしも幸福度が大きくプラスになることはない。
などという分析がなされます。
ここから、ごく単純に言えば、法が金の有無という点で人の幸せに寄与するならば、「貧困対策には法の手当がなされなければならず、標準以上に人が大もうけすることに法が手助けをしても仕方ない」という見方も出来る、といった視点も導かれます。
そんなわけで、紹介した本は、諸要素別にアンケートによる幸福度の数値を分析したことを中心に、幸福と関係する項目について色々と考察した本なので、意外な発見があったりして面白かったので、「幸せって何だっけ?」(何だっけ、ポン酢醤油のあるうちさ♪って古いCMを思い出しました)ということに興味がある方にはお勧めです。
中でも、まさに至言だなあ、と思ったのは、
他人との比較は幸福の毒
でした。
法との関係は直接的でなくなってくるかもしれないのですが、「他人との比較」をどんどん強要してくるのが現実の世の中であるという問題点を考えなければならない、と思いました。
「わたしは今のままで十分幸せだよ」という在り方はなかなか許されず、例えば、
「この冬流行るコートはコレ!」といったあからさまな「他人との比較」で「負けない」ように意識づけする広告
「我が子を勝ち組にさせる方法」といったあからさまな「他人との比較」で「負けない」ように意識づけする雑誌のタイトル
などが溢れ、「個人の尊厳」(これは、「私だけ」の尊厳、「我が子」だけの尊厳を意味しません。みんな1人1人の尊厳です)を謳う憲法の精神とは全く矛盾したもので溢れかえっている、そこに我々青年は鋭く違和感を覚えなければならない!と言いたいと思ったのです。
このような「他人との比較」をあおり売上げを上げようとする行為を「不正義」とか「不道徳」といいたいわけではありません。
私が思う正義や道徳はありますが、まあ、正義や道徳は人それぞれであってよいかもしれません。
ですが、こういう行為は人を「幸福になる」ことから遠ざける行為である、ということが、どうやら本質のようです。
「法と裁判」の講義ですが、こういう話になると、
法で規制することの出来ない、社会の問題点
を示す内容となるわけです。「我が子を勝ち組にさせる」タイトルは、平等原則(憲法14条)の精神に反しているから、発行禁止!!なんてできるわけないですよね(これは、憲法21条、表現の自由)。
が、実はこれが大切なところだと思っていて、法学部では、ややもすると、
法によってできること(「民法」「刑法」…の学習の殆どはこれです。「刑事政策」なると法で「できそうなこと」、少し範囲が拡大します。)
ばっかり勉強しがちになりますが、
法で解決できること+できないこと
に触れなければ、法の理解は本当のものとはいえません。
法で何でも解決できる
の思い込みは、大変怖く、
法律によって、自分のよかれとおもう価値観を押しつけること
などという発想にも繋がります。
そうでなはく、
道徳やマナーの範囲 たとえば、電車内などで余り化粧をしないほうがいい
と
法の範囲 人の物を盗んではいけない
とには区別があって当然であり、法は、「最低限互いに守らなければ、お互いの権利や自由が傷つく。」というものに限って作られ機能すべきである、ということが大切だと思われます。
つまり、
野球のショートは、ショートの守備範囲でしっかり守れば良く、たとえば、ライトの守備位置に走っていってフライを捕りに行ったりする必要はない
のと似て、
法は、守備範囲外にでしゃばらなくてもよい(でしゃばるべきでもない)が、法の守備範囲ではしっかり機能すべきである
ということも大切なことです。
もちろん、「法の守備範囲外」のことは、法による規制ではない方法で、どのようにしたら自分や他人が幸福に暮らせるか、をみんな各人が考えなければ仕方ない、というわけです。
例えば、法の問題ではなく、国の予算を何に使うかなどという政策の問題というようなことはこの例です。
まとまらない記事になりましたが、ともかく最初に紹介した本はなかなかお勧めです。
講義の参考にしただけでなく、私の日々の在り方についてもヒントを与えてくれた本です。
村上英樹(弁護士、神戸シーサイド法律事務所)