交通事故の例が多いのですが、スポーツ事故や、傷害事件など、要するに人が怪我をしたということに関して、非常に大きな問題になるのが後遺症、後遺障害です。

 確かにそうで、骨折等のなかなか大変な怪我をした場合でも完全に治れば「後に残るような怪我がなくてよかったね。」といって、回復を喜ぶことが出来ます。

 しかし、後遺症、後遺障害が残るとなると、怪我をするのは一瞬ですが、その後の生活に大きく響きます。

 「後遺症」「後遺障害」という言葉は、判決などでもごっちゃになって使われることがありますが、一応、使い分けられることになっているようです。

(現時点のwikipediaより引用)

 後遺症(こういしょう)とは、病気・怪我など急性期症状が治癒した後も、機能障害などの症状が残ること。

 後遺障害(こういしょうがい)とは、傷害が治ったあとでも、身体に残っている障害を指す(自動車損害賠償保障法施行令(以下、施行令)第2条第2項の規定による)。
                                                    (引用終り)

 それで、怪我をして、一定期間治療して、これ以上は目立った回復をしないとして、後遺障害を診断することを「症状固定」と呼びます。

 損害賠償などの法律的解決をするのは、ともかくも、何らかの形で「解決」しなければならないということが前提にありますから、ここでいう「症状固定」というのも、「解決するための技術」の一つです。

 というのは、人の体ですから、「固定」なんてことは本当はありません。
 健康体であっても、常に動いています。(現に、私の喉は今、先週風邪をひいた後の症状から相当荒れていますが、キーボードを叩いている今の瞬間は、荒れている部分が徐々に治って行っている最中であるはずです。ですが、一方で、もしかしたら、私の眼は疲労によって幾分か機能が低下しつつある最中かもしれません。)

 というわけで、「症状固定」というのは、人間の体の状態が文字通り「固定」するわけでは決して無く、お医者さんに診断をしてもらい「後遺障害診断書」を書いてもらうこと、と考えた方がすっきり理解できます。

 
 じゃあ、「症状固定」といっても、お医者さんの判断とか、当事者の思惑とか、保険会社の圧力とか、諸々の事情によって、何とでも動くのではなないの?という疑問が湧いてきます。
 
 この疑問は、ある程度当たっています。

 基本的にはお医者さんの判断です。もっとも、「胸先三寸」だけで決まるわけではなく、「後遺障害診断書」があっても、後に裁判になって、例えば、裁判所が「症状固定の時期はもっと前である」と考えれば、お医者さんの判断通りにならない場合も中にはあります。

 
 損害賠償問題で、損害賠償金額の計算のもとになる「後遺障害」について説明しますと、交通事故でもその他の事故でも、基本的に労災の基準を参考に考えます。
(交通事故案件について、参考 神戸シーサイド法律事務所HP http://www.kobeseaside-lawoffice.com/koutuu/index.html

 「後遺障害」というのは、基本的に1~14級の14段階に分けられ、基準が決まっています。

厚生労働省HP
 http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken03/index.html


 交通事故の場合は、通常、裁判をするよりも前に、この基準にあてはまるかについて、自賠責事務所というのところが認定をします。


 基準というのは、もちろんないと困るのですが、杓子定規な面もあって、その基準にちょっとでもあてはまらないと「等級無し」ということになってしまうことがあります。
 
 「等級無し」となると、処理としては「後遺症無し」と同じことになります。

 人の体ですから、そういう後遺障害認定基準にきっちりあてはまらないけれど、でも確かに本人にとってはなかなか大変な後遺症が残っているということもあり得るのですが、「基準にあてはまらない」というのは血も涙もなく「後遺症ナシ」と同じ扱いを受ける恐れがあります。


 そこで、実際には、「後遺障害診断書」をお医者さんに書いてもらう際に、後の損害賠償のことを考えると、色々と注意しなければならないポイントがあります。

 例えば、

・ 事故等の後遺症で関節が不自由になった場合に、関節の動く角度を測定するわけですが、その測定値について数字の基準があるので、目分量でいい加減に測定されてその結果が後遺障害診断書に書かれてしまい、一旦「等級に該当しない」となると、そのあと後遺障害の認定を受けることが難しくなるということ。

とか

・ ちょっとした記載の仕方によって、症状が実際よりも軽いと誤解される場合があり、一旦誤解を招くとそれを訂正することが困難であること

などなどです。

 ですので、「診断書」というのは医師が自身の判断に忠実に書くのが本来ではあるのですが、実際には、「後遺障害診断書」に関しては、医師に作成を依頼する際に、弁護士が依頼者の状況を良く聴き取って、

・ 医師に、これこれこういう項目について漏れの無いように書いてもらって下さい。

・ こういう項目については、厳密に○○の検査をしたうえで、記入してもらって下さい。

等のチェックポイントを考えて、アドバイスをする必要があることが多いです。

 場合によって、医師と面談をして説明を聞いた上で、損害賠償実務上必要と思われる項目について弁護士が説明して後遺障害診断書を作成してもらう、ということも必要です。

 もちろん、「実際よりも、重い後遺障害があるように書いて下さい」なんてお願いをすることはできませんし、仮にしたとしても医師は自分自身の独立した判断で行動しますから、そんなことは実現不可能です。

 ですが、ちゃんと書くべき項目は何か?記載した内容について損害賠償実務ではどのような扱いがされるか?という重要なポイントについて、医師とも考えを一致させたうえで、患者さんが不当な誤解を受けないように記入して頂く、ということが非常に重要です。

 後遺障害の賠償となると、ある程度以上の重さのものは、一時にもらえる金額は数百万円以上になるなど「結構な額」のように一見思えるかもしれませんが、これは「一生、後遺症とつきあっていかなければならない代償」ですから、本当は幾らもらっても見合いません。

 なので、後遺症が残る案件については、(もちろん実務上可能な範囲で、ということですが、)出来るだけ悔いの無いようにしておくことが必要です。


 というわけで、「後遺障害」の認定、その損害賠償、というのは、本来固定するはずのない人間の体を「固定」したと一応みなして、色々の計算をするというのですから、ある種のフィクションを含んでいますが、実際の事案「解決」のために仕方ないフィクションである、と考えてやっていくしかない面があります。

 私たち法律家としては、

「解決」に必要な「フィクション」は、それはそれとして、上手く付き合い、利用しつつも、

それにとらわれず、

「症状固定」って言われても相変わらず痛くなったり治療を受けたらちょっとは良くなったり色々変化があるんだけどなぁ、という、「本当の本当」の実情があることをちゃんと重視しなければならない(あくまでも苦しんでいる人が少しは楽になる方向で)、と考えるべき、というのが私のスタンスです。

 この基本姿勢は大事に、来年以降もやっていきたいと思っています。