それは,
弁護士費用特約
だった。
私は,そのとき,
「いや,これはつけてくれ。」と言った。
代理店の人が何で?自分が弁護士やのに?という顔をしたので,手短にこういう分かりやすい説明をした。
「いや,事故で私が死んだり寝たきりになったらどうしようもないでしょう?」
代理店の人,納得されていた。
弁護士費用特約というのは,交通事故で,基本的に自分が被害者として加害者に対して,損害賠償請求するときの弁護士費用について,保険で出るという契約だ。
多くの場合が弁護士費用が300万円まで出る保険。
つまり,弁護士費用を300万円までは自腹切らなくて済む,という保険だから,便利だ。そうでなければ,被害者なのに,加害者に裁判を起こそうと思えば,着手金を自分で何十万と用意しなければならない。これはかなりしんどいことだ。
最近は,「弁護士費用については自分の保険の弁護士費用特約がついている」という依頼者の方も増えてきた。
相談を受ける弁護士の側としても,とても気が楽だ。依頼者の経済的状況などに関わりなく,受任して示談交渉するとか訴訟をするとか,「必要な場合にはお金に困らずやれる」ということだから,本当にありがたい(ただし,それでも,「やれるものは何でも訴訟」がいいとは限らないが。)。
交通事故遺族の方,または,後遺症に苦しむ方から,その人の自分の財布からお金をもらうというのは,いつも心苦しい思いがある。(もちろん,仕事だからもらわないわけにはいかないのであるが。)
だから,この特約は助かる。私は保険屋さんではないが,この特約は,イザと言うときにはかなり助かるものだろう。オススメである。
さて,横道に逸れた。
私が弁護士費用特約に入っているのは,実は,
私が倒れていて自分で裁判をやったりできない場合に備えて
という理由だけではない。
むしろ,それより大きい理由は,
自分のことは適切に弁護活動できないだろう
ということだ。
事件を当事者そのものとしてではなく,他人事としてみるから,客観的に見られる。
裁判官ならこの事件をどう見るだろう
相手方は何を考えてどういう作戦でやってくるだろうか
期待する結果を得るためには,何が有効だろうか
を,怒りとか恨みとかの感情と切り離して考えることが出来る。
だから,弁護士の仕事は,他人事だからできるのだとおもう。
修習生やロースクール生に対して,いつも
「『ええ意味で』他人事という意識で,弁護士業務はせなあかん。」
と私は言っているが,上の意味である。
ゆえに,ここが難しいところだが,「依頼者の助けになりたい」という気持ちの中で,でも,感情移入のしすぎは危険で,「客観的な冷めた目」を持たねばならぬのが,この仕事である。
熱ければいいというわけではない,が,内なる熱さは必要。
「冷静と情熱のあいだ」である。
というわけで,きっと,
私は私の弁護はできない。
いや,やればできるだろうが,私が,私以外の依頼者の仕事を受けてやるときくらいの判断水準を保つ自信は全くない。(それを思えば,橋下弁護士は,起こされた裁判を自分で戦うといっているが,うまく出来るのだろうか。と心配になるが,これは無責任な心配で,万一私に依頼されても,その裁判をやる余裕は今の私にはないのでお断りするほかないが。 注 … 橋下弁護士・光市事件弁護団の問題について,この日記はどちらの立場を擁護するものでも,どちらの立場に反対するものでもない。橋下事件に関するコメント一切ご遠慮ねがいます。)
外科医をやっている私の友達が,奥さんの皮膚を縫ったと言う話を聞いた。その外科医は,感想として「身内のオペなんかやるもんじゃない。脂汗が出た。他人の体や思うからオペができるんや。」と言っていたが,そうやろなぁ~~~~と思う。(外科医の彼は,患者に対して無責任なドクターだということは絶対にない,と言いきれる。その外科医は,極めて責任感と職人根性の強い性格だ。)
つまり,弁護士が他人の紛争に関わることは,
法律的専門性
の意味だけでなく,
客観的視点の提供(広い視野の提供)
という意味があり,それも極めて重要だということだ。
これから弁護士も増える世の中で,どうか市民の皆さんは,法律相談に行ったら,
「この弁護士は,自分の言うことを『そうだそうだ』というだけではなく,『客観的に見たらどうか』『相手や裁判所はこの事件をどう見るだろうか』という視点を提供してくれる弁護士だろうか。」
という視点で,自分にとって本当に役立つ弁護士選びをしていただきたい,と思う。
誰かへの怒りをもって相談に行ったとき,「そうだ,そうだ」「じゃあ,やりましょう」と安請け合いする弁護士にあうと,「自分の気持ちを分かってもらえた」と思ってつい嬉しくなるかもしれないが,それだけだと危険かも知れない。
良薬は口に苦し,である。
「無理なものは無理と言ってくれる」または,「裁判で勝つか負けるかなどについて,予想できる部分と出来ない部分をちゃんと説明してくれる」弁護士のほうが信用できるだろう,と私は思う。