今日は、どちらかと言えば、裁判をやっている(直面している、興味がある?)方向けの記事です。
 裁判をやっている方と言っても、弁護士や裁判官のことではなく、一般の方で、はじめて裁判をやっていて(弁護士がついているいないにかかわらず)、「なんじゃこれ?」と思うポイントの1つについての話です。

 裁判をやっていると、裁判所から、

「それでは、○○の点について、原告の『陳述書』を提出して下さい。」

と言われることがあります。

 例えば、交通事故についての損害賠償請求で、

「それでは、次回までに、事故の状況や後遺症について、原告の『陳述書』を出して下さい。」

などと言われたりします。

 で、そのとき、法律家でなければ素朴に思うだろうこととして、

「事故の状況や後遺症について、って、もう訴状とか準備書面で書いたんだけど。裁判所は読んでくれていないのだろうか?」

「なんで同じことをもう一回書かなければならないんだろう。」

というのがあります。

 
 このことについて、解説します。

 民事訴訟というのは、

1 当事者の主張が認められるかどうかで勝負が決まります。

2 主張を認めるかどうかは、その主張を裏付ける証拠があるかないかによって決まります。

3 訴状や準備書面は 主張 を書いた書面です。

  それに対して、陳述書は、1つの証拠です。 


 図示すれば

 主張     … 準備書面、訴状、答弁書など
  ↑
 証拠     … 陳述書       その他に 書類、写真、証言 なども同じ位置づけ

ということなのです。

 これが、最初はピンと来にくい。と言うよりも、今の私でも、陳述書の場合は「証拠」という感じはピンとは来にくいのです。
 なぜなら、「陳述書」、特に当事者(原告や被告など)の「陳述書」は、ほとんど主張と同じ内容になりますから、一般的に言う「証拠」という感じがしないからです。
 
 通常、日本語でいうときの「証拠」のニュアンスは、もうちょっと客観的で確かなもの、という意味合いだと思います。

 しかし、訴訟法上の位置づけは、一般的な日本語のニュアンスとは少し違っていて、「陳述書」は証拠に位置づけられ、証拠として扱われる、ということです。

 だから、証拠である「陳述書」を提出すれば、その内容を信用して当事者の主張を認めて判決を下すことも、訴訟のルールとしては可能なのです。
 一方、「陳述書」も提出されず証拠が1つもない場合は、当事者の主張を認めることは通常できないということになります。
 
 これが、陳述書の訴訟における位置づけの解説です。

 
 ただし、「陳述書も証拠である」とは言っても、一般的には、信用力は余り高くありません。
 例えば、契約書類や写真、画像などといった証拠はある程度、客観的で明確なものと考えられますが、これに対して、陳述書は誰かの述べたことをそのまま文章にしたものですから客観性に乏しい性質のものです。
 
 ですから、陳述書だけで「真実はどうか?」を決定するのには無理があることが多いのです。(この点、供述や証言も同じことです。刑事事件でいう自白も基本的な性質は同じです。)
 
 大抵の場合、 

 事件のストーリーを裁判所に把握してもらうため陳述書を出す必要はある。
 けれども、それだけでは足りず、勝訴するためには、陳述書の内容で重要な部分については、それを裏付ける出来るだけ客観的な証拠を出す必要がある。

ということが多いです。(もっとも、離婚事件における家庭内の出来事など、「陳述書」や供述、証言で言うしか証拠がない、という種類の事件も存在しますが。)

 以上です。

 裁判で、一般に出くわしやすい「?」について、読者の方の御理解の一助になれば幸いです。

                             村上英樹(弁護士、神戸シーサイド法律事務所