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「SHOE DOG」(フィル・ナイト) [読書するなり!]


SHOE DOG(シュードッグ)

SHOE DOG(シュードッグ)

  • 作者: フィル・ナイト
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2017/10/27
  • メディア: 単行本



 靴の「NIKE」創業者の話です。
 読み応えあります。

 ナイキのシューズ,格好いいですね。

 ランニング,ゴルフ,野球,バスケ… どれでもクールで格好いい(といいつつ,私の野球スパイクはミズノですが)。

 私は,大学卒業してからずっと弁護士なので,他の自営業をやったことがありません。

 「ちゃんと商売になるかならないか分からない」という状態から事業を起こし,今の「ナイキ」を作るまでの,山あり谷ありのお話,とても興味深く読んでいます。

 失敗もあり,しんどい時期もあり… 
 リスクがあってもやりたいことがあるから前に進んだ著者の物語は,本当に引き込まれます。

 私も,「心地よいところにとどまる」マインドではなく,もっと良いこと,もっと人の役に立てることをどんどんやっていこう,という気持ちがさらに強くなりました。

 とにかく読み物として面白いので,特にビジネスマンや若い方,学生さんなどにオススメです。


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「マンガでやさしくわかるCSR」(足立辰雄著) [読書するなり!]


マンガでやさしくわかるCSR

マンガでやさしくわかるCSR

  • 作者: 足立 辰雄
  • 出版社/メーカー: 日本能率協会マネジメントセンター
  • 発売日: 2017/11/30
  • メディア: 単行本



 CSRとは,企業のマネジメント手法の一種です。
 言葉の意味は,
 
 C Corporate      企業の
 S Social         社会的     
 R Responsibility 責任

です。
 
 「企業の社会的責任」がマネジメントの手法!?と思うわけですが,

自然環境や社会環境へのダメージ(温室効果ガスや有害物質の排出,リサイクルされない使い捨て材料の大量使用,長時間労働による健康への悪影響など)を少なくして社会から信頼される会社を作るための持続可能なマネジメントの手法

のことを「CSR」と呼ぶのだそうです。

 簡単に言えば,短期的な金儲け主義に走り社会的信用を失う,という在り方とは反対のモラルのある(信頼される)会社を目指すマネジメントというイメージだと思います。

 最近,「コンプライアンス(法令遵守)」に関するニュースが多く取り上げられ,製鋼所の「データ数値改ざん」などが報じられています。

 「CSR」は,「コンプライアンス(法令遵守)」はもちろん,法令に反しなくても,地球や人に優しい会社の在り方を目指すものです。

 それは会社の発展(利益も上げなければならない)と両立するの!?という疑問も当然ですが,そこは,この本の

マンガ 今治のタオル会社を継いだ娘さんの物語

 +

解説

を読んで,どのように両立,というより,「CSR」を会社のマネジメントとして具体化しながら,それも活かして会社を発展させていくか?というところを読んでいただければ,という内容です。

 私も「CSR」の話をよく聴くようになったものの,基本的な知識や,具体的なイメージがなかったので,この本を読んでとてもためになりました。

 弁護士などは特に,自分が儲けるために人の間をこじらして「事件」にするなどはもってのほかであり,結局,関わる人(依頼者相談者)がより活き活きとして生きるためにはどうすればいいかを最優先に考えて手助けする,ということが大切です。
 してみると,「CSR」のコンセプトは,私が司法修習生や新人弁護士だったころからずっと先輩法律家に教えてもらった理念とすごく通じるものがある,と感じます。
 
 自分の仕事もそうであるし,また,「CSR」を取り入れた会社経営,事業経営をしたいという方の手助けもしたい,とこの本を読んで感じています。


 
 


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カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」 [読書するなり!]


わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

  • 作者: カズオ・イシグロ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2008/08/22
  • メディア: 文庫



 ノーベル文学賞のカズオ・イシグロ氏。
 すごい小説です。

 特殊な運命の中にある主人公たちの,子どもから大人へ,自分たちを取り巻く環境が徐々に見えてくる様,その中での心情を精緻に描いた,ものすごい作品です。
 
 精緻といっても設定自体が特殊なものなので,そのなかでの心情描写,人間同士の交わりの描き方を私が読んで「精緻」と感じるのは,作者の人間存在への洞察が非常に深いからだ,と思います。

 難しい言い方になりましたが,とにかく,人間を見る目,描く力のすごさに感じ入りました。

 最初から一定の刺激があるというタイプの小説ではありません。

 しかし,じっくり読んでいると,ある章あたりからギュイーンと引き込まれて,電車が目的駅に到着するのも忘れてしまうくらい。
 真に力のある小説とはこういうものか,と思いました。

 まだの方,是非読んでみられることをお勧めします。

 小説の力,文章の力を感じることが出来ます。



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【読書】2050年の技術 英『エコノミスト』誌は予測する [読書するなり!]


2050年の技術 英『エコノミスト』誌は予測する

2050年の技術 英『エコノミスト』誌は予測する

  • 作者: 英『エコノミスト』編集部
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2017/04/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



 ノストラダムスの予言しかり,○年にはこうなる式の予言・予測にはなかなか勇気が要りますね。
 
 私自身も,間違いを恐れるので,将来については「○○になっている可能性もある」などという「不正解」にならない言い方をついしてしまいます。
 しかし,未来のことなど誰にも分からない,という開き直りに立って,「私はこう思う」とハッキリ言うのがいいように最近は思っています。

 さてさて話が逸れましたが,この本は,未来の私たちをとりまく世界について,現在分かっていることをもとにかなり精度の高そうな予言をしてくれています。

 たとえば,次のようなことです。


スマホを手に持つ などという状態は近い将来なくなり

AR(拡張現実)メガネを多くの人が着用するようになり

それが,コンタクトになり,さらには,眼球にAR機能が埋め込まれるようになる。

 つまり,何も装着しなくても,ネットを介して世界と,ビッグデータと繋がっている状態になる。

 すごく便利になるが,それは,プライバシーの大部分と引き換え。

 逆に,プライバシーは富裕層だけの贅沢品になる。


 帯によれば,この本は,「AI,自動車,バイオ,農業,医療,エネルギー,軍事,VR,拡張現実など20の分野を徹底予測」とあるとおり,上記はほんの一例で,2050年の世界の予測を多方面で書いている本です。

 予測には外れも当たりもあるでしょうが,これから世界が進んでいく道のイメージが湧きました。
 読んでいて「それっていいこと?」という疑問は色んな箇所で湧きましたが,それはそれとして。

 私自身の未来予測としては,技術の爆発的進歩の中で,究極的には,技術の進歩 と 人の本当の望み,幸せ とがいかにマッチするか(しないか,させられるか),という課題がより鮮明に人類に突きつけられるのだろう,という気がしています。
 私は,技術の進歩の価値に懐疑的というわけでもなくて,例えば,人の愛情の対象も技術の進歩によって変わっていくのかなあ(人間以外の存在にも人間相手同様の愛情を抱く,など。愛情,自然の情の問題なので良いも悪いもないですね),それはそれで新たなジャンルの小説が産まれるのかもなあ,などと思ったりしています。

 弁護士の仕事も激変するだろうけれども,逆に変わらない本質(トラブルに見舞われた人のしんどい状況を改善し,より明るい方向に繋げていく)も明確になるだろう。
 私の思う大切な価値を実現する,ということは変わらず仕事をしていきたいと思います。

 

「文庫X」 [読書するなり!]

 今も書店にあるのでしょうか?
 少し前に書店で「文庫X」を買いました。それを今読んでいます。

 「文庫X」とは何か?

 例えば、↓のようなニュースがあります。
 http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG07H0C_X00C16A9CR0000/

 文庫本に特殊なカバーが掛かっていて、中身が何かわからないようにして売っている本です。
 あえてそうしているとのこと。
 1人でも多くの人に読んでもらいたい本、そのためにはこの方法で売るのが一番だと考えた、という意味のことがカバーに書かれていました。

 私も、「そこまでいう本というのは一体どんなものか?」と思って買いました。
 そうすると、開いてみると、私が自分ではまず買わない種類の本でした。
 むしろ、そのジャンル以外の本が好きで、(仕事に関係なければ)読まない種類の本でした。

 なので正直腹が立ちました。
 こんな売り方ってあるかよ!と。 

 そうして1ヶ月以上は家に置いていたのですが、先日来読んでいます。
 確かに、自分の望まないジャンルだったので「こんな売り方ってあるかよ!」なのですが、私が買ったということは、私はそれを受け入れていたのです。
 
 望まないジャンルの可能性もあるけれども、そんな「ありえない売り方」をする本って一体!?

ということに私が興味を持ったからこそ買った。
 なので、読んでみることにしました。

 中身としては(ネタバレは避けますが)、大変読み応えがあります。
 時期が来たら感想文を書くかも分かりません。そのときに内容を絶賛するとは限らないのですが、私にとっては買って後悔は今はありません。
 
 だとすれば、最初「ありえない売り方」という風に思った私の了見が狭く、人に何かを伝える手段は思ったよりもいろいろある、ということなのではないか、と思えてきます。

 自分が本当に良いと思っていることについては、「常識」と思っていることにとらわれずに、もっと良い方法がないかというのを考えてみること、そういう思考の柔軟性とか創造性を持ち続けたいと感じています。

神戸シーサイド法律事務所                             弁護士 村上英樹


 

「ポピュリズムとは何か 民主主義の敵か、改革の希望か」(中公新書 水島治郎著) [読書するなり!]


ポピュリズムとは何か - 民主主義の敵か、改革の希望か (中公新書)

ポピュリズムとは何か - 民主主義の敵か、改革の希望か (中公新書)

  • 作者: 水島 治郎
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2016/12/19
  • メディア: 新書



 面白そうな本なので読んでみました。
 
 世界的に「ポピュリズム」とも呼ばれる政治スタイルが選挙で勝つなどのことが最近よく起こる、と言われています。
 
 この本の帯によれば、

イギリスのEU離脱
反イスラム、反エリート
トランプ米大統領誕生…

が例に挙がっています。
 
 日本でいえば、

「維新」の台頭

が例に挙げられています。

ところで、一般的に、「ポピュリズム」という言葉を使うときには、マイナスイメージで使われることが多いと思います。「インテリ」のような層が「ポピュリズム」というときなど特にそうです。

 この本が紹介する「ポピュリズム」の言葉の意味もいくつかあるのですが、たとえば、「国民に訴えるレトリックを駆使して変革を追い求めるカリスマ的な政治スタイル」(吉田徹氏)などの定義があるとのことです。
 
 「ポピュリズム」といわれれば、私としても「民衆を煽る」というようなイメージを抱きます。

 
 さて、この本では、「ポピュリズム」について、それが「悪いものである」とか「良いものである」という価値判断を離れて、

世界でどのような現象が起こっているのか

アメリカ、ヨーロッパ各国の「ポピュリズム」勢力はそれぞれどのような特徴を持つのか

「ポピュリズム」勢力が出てきた理由はどこにあるのか

「ポピュリズム」勢力が、その国の政治に与えた影響は何か

について客観的に分析されています。

 
 たとえば、「維新」の橋下氏の政治手法について、世の中では、

「敵を作って、人々を煽る手法はけしからん

「民主主義の正しいやり方ではない

という批判をする人も多いですが、ここの「けしからん」「正しいやり方ではない」かどうかをこの本は論じるものではありません。

 
 「良い」「悪い」「好き」「嫌い」を別にして、

なぜ「維新」が現れ、一定の支持を集めたのか

既存政党の行う政治には、どのような点で批判されやすい点があったのか(人々の不満の種がどういうところにあったのか)

「維新」が現れてから、既存政党の側が行う政治にどのような変化があったのか(既存政党側も以前はしなかったような「改革」をするようになったか)

などを分析しよう、という趣旨の本です。

 
 そして、ヨーロッパ各国の「ポピュリズム」勢力の紹介がとても興味深いです。

 要するに、ヨーロッパ各国(フランス、イギリス、オランダ、ドイツなど)の人民の隠れた「本音」を代弁するのが「ポピュリズム」勢力の傾向で、

移民・難民の受け入れ反対
反イスラム

などをストレートに訴える勢力が一定の支持を得る、という現象が各国であるようです。

 また、それと一緒に、

既存のエリート層の政治による「腐敗」を批判する

というのが加わってくることが多いようです。

 そして、「ポピュリズム」勢力が台頭してきた場合に、それが連立与党の一部などになる場合もあり、野党に止まる場合もあるが、いずれにせよ、

既成政党(特にそれまでの体制派)の側も、「ポピュリズム」勢力に批判される点(既存政治の「腐敗」と呼ばれる点)の改善、改革を意識せざるを得なくなる

ということが起こっているのも、各国ともみられる現象のようです。

 
 橋下氏や、トランプ氏のようなキャラクターの濃い人物(政治リーダー)がでてきたとき、ついついそのキャラの濃さから、人物に対する「好き」「嫌い」でモノを見てしまいがちですが、「好き」「嫌い」ではなく、


現状の政治の良い点、悪い点

(米大統領選挙)選挙結果などに表れた国民(人民)の考えはどういうところにあるか

政治がよりよい方向に向かうために、誰に、何が出来るか


を考えることこそ必要だと思います。
 そういう意味で「ポピュリズム」について冷静に分析するこの一冊は、とても視野を広げてくれ、また客観的な視点を与えてくれる良書だと思いました。

  神戸シーサイド法律事務所                             弁護士 村上英樹


 
 

「マチネの終わりに」(平野啓一郎著) [読書するなり!]

 今日読み終わった本です。 


マチネの終わりに

マチネの終わりに

  • 作者: 平野 啓一郎
  • 出版社/メーカー: 毎日新聞出版
  • 発売日: 2016/04/09
  • メディア: 単行本



 作者の平野さんは、1975年生まれ、京大法学部卒。
 これ、私のプロフィールと同じです。

 同時期に京大法学部にいたはずですが、私は平野さんと全く面識はありません。
 学生時代のことですから、もしかして、私の知らないうちに何らかの迷惑をかけたことがある、とかそんな接点がある可能性は否定できませんが…
 
 平野さんの小説を読むのは、デビュー作「日蝕」以来です。
 「日蝕」は、私が司法修習生だったときでした。

 今回の作品は恋愛小説ですが、人間の存在そのものへの掘り下げ方、その描写がとても読み応えがあって、素晴らしい作品でした。
 世界的ギタリストの蒔野と海外で暮らすジャーナリストの洋子との恋愛を描いたものですが、数奇な運命をたどります。
 
 文章も非常に美しく整っていて、とても質の高い小説だと思いました。

 私が自分の仕事柄印象に残ったのは、主人公の1人ジャーナリストの洋子が、アメリカで夫と暮らす中で、夫のしている仕事(金融に関する研究職)についてついつい気になってしまう、という一節でした。
 サブプライムローン問題の根底に関するものですが、証券会社等が金融商品を作るときに明らかに危ないと分かっていて作っているのではないか、研究者もそれと知りながらお墨付きを与えているのではないか、と洋子は感じ、それに従事している夫に対してどういう考えで仕事をしているのかを聞かずにはおられなかった、という場面がありました。

 私は金融商品被害事件に関わってきましたが、やはり、最近の新しいタイプの金融商品(たとえば、「仕組債」と呼ばれるものなど「金融デリバティブ」)の中には、「危険を敢えて見えにくい形にして売っている」と思わざるを得ないものが多くあります。
 これは、私や、日本の弁護士たちが言っているというだけではなくて、海外(アメリカ、オーストラリアなど)でも裁判沙汰になっています。

 仕事をする上で、そのレベルや大小には違いがあるにせよ、「自分が心底正しいと思うこと」と「仕事の上で会社や関係者から求められること」のギャップというのは必ずあります。
 もしかしたら、グローバル経済の威力が大きくなっている現代のほうが、昔よりもこのギャップが大きくなりやすいのかも知れません。
 そういう中で自分のポジションで(おそらく)悩みを持ちながら仕事をする人の、仕事人としての面と、家族ある人間としての面、それをあわせた「存在」というところを描いているのが、私には読み応えがありました。

 もちろん、この小説の主題は、金融商品ではなく、恋愛です。
 
 激動する現代社会(他にも、イラクでの紛争、東日本大震災などが主人公たちの生き方に多大な影響を与えます)の中でそれぞれに懸命に生きている2人の恋愛の結末やいかに?

という、読者を飽きさせないストーリーで、一気に読んでしまいました。

 「読書の冬」にお勧めの一冊です!

 
神戸シーサイド法律事務所                             弁護士 村上英樹

 

「火花」~又吉直樹著 [読書するなり!]


火花

火花

  • 作者: 又吉 直樹
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/03/11
  • メディア: 単行本


 
 この本についてはもう、(1人でも多くの方に)読んで頂くしかない、という感想です。
 魂の作品だと思いました。

 芸人である主人公が、ある先輩芸人との付き合うなかで、色んな発見をする、という話ですが、何かの物事に本当に向き合うことや、何かを突き詰めること、特に、人間の本性の根幹部分に純粋に向かっていくことというのはどういうことか、を感じる作品でした。

 純粋に理想を追うということが素晴らしい、という単純な話ではなく、むしろ逆に、純粋に理想を追うことは恐ろしいこと、不都合なことにたくさんぶち当たることになるが…という話です。

 ここからは「火花」で書かれていることではなく、私が考えたことです。

 「笑い」というのは、突き詰めれば、人間社会と人間の本性そのものの根幹で、何らかの「ずれ」であったり「意外性」であったり、そういうハプニングが起きる(起こす?)ところに生じるわけです。
 これを業とする「芸人」というのは、まさに人間の本性そのものに深く切り込んでいる仕事であって、これ以上にハードな仕事はないように思えます。

 弁護士は、人相手の仕事ですし、多くはトラブルの渦中にある人相手の仕事ですから、これも人に対する深い洞察力や想像力などがなければ、依頼者をよりよくサポートすることができません。
 ただ、あくまで取り扱う事柄そのものは法律問題であり、そこには法律なり裁判例なり、確かな道しるべとなるものがたくさんあります。
 一方で、「芸人」さんにはそんな「道しるべ」はなく、「芸人」さんは自分の感性(と相方?)だけをよりどころとして、人間という一番難しいものに素で挑んでいくという、考えただけで恐ろしいハードさの中で勝負していると思われます。
 又吉さんが描く、そういう「芸人」さんの在り方からは、私にとって学ぶもの、感じるべきものがたくさんあるように思えました。

 もちろん、弁護士の仕事が芸人さんよりも軽い、などということではありません。
 別の面で弁護士にはハードさがあります。
 しかし、やはり弁護士の能力(いや、弁護士に限りません。究極的には「仕事人」であればみな一緒でしょう)は人間的な総合力です。
 これは、私がいくつになっても「自分はまだまだ」ということになると思いますが、特に私が未だ40歳の若輩であることからすれば、「人」に対する勉強をもっとしなければならない、といつも強く思います。
 本などに書いてある「答えのあること」について専門家として理解と知識を備えることは当たり前、その上で、人間的な総合力を高めてより大きな力を発揮し、法律的な考え方や知識を実際に人のために役立たせることができるように、日々研鑽を積まねばならない、と思った次第です。

神戸シーサイド法律事務所                             弁護士 村上英樹

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戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗~加藤陽子著 [読書するなり!]



戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗

戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗

  • 作者: 加藤 陽子
  • 出版社/メーカー: 朝日出版社
  • 発売日: 2016/08/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)





 日本が太平洋戦争に至った過程で、大きく選択を迫られていた3つの場面、

リットン調査団報告に基づく勧告を受け入れるか
日独伊三国同盟
1941年の日米交渉

を取り上げ、日本の置かれていた状況を、中高生との講義実況の形で本にしたものです。

 まず、そのときどきの国際情勢がどうであったかということの整理として大変勉強になる本でした。
 
 大雑把に捉えて「戦争に進んだのは誤りだった」ということ自体は結果から見て否定しようがないことだとは思いますが、その前段階で、例えば自分がその時代の政治家だったら、一体どういう選択を強いられていたのか、ということを知るのは有意義だと思いました。

 戦争の結果を知る私たちとしては、おそらく多くの人が、「どうにか止められなかったのか」という風に思いながらこの本を読むことになります。
 
 そうしたときに、

・ 政治家の中でも、冷静な判断で、戦争を拡大しないようにすべきという意見を言った人もいた。
・ 外国にも、日本のメンツを立てた上で事態を収束しようとする動きがあった。

などのことが具体的に分かるのですが、その時代の現実を考えるとき、

・ 誰か、個人的に判断力のある政治家がリーダーだったら止められたのか。
・ あるいはそれでは不可能だという、国家のシステム上の問題があるのか。
・ その他に、日本の意思決定に影響を及ぼす強い要因がどのようなものか。
・ それぞれの要素がどの程度強いのか。

などを深く掘り下げて考えるきっかけになる本でした。
 実際に、加藤氏が中高生相手にこのような授業をシリーズ物として行ったというのですが、それは、未来の平和な世界を創造するための大切な勉強になることだっただろう、と思います。

 「戦争はあかん」ということを伝えていくことはそれ自体大事です。
 ただ、今の私たちの世代も若者も、みんな「戦争はあかんのはわかっとんねん」といいます(本当にわかっているかどうかはともかく)。
 そして、「戦争があかんとして、じゃあ、どうすればいいのか?何もしなくて平和が守られるのか?」というところが問題。
 そうしたときに、なぜ戦争が起こって、あるいは、どういう風になれば国際紛争が戦争になってしまうのか、それを止めるために具体的に何が必要か、などの実際を考えてみる。
 それを過去から学び、現代にも通用するものがあるかを考えてみる。
 こういう大事なことを考えるきっかけや視点を与えてくれる本でした。

 どなたにもオススメの本です。

  神戸シーサイド法律事務所                             弁護士 村上英樹

追補
 最初、こっちの本をタイトルに挙げていたのですが、私が読んだのは「戦争まで」のほうでしたので、タイトルと冒頭のリンクを変更しました。


それでも、日本人は「戦争」を選んだ

それでも、日本人は「戦争」を選んだ

  • 作者: 加藤 陽子
  • 出版社/メーカー: 朝日出版社
  • 発売日: 2009/07/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


 

「USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門」(角川書店 森岡毅氏著) [読書するなり!]

 読書評です。


USJを劇的に変えた、たった1つの考え方  成功を引き寄せるマーケティング入門

USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門

  • 作者: 森岡 毅
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2016/04/23
  • メディア: 単行本



 東京ディズニーリゾート(TDR)には何度も行きましたが、USJは開園当初に行ったきりであとは数えるほど、特にここ最近は全然行っていません。
 
 ただ、私の中の「開園当初のUSJ」の印象からは意外なほど、

若い人たちは頻繁にUSJに遊びに行っているし
遠くから、外国からUSJに来る人が多いし
大阪に来た人がやたらUSJを楽しみにしているし

というのが、何でなのか?と思っていたのです。
 その理由がこの本を読んで分かりました。

 簡単にいえば、ハリーポッターなど魅力的な出し物がどんどん出てきた、ということが要因なのですが、それらがただ思いつきとか短期的な魅力ということで出てきたのではなくて、

消費者の求めているもの、行動その他の要素の分析

がなされたうえで、

中長期的なパークの戦略の中で、本当に必要なものに限られた資源(お金、労働力など)を集中的につぎ込むこと

によって、今の魅力あるUSJになっている、ということでした。

 いや、私から見て「開園当初のUSJ」が別に悪かったわけじゃありません。
 ハリウッド映画の世界観を味わえる、それはそれで楽しめるパークでした。
 ですが、ハリウッド映画が特別好きだというわけではない私としては、いいパークだと思うけど、一回行ったらしばらくはもういいかな、という感じでした。
 この本によれば、通常の消費者というのは、だいたい私と同じような感覚だったようです。
 USJが元々持っていたハリウッド映画のテーマパークへのこだわりは、消費者の目線とは少しズレがあったようです。

 著者の森岡氏は、USJのマーケターとして、USJを「映画の専門店」から「世界最高のエンターテイメントを集めたセレクトショップ」にして、アニメ(「進撃の巨人」など)やゲーム(「モンスターハンター」)など多くのファンを持つ出し物を提供するようにした、とのことです。

 確かに、当初のハリウッド映画のアトラクションだけではなく、「ハリーポッター」「モンスターハンター」「進撃の巨人」となれば、私も見てみたい、と思えるのです。
 そして、それは多くの消費者がそうだ、ということが分析済みであるとのことです。
 
 私自身は、「世間に広く売れるものをつくる」というのとは求められるものが随分違う世界で仕事をしていますが、森岡氏の戦略的な考え方はとても参考になります。

 当然のことながら弁護士の仕事も、

・ 期日に追われて、裁判書類(準備書面)を書く
・ 裁判書類(準備書面)をとにかく長く書く
・ ただひたすら長時間の打ち合わせをする、現場に足を運ぶ

などということでは勤まりません。


・ その事件で、依頼者の求めるもの(又は、依頼者にとって真に価値のあるもの)は何か
・ その実現のためにどういう方法が採れるか(訴訟か、他の手続きか、など)
・ それを成功させるための要素は何か(何を証明しなければならないか)

などをしっかり見定めた上で、

・ 可能な限り、依頼者の求めることの実現という意味で成否を分ける部分にエネルギーを集中する。
・ (訴訟であれば)裁判官の立場を想像して、裁判官が正しい判断をするために役立つ主張をし、必要な証拠を出す(もちろん、裁判官が正しい判断をすることの妨げになりかねない無駄な記述などは極力避ける)。

ということを心がけることになります。
 
 訴訟に提出する準備書面を書く、依頼者と打ち合わせをする、現場を見にいく… どれ一つをとっても、「何となくやる」という感覚ではなく、できるだけ目的をハッキリさせて仕事をすること、その積み重ねが「仕事の質」になります。(ときには、まずイメージをつかむために、「とにかく現場」ということもあります。ただ、これとて、事件をやる上で役立つ「イメージをつかむ」という明確な目的があるわけです。)
 
 こうして書けば当たり前のことですが、実際は、日々スケジュールに追われる中で、弁護士も、特に何の意識も持たずに過ごすと、「何となく」スケジュール帳に書かれた打ち合わせ、裁判期日に臨み、〆切り日の迫った裁判書類を「間に合わせる」状態になりがちです。
 実は、こういうのは悪循環で、目的の定まっていない仕事の在り方は非効率に繋がり、ますます時間がかかり、自分自身の体力気力を奪っていきます。
 
 目的をハッキリさせて仕事に臨んだ方が効率よく、しかも、必要な部分に抜けることのない質の高い仕事ができます。
 ですが、これは常にそうしようという「意識」「心がけ」があって出来ることです。また、それができる心身のコンディションの維持も必要になってきます。
 私の場合、自分の仕事ぶりを自慢するという気になる要素はありませんが、ただ、自分が引き受ける仕事の目的を明確にして、効果的な(真に役に立つ)弁護士活動をするという心掛けだけは大切にしてきたつもりです。
 この姿勢は変えず、さらに磨いていきたいと思っています。
 
 本の話から弁護士の仕事の話に逸れてしまいましたが、この森岡氏の本を読んで、改めて、「戦略的思考」を意識し続けることの必要性を再認識しましたし、物事に対する「目の付けかた」という意味でとても勉強になるところがたくさんありました。

 頭が活き活きしてくる本、という感じでした。

                           神戸シーサイド法律事務所                             弁護士 村上英樹



 

 
 

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