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コロナ下での司法修習の工夫(弁護修習) [だから,今日より明日(教育)]

 司法修習生は、弁護士や、裁判官、検察官など法曹になるまえの1年間の研修期間です。

 緊急事態宣言が出て、弁護士事務所に来ていた司法修習生は自宅学習になりました。

 私のところにも今日から司法修習生がきて学んでもらうはずでした。
 ですが、5月13日までは自宅学習が決まっています。
 普通ならば、弁護士と一緒に依頼者との打ち合わせに入り、事件の方針を一緒に話し合い、裁判に必要な書面(訴状、答弁書、準備書面)を実際に書いてもらい、裁判にも同行してもらいます。
 しかし、その一切が普通にはできなくなりました。
 自宅学習・テレワークといっても、依頼者の秘密ですから、実際の事件の記録は自宅に持って帰れません。
 なので、「白表紙」と呼ばれる演習問題や、民法改正について検討する課題などが与えられています。

 この状態のまま、何の工夫もしなければ、「実地での研修」を受けずに弁護士になるしかない、という事態が危惧されます。

 そこで、付け焼刃ですが、私が思いついた工夫を書いてみます。

1 事件の修習は、「判例」+実際に担当した弁護士との対話 で。
 上のとおり、ネックなのは顧客の秘密、個人情報なのです。
 その一方、裁判は公開のもので、判決そのものは公のものです。
 ただ、そこに掲載されている個人情報がプライバシーです。
 なので、「判例タイムズ」「判例時報」などの雑誌や、「判例秘書」「ウエストロー」などの判例検索システムなどには、個人名を「甲」や「X」など記号に変えた判例が解説と共に載っています。
 これを利用します。

 たとえば、私の場合でも、

医療過誤
商品先物取引トラブル
交通事故の重度後遺障害事案(高次脳機能障害)

について、雑誌に載った判決があります。
 これは「秘密漏洩」の心配なく自宅で勉強してもらえます。
 そして検討レポートをつくってもらったあと、私とライン、zoom、スカイプなどで対話します。
 そこで、雑誌には書いていない事件のリアルを話します。

 裁判そのもの以外の苦労。
 実は、最初は依頼者は「こうしてください」と強く希望していたこと。
 依頼者と方針を合わせるために何時間も話し合ったこと。
 弁護団の中でも方針が割れて、解体寸前になったけれども一致してやったこと。
 勝訴しているけれども、最初は全く裁判所に理解してもらえなかったこと。
 地裁で負けたときの気持ち。
 自分の中でも、「どうしようか」と悩んだ末、雑誌に載っている方針を選択したこと。

など。
 これを、修習生と「君ならどうする?」という対話をするのです。
 もちろん質問も受けます。

 そして、私もそうであるように、自分自身の公刊の「判例」には限りがあります。

 だから、神戸の修習なら、神戸の修習担当弁護士同士でこれを共有するのです。

 面白い公刊「判例」リストをつくって、自分が担当する修習生以外もその「判例」の事件を学べるようにする。
 複数の修習生対弁護士でzoomなど遠隔セッションをするのです。

2 修習生が「会いたい」弁護士とオンラインでつなぐサポート

 また、普段指導担当以外の弁護士にも協力してもらえばよいと思います。

 神戸には、

甲山事件
尼崎公害事件
震災後の諸々の事件(火災保険金をめぐる事件その他)
最近は全国ニュースになった刑事事件

など色んな事件がありました。
 その経験弁護士と修習生をオンラインでつなぐことも、弁護士の少しのサポートでできることです。

 私が、修習時代ものすごく印象に残っているのは、夜の弁護士との飲み会です。
 その二次会で、

当時中堅(30歳代)だった弁護士同士が、「弁護士の将来像」を熱く語っていた

場にいたときのことです。

 今から20年以上まえのことです。

「弁護士はこのままでいいと思うか?」
「時代は変わっていくぞ。これからは…」

という話の場に居て刺激を受けていたら、こっちに矢が飛んできて、

「村上君はどう思う。司法修習で色んな弁護士を見て。」
「良い印象でも、そうでなくても、思うことはないか?」
「正直に言うてみい。」

という場面も。

 この時語っていた当時中堅弁護士は、それぞれに、20年経った今は、神戸で今の修習生もよく名を知る弁護士事務所の代表など、屋台骨を支える立場になられています。
 でも、今の私よりも若い方々だった、というのが今振り返る修習の印象です。

 こういうのが、記録を読んで勉強する以外の「弁護修習」なのです。

 同じように、今の修習生が「会いたい」弁護士がいるはずです。
 また、私たち弁護士から見て、修習生に「会ってもらいたい」弁護士がいます。

 法律の世界で有名な本の著者の弁護士
 最先端の分野を研究している弁護士
 重い刑事事件をたくさん経験している弁護士
 弁護士の世界がどうなるか、そのことをずっと考え続けている弁護士
 災害復興に力を注いできた弁護士
 とにかく面白い弁護士

 わたしには具体的な弁護士の顔が浮かびます。
 指導担当それぞれに、修習生に「会ってもらいたい」弁護士がいるでしょう。

 これをzoom会議などでつなぐ機会を、指導担当弁護士がちょっとずつの労力を出し合って作ります。
 指導担当弁護士一人が全部しなくてもよいのです。
 機会提供のために、ちょっとずつ労力を出し合えばよい。
 
3 あとは、依頼者との打ち合わせに参加できるか(ハードル高)

 ここはどうしてもハードルが高いです。
 考えられるのは、修習生側に徹底的に環境を整えてもらって(通信の状況から、家も含め他人に決してもれないようにしてもらって)、そのうえで、司法修習にも抵抗なく協力していただける依頼者について、スカイプ会議などにオンラインで傍聴参加してもらう、ということ。

 ですが、もともと、依頼者としては弁護士と、密室(この「密」がコロナには…ですが)だからこそ相談できるのです。
 オープンエアー状態かもしれないと思うと相談できませんね。

 ここはどうしても難しいところです。
 やはり、弁護士が経験談をリアルに修習生に語る、ということで代替でしょうか。


 以上、今思いついたことを書きました。

 弁護士の方読んでいただけたら、弁護士同士で同じ思いがある方は協力しあいませんか。
 もしかしたら、すでに各地の弁護士会、司法修習委員会ですでに取り組まれていることもあるかもしれませんが。

 修習生の方にも声を届けて欲しいですが、きっかけは弁護士が作らなければなかなか遠慮があって、修習生から言い出せないでしょうね。

 とにかく、なんとかして、今の修習生の方が仕事につくまでに少しでも役に立つ経験を得てもらえれば、と思っています。

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