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早わかり民法改正(相続法改正を中心に) [法律案内]

今日は民法改正について解説します。

 「民法改正」というのは,いくつかのパートに分かれています。
 
1 最近の大きな改正は「3つ」

  まず,大づかみにつかみましょう。
  3つの改正がありました。 

 ① 債権法の改正

   まず,一番の大改正は「契約」などについての改正です。
   債権法の改正というのがこれで,2020年4月1日に施行されます。
   この内容は過去のブログ記事で書きました。
   時効制度の単純化,不動産賃貸ルールの明確化などです。
  3つのポイント https://h-m-d.blog.so-net.ne.jp/2017-06-26
  不動産賃貸関係 https://h-m-d.blog.so-net.ne.jp/2017-09-29

 ② 成人年齢 18歳に

   民法の成人年齢が,現行の20歳から18歳に引き下げになります。
   18歳からもう「未成年」でなくなります。
   カードの契約でも,借金の契約でも親と関係なしに自分ですることができます。
   契約した場合「未成年」を理由に取り消すことはできなくなります。
   これには色々問題があると思いますが,今日は深入りはしません。
     (問題点を指摘した昔の記事 https://h-m-d.blog.so-net.ne.jp/2009-01-21
   2022年4月1日施行です。
   
 ③ 相続法の改正

   これが,今年7月に国会で成立した改正です。
   相続についても変わります。  
   原則として2019年7月12日までに施行とされています。
   上の①②よりも先に新しいルールが始まります。
   今日は,以下でこの相続法の改正について解説します。

2 相続法の改正
 これだけは知っておきたい5つのポイントを簡単に解説します。
 
 ① 配偶者の居住権
 たとえば,お父さんが亡くなって,相続財産は,家(土地建物)と預貯金他というケース。
 お母さんが家に住んでいる。
 子どもたちはそれぞれ独立して家を出ているということがよくあります。
 これまでは,もし,お母さんが家に住む権利を保障しようと思うと,家をお母さんに相続させるということを考えることが多かったのです。

 ただ,高齢のお母さんの場合,そのときの相続で「父→母」としても,いずれ近いうちに「母→子ら」の相続が起こります。
 二段階の相続をしなければならないのもいろんな意味で大変であるし,また,遺産の評価額の大半が家である場合(つまり,家はあるが「お金」がない場合)に相続方法が難しくなります。

 こういう窮屈な状態を打開する方法として,「配偶者居住権」という制度が創られました。
 
 新法では,家の「所有権」は子どもに相続させるが,母には「配偶者居住権」という権利を得させる,という方法が使えるようになります。
「配偶者居住権」は権利として金銭評価される(たとえば,3000万円の家に終身住み続ける権利として,1500万円など)ので,その権利でもって母(亡くなった人から見ると妻)の相続とする,という風な解決が可能になります。

 要するに「私はもう高齢だし,家の所有権なんか必要ないわ。亡くなるまでここに住めさえすればいいだけ。」という願いを形にするものです。
 よりなめらかな相続が可能になるように意図された改正です。

 ② 遺産分割に関する見直し

 特に影響が大きいのは,相続が起こった後の「預貯金の払い戻し」についてです。
 平成28年12月19日の最高裁決定で,原則として,預貯金について遺産分割をしなければ払い戻しできないことになりました。
                関連記事 https://h-m-d.blog.so-net.ne.jp/2017-01-10
 この最高裁決定に従うと,相続が起こって(つまり誰かが亡くなって),すぐに葬儀費用などの支払いが必要だが預貯金が引き出せなくて困る,ということが考えられます。

 そこで,民法の新909条の2は,「各口座ごとの預貯金額×3分の1×その相続人の法定相続分」又は政令による上限額までは,遺産分割前でも各自が引き出せることにしています。
 もちろん,引き出した分は後日の遺産分割のときに精算します。
 その他,遺産分割についていくつかのルールが変更されたり,整備されたりしています(一部分割の明文化,遺産分割前の処分された遺産を全員の同意によって分割対象にすることなど)。 

 ③ 遺言制度の見直し
 
 自筆証書遺言について,法務局に保管する制度ができます。
 遺言を書いたけれども家の中で厳重に保管しすぎて誰にも発見されなかった,という事態が起こりにくくなります。
 
 また,自筆証書遺言でも,遺産の目録(不動産の所在,地番,地積など細かいことをたくさん書く必要がある)については自筆でなく,ワープロ打ちでも可とされるようになります。
 これは合理的で,高齢者にとって助かることでしょう。

 ④ 遺留分に関する見直し

 これは,法学部の学生さん向けの話になると思います。一般の方は軽く読み飛ばして結構です。
 新法では「遺留分減殺請求」とは呼ばず,「遺留分侵害額請求」という呼称に変わります。
 名前が変わっただけではなく,従来の「物権的効力」(遺留分減殺請求は,家でも土地でも現物を返還請求できる効力があった)から,金銭請求に変わります。
 遺留分の算定にあたって,相続人に対する贈与については10年以内のものに限って参入するようになります(現行は10年に限らず全期間)。

 ⑤ 相続の効力(登記の必要)

 ここも興味の無い方は読み飛ばして結構です。
 不動産の相続が現実に迫っている方,士業の方,ロースクール生,法学部生の方は読んでください。

 これまで,相続の場合に「登記」がなければ第三者に自分の権利を主張できるかできないか,は相続の方法によって異なっていました(遺贈・遺産分割の場合は登記が必要,相続分の指定・遺産分割方法の指定「相続させる」遺言の場合は不要)。
 それが,新法では,相続の方法によらず,法定相続分を超える権利を得る場合には「登記」がなければ第三者に自己の権利を主張できない,ということになりました。
 「登記」が従来より大事,ということです。

3 おわりに
 以上を押さえておけば「相続法」改正について,一応把握している,と言えると思います。
さらに自分のことに関係がある方,法律を勉強している方は,本や他のサイトで勉強していただければと思います。


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