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不動産賃貸と民法改正 [法律案内]

 平成29年5月に,民法が大きく改正されました。
 120年ぶりの大改正といわれています。
 まだ,改正法の施行時期は決まっていませんが,平成32年までには施行されることになっています。

 今日は,この民法改正によって,不動産賃貸業がどう変わるか?を解説したいと思います。

 地主さん・大家さんにとっても,借主さんにとっても,知っておいて頂くべき内容です。

1 多くの改正条文は,「判例法理の条文化」です。
  
 どういうことかというと,民法が変わっても,今とルール変更はない。
 今まで,民法の条文には書いてなくて,「判例」で決まっていたものが条文に明記されるようになったものが多いということです。

ア 物件所有者の変更の場合
 
 賃貸物件の所有者が変わった場合,原則として,賃貸人の地位も新所有者に引き継がれる
(この場合,賃借人の承諾は不要。
 なお,新所有者が賃借人に「私が貸主だ」と主張するためには登記が必要。)
 
 旧民法(現行民法)  条文なし。判例。
 新民法        605条の2,605条の3

イ 敷金

 敷金とは? 
→「いかなる名義をもってするかを問わず,賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭債務を担保する目的で,賃借人が賃貸人に交付する金銭」

 旧民法        条文なし。判例。
 新民法        622条の2第1項

 敷金返還請求権は,明け渡しの時に発生する。
 未払い賃料などに当然に充当される。

 旧民法        条文なし。判例
 新民法        622条の2第1項,第2項

★ ただし,未払い賃料がある場合の,物件の譲渡にともなう賃貸人の地位の移転の場合の敷金承継の処理は,判例ルールが変更されている。
 もっとも,現在の実務でも,すでに新民法のような処理をしていることが多いです。
  
 旧民法 判例         敷金額から未払い賃料を引いた金額が承継される
 新民法 605条の2第4項  敷金がそのまま承継される(賃料未払いがあることは,物件の売買代金決定のときに反映しておく=その分,売買代金を安くしておく)

ウ 退去時の原状回復義務

 カーペットの摩耗や壁紙の汚れなど,通常損耗の範囲のものは,原則として,賃借人が原状回復費用を負担しない。 

 旧民法        判例
 新民法        621条

2 ルール変更にあたるものもあります。

ア 存続期間の延長
 
 賃貸借期間の上限は現行20年 ⇒ 改正後 50年に (新民法604条)

 ゴルフ場,太陽光パネル設置を目的とした敷地など,現代の土地使用の在り方にあわせた。

イ 用益違反の損害賠償請求権の時効

 賃貸借物件の用益違反による損害賠償請求権について,返還時から1年間は時効の完成を猶予すると規定された(新民法600条2項)。

 改正民法では166条で時効は,「権利を行使することができることを知ったときから5年間」または「権利を行使することができるときから10年間」で完成するとしています。
 ですが,長期の賃貸借契約の場合は,貸主としては,途中で「用益違反」があることを知ることができない場合があるので,問題があったときから10年たっていても「返還時から1年間」は時効にならないことにした,とされています。

3 改正民法の適用時期
 
 原則として,

 改正民法の施行日よりも前に締結された賃貸借契約  ⇒ 旧(現行)民法に従う
 
 改正民法の施行日以後に締結された賃貸借家約    ⇒ 新(改正)民法に従う

です。


 以上,主だったところをザッと解説しました。

 大体どんな改正?といわれたとき,不動産賃貸について,大きな内容としてはだいたいこの程度を頭に入れておけば十分だと思います。

 もちろん,細かく言えばもっと改正点はあります。興味のある方は,民法改正について書かれた本が多数出ているのでそちらをご参照下さい。

                                 
 神戸シーサイド法律事務所                             弁護士 村上英樹
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