延命処置どうする?~「エンディングノート」の話 [くらしと安全(交通事故その他)]
私は,相続の前後の法律相談を受けることや,成年後見業務で高齢の方の仕事をすることが多々あります。
家族も,成年後見人も,病院スタッフ(医師,看護師)も直面する課題に,
本人(高齢者など)の容体が悪くなり,意思がない状態で,「延命措置」を行うか?
というのがあります。
具体的には,
気管切開
人工呼吸
心臓マッサージ など
です。
回復の見込みのない人に,このような延命処置をすることは,人によっては「苦しい状態を引き延ばすだけだ」という考え方があります。
また,一度延命処置をしてしまうと,途中でやめることは難しいです。
そして,延命処置が必要な状態の人は,意識がない状態で,自分では「お願いします」とも「やめてくれ」とも言えないはずです。
これは「医療行為に対して同意するか」という問題になるのですが,この「同意する」「拒否する」権利というのは,
一身専属権
と言って,「一身」つまり本人だけに認められる権利です。
なので,非常に困る問題なのです。
たとえば,成年後見人は,本人に代わって,財産を動かしたり,契約をしたりすることはできるのですが,それでも「一身専属権」については,代わりにやってあげる権限がありません。
(医療同意のほか,結婚するかどうかの意思決定なども「一身専属権」です。成年後見人が,「結婚相手を見つけたので,結婚させてきますね。」などはできない)
なお,
「医療行為に対する同意」について,成年後見人にも同意する権限を与えるべきだ
という考えの人もいて,日本弁護士連合会などもその方向の意見を出していたことがあったように思いますが,実際のところ,「人の価値観による」問題を成年後見人だからといって決めるのは難しいことです。
話が逸れましたが,周りの人が悩んでしまう
延命措置をするかどうか?
について,一番良いのは,
自分で予め決めておく → 決めた内容を書いて残しておく
ということでしょう。
そういうときに活躍するのが,最近はやりの
エンディングノート
です。
「エンディングノート」という言葉を耳にしたことがある人は多いでしょう。
色んな出版社や文具屋から発売されています。
呼び名は「エンディングノート」以外にも,「もしも…ノート」など色々あります。
たとえば,
があります。
延命処置の問題は,厳密に言うと,「エンディング」そのものではなくて,そのちょっと前(まだ生きている)の状態ですが,意識がないでしょうから,書き残しておく必要があるというわけです。
相続の相談でも,こういうことはよくあります。
「親が急逝した。
財産関係がわからなくて困っている。
どうやって調べようか?」
というもの。
財産といっても,預貯金などプラスの財産もあれば,借金などマイナスの財産もあります。
また,最近は,ネット口座,ネット取引などで,普段記録が「紙」に残らないものもあります。
こういう場合は,残された書類などや郵便物などを手がかりに地道に調べていくしかないのですが,それには時間がかかります。
もしかしたら調べても,誰にも見つからない財産が残ってしまうこともあります(ああ,もったいない!)。
「エンディングノート」には,自分の財産についても書く欄があって,
不動産のページ
預貯金のページ
などがあります。
そのほか,各社の「エンディングノート」によって違いますが,
「パソコンの処理」
「死後,自分のHPやブログをどうしてほしいか」(私はどうしようか…)
「web上のID一覧」
を書くページなどもあったりします。
自分の相続を見据えて「遺言」を作成しておく
というのもオススメすることが多いのですが,自分が倒れてからの全般のことを考えると,
「エンディングノート」を作成しておく
ことも憂いをなくす良い方法だと思います。
私も,最近初めてじっくり「エンディングノート」を見ているのですが,
高齢者だけではなく,30代,40代でも役に立つ
と思います。
「エンディング」なんて縁起でもない
と思うかも知れませんが,別に,そういうときがすぐに来なくても,
備忘録として,自分の状態を整理して確認する
という意味だけでも十分に役に立ちます。
例えば,webサービスのIDなんかは,私の場合,もう,最近色々増えすぎて,自分でも覚えきれないくらいです。
久々にIDパスワードを要求されたりすると,「これかな」と思って打ち込んでみてやっとログインできてほっとする。こんなことは誰でもあるのではないでしょうか?
メモするといっても,人目につくところにメモするとパスワードの意味がなくなってしまいますので,余計困りますね。
なので,「エンディングノート」か,または,自分専用のノートにメモして,家の引き出しの○番目などに「ひっそりと」しまっておく。
そのありかを子どもにだけ教えておく。
というのが,良いと思います。
※ 上で書いたように,最近は,webのIDなどは本当に自分でも覚えきれないくらいになりますから,自分がぴんぴんしていても,そういうのをメモした「ひっそり」しまったはずのノートを何遍も取り出して見返す,ということもありそうですね。
弁護士の視点で言うと,
本人が元気
↓ 衰え
判断能力がない状態 → 成年後見
↓
死亡 → 相続
となるのですが,「成年後見」「相続」というのは,何もなければ,法律=ルールに従ってやらなければなりません。
「自動的」にできることは法律=ルールに従った,ある意味「杓子定規」なことになりがちです。
「杓子定規」面白くない響きですね。
ここを「自分らしく」したいと考えると,頭がはっきりしているうちに,たとえば「エンディングノート」などで,
(もしも私が衰えたら)
(もしも私が死んだら) … みたいなタイトルの歌(森田童子)が昔在りました。余談。
こうしてほしい!!
という意思を示しておくのが有効です。
「遺言」も死んだ後に自分の意思を実現させる,という意味で同じです。
あなたの真意が書き残されていたら,きっと,周りの人も極力それを尊重するでしょう。
ということで,私の今(41歳)の考えでは,
エンディングノートを10年で1冊ずつ使って,それを6冊書いて100歳まで生きる
のがいいのではないか,と思っています。
神戸シーサイド法律事務所 弁護士 村上英樹
家族も,成年後見人も,病院スタッフ(医師,看護師)も直面する課題に,
本人(高齢者など)の容体が悪くなり,意思がない状態で,「延命措置」を行うか?
というのがあります。
具体的には,
気管切開
人工呼吸
心臓マッサージ など
です。
回復の見込みのない人に,このような延命処置をすることは,人によっては「苦しい状態を引き延ばすだけだ」という考え方があります。
また,一度延命処置をしてしまうと,途中でやめることは難しいです。
そして,延命処置が必要な状態の人は,意識がない状態で,自分では「お願いします」とも「やめてくれ」とも言えないはずです。
これは「医療行為に対して同意するか」という問題になるのですが,この「同意する」「拒否する」権利というのは,
一身専属権
と言って,「一身」つまり本人だけに認められる権利です。
なので,非常に困る問題なのです。
たとえば,成年後見人は,本人に代わって,財産を動かしたり,契約をしたりすることはできるのですが,それでも「一身専属権」については,代わりにやってあげる権限がありません。
(医療同意のほか,結婚するかどうかの意思決定なども「一身専属権」です。成年後見人が,「結婚相手を見つけたので,結婚させてきますね。」などはできない)
なお,
「医療行為に対する同意」について,成年後見人にも同意する権限を与えるべきだ
という考えの人もいて,日本弁護士連合会などもその方向の意見を出していたことがあったように思いますが,実際のところ,「人の価値観による」問題を成年後見人だからといって決めるのは難しいことです。
話が逸れましたが,周りの人が悩んでしまう
延命措置をするかどうか?
について,一番良いのは,
自分で予め決めておく → 決めた内容を書いて残しておく
ということでしょう。
そういうときに活躍するのが,最近はやりの
エンディングノート
です。
「エンディングノート」という言葉を耳にしたことがある人は多いでしょう。
色んな出版社や文具屋から発売されています。
呼び名は「エンディングノート」以外にも,「もしも…ノート」など色々あります。
たとえば,
があります。
延命処置の問題は,厳密に言うと,「エンディング」そのものではなくて,そのちょっと前(まだ生きている)の状態ですが,意識がないでしょうから,書き残しておく必要があるというわけです。
相続の相談でも,こういうことはよくあります。
「親が急逝した。
財産関係がわからなくて困っている。
どうやって調べようか?」
というもの。
財産といっても,預貯金などプラスの財産もあれば,借金などマイナスの財産もあります。
また,最近は,ネット口座,ネット取引などで,普段記録が「紙」に残らないものもあります。
こういう場合は,残された書類などや郵便物などを手がかりに地道に調べていくしかないのですが,それには時間がかかります。
もしかしたら調べても,誰にも見つからない財産が残ってしまうこともあります(ああ,もったいない!)。
「エンディングノート」には,自分の財産についても書く欄があって,
不動産のページ
預貯金のページ
などがあります。
そのほか,各社の「エンディングノート」によって違いますが,
「パソコンの処理」
「死後,自分のHPやブログをどうしてほしいか」(私はどうしようか…)
「web上のID一覧」
を書くページなどもあったりします。
自分の相続を見据えて「遺言」を作成しておく
というのもオススメすることが多いのですが,自分が倒れてからの全般のことを考えると,
「エンディングノート」を作成しておく
ことも憂いをなくす良い方法だと思います。
私も,最近初めてじっくり「エンディングノート」を見ているのですが,
高齢者だけではなく,30代,40代でも役に立つ
と思います。
「エンディング」なんて縁起でもない
と思うかも知れませんが,別に,そういうときがすぐに来なくても,
備忘録として,自分の状態を整理して確認する
という意味だけでも十分に役に立ちます。
例えば,webサービスのIDなんかは,私の場合,もう,最近色々増えすぎて,自分でも覚えきれないくらいです。
久々にIDパスワードを要求されたりすると,「これかな」と思って打ち込んでみてやっとログインできてほっとする。こんなことは誰でもあるのではないでしょうか?
メモするといっても,人目につくところにメモするとパスワードの意味がなくなってしまいますので,余計困りますね。
なので,「エンディングノート」か,または,自分専用のノートにメモして,家の引き出しの○番目などに「ひっそりと」しまっておく。
そのありかを子どもにだけ教えておく。
というのが,良いと思います。
※ 上で書いたように,最近は,webのIDなどは本当に自分でも覚えきれないくらいになりますから,自分がぴんぴんしていても,そういうのをメモした「ひっそり」しまったはずのノートを何遍も取り出して見返す,ということもありそうですね。
弁護士の視点で言うと,
本人が元気
↓ 衰え
判断能力がない状態 → 成年後見
↓
死亡 → 相続
となるのですが,「成年後見」「相続」というのは,何もなければ,法律=ルールに従ってやらなければなりません。
「自動的」にできることは法律=ルールに従った,ある意味「杓子定規」なことになりがちです。
「杓子定規」面白くない響きですね。
ここを「自分らしく」したいと考えると,頭がはっきりしているうちに,たとえば「エンディングノート」などで,
(もしも私が衰えたら)
(もしも私が死んだら) … みたいなタイトルの歌(森田童子)が昔在りました。余談。
こうしてほしい!!
という意思を示しておくのが有効です。
「遺言」も死んだ後に自分の意思を実現させる,という意味で同じです。
あなたの真意が書き残されていたら,きっと,周りの人も極力それを尊重するでしょう。
ということで,私の今(41歳)の考えでは,
エンディングノートを10年で1冊ずつ使って,それを6冊書いて100歳まで生きる
のがいいのではないか,と思っています。
神戸シーサイド法律事務所 弁護士 村上英樹
2017-03-31 18:16
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自分の命や、自分の身体を、自分のものだと思うこと自体が間違っているのかも知れません。だって、自分の命は自分で得たものではありません。両親から与えられたものです。自分の身体だから傷つけようが壊そうが自由だというのもおかしいと思います。あらゆる生き物は、命のバトンを親から子へ渡すために生きているのだと思う時があります。親に感謝し、子供や孫のために頑張るだけで良いのではないでしょうか?
by 心如 (2017-04-02 13:37)
心如さん
同感です。
医療も進歩して,それはありがたいけど,命のバトンを…というのも自然のままにというのがかえって難しい世の中ですね。
by hm (2017-04-03 18:13)
レンタル店から巨額の延滞金請求は恐ろしいです。
それに限らず日々変わる各種「契約」
本人がなくなったときに遺族に高額の負担が行かないようにする制度の整備はどうなっているのでしょう?
by ayu15 (2017-06-11 10:25)
ayuさん
ナイス・コメントありがとうございます。
そうですね。本人たちの怠慢というわけでなく,知らずに延滞になるというのは,きちんと手当されるべき問題だと思います。
by hm (2017-07-03 15:30)