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【4】高校への出前授業「18歳選挙権」行ってきました~その4 [だから,今日より明日(教育)]

出前授業続きです。

 その1 http://h-m-d.blog.so-net.ne.jp/2016-12-16
 その2 http://h-m-d.blog.so-net.ne.jp/2016-12-16-1
 その3 http://h-m-d.blog.so-net.ne.jp/2016-12-17

 選挙に行くとはどういうことか?という話を、生徒さんや先生と討論しながら進めてきました。

 そして、

テーマ4 表現の自由 少数意見は大切か?

に入ります。このコーナーは、私が特に伝えたかったことです。
 
 表現の自由は憲法21条で保障されています。
 憲法の保障する人権や自由の中で、一番と言ってもいいくらい重要な地位にあります。
 
 表現の自由の持つ、大切な意味、役割は2つ。
 
 「自己実現」「自己統治」。このキーワードを覚えて帰って下さい、と。

 「自己実現」 
 これは分かりやすい。
 ミュージシャンが、自分の感覚などを音楽で表現するなど。
 西野カナには西野カナの世界、サザンにはサザンの世界がありますよね。
 自分を自分らしく活かしていく、ということです。

 では、もうひとつの「自己統治」という意味、役割はなんでしょう。これが、今回の「選挙権」に関係するのです。

 「自己統治」
 国民が自由にモノが言えることが、民主主義に必要だということです。
 自由にものがいえるからこそ、国民が国を動かしている(自分で国を統治している)といえるのです。

 ここまで。
 憲法の教科書に載っていることです。

 ですが、実際に教科書通りに行くか? が、皆さんに尋ねてみたいことでした。

 選挙というのは、要するに多数決です。
 多数の票を取った人が必ず正しいのでしょうか。
 少数しか集まらない意見はどうなる?

Q1 「100人中90人が賛成することに、反対する人に対して、あなたはどんな印象を持ちますか?」

 討論に参加していただく生徒さんには、10日くらい前にこの質問をしておき、事前に考えてきてもらいました。

 「表現の自由は大切です」と教科書通りにはだれでも言えます。

 しかし、現実に何かを決めようとしているとき、「流れ」が決まっていて、9割賛成の「空気」ができあがっていて、そんなときに、

流れぶった切って、「ちょっと待ってください」という人

に対して、

うざい、面倒くさい、空気読めない

という印象を持つことがありませんか、という問いです。

 「うざい」までは思わないかもしれませんが、「えー、何なのよ、もう?」くらい思うのはごく自然なことです。
 私も、例えば、学生のとき生徒会にいたとき、弁護士会で役員をしていたときとかにはそう思いました。
 会議で、質問とか反対意見とかできるだけ出ずに、提案した議案がスーッと通ったらいいなあ、というのは正直な気持ちです。(だって、みんな色々忙しいですから。)
 
 さて、この「100人中90人が賛成することに、反対する人に対して、あなたはどんな印象を持ちますか?」
に対して、私がとても感心した生徒さんの意見。

実は大切な人ではないかと思う」
「少数だと意見を言うのに抵抗があるかもしれないのに敢えて言える人」
「その意見を聴いて、90人の人の中にも違った考えができるかもしれない」

 私が感心したのは、最初の「「実は大切な人」という表現がすごくピッタリだったことです。
 なんてセンスのいい表現のできる生徒さんだろう、と。
 事前に考えてもらっているから即席ではありませんが、この出前授業のために自分の頭でここまで考えてこられた(予習ですね)、素晴らしいと思いました。
 討論に参加された他の生徒さんも、意味としては同じことを考えてきてくださっていました。

 もう私からの解説は不要なくらいでした。
 一つだけ付け加えるとすれば、憲法の「表現の自由」の意味は、少数意見でも自由に言えるようにするという意味だ、ということです。(なぜなら、多数意見や社会の空気に合う意見はもともと言いやすい、たとえ憲法で保障されなくても言えなくなることは滅多にないだろうから。)

 さて、少数意見は大切。
 ですが、まだまだこれでは「きれいごと」かも知れません。
 もっと深く考えたい。

Q2 「選挙に出ても大差で敗れる人をあなたはどう思う?」

 これを問うてみました。
 どこかの市長選挙で

  福山はるまさ 10万票  当
  山田太郎    1万票  落

だったとしたら、山田太郎さんに対してどう思いますか?
 もし自分のお父さんだったらどんな気持ちですか?

という、ちょっとキツイ問いです。

 やっぱり数字で出て「負け」ですから、ちょっと辛いのではないでしょうか。

 私は阪神タイガースのファンですが、巨人に10-1で負けたときのような辛さを感じないと言ったらうそになるでしょう。

 さっき少数意見は大切という話をしました。
 多数派でないのに立候補した山田太郎さんは「実は大切な人」の可能性があります。
 
 事前にきいていた生徒さんの意見では

「こういう人が選択肢をつくってくれる。だから意味がある。」

というものがありました。確かにそうです。

 さらに、次の生徒さんからのコメントも大切なことを含んでいました。

「(落選した人は)なぜあかんかったのか、よく考える必要があるのじゃないか」   

 一見厳しいですが、これは、私はとても大切だと思います。
 
 政治というのは、自分が正しいと思っているだけではどうにもならないのです。
 これも伝えたかったので、上の生徒さんの発言に注目しました。

 たとえ「正しい」と思っていたとしても、そのことを多くの人に分かってもらって、支持してもらう人を増やして初めて、自分の考えが実現できます。世界を良くできます。
 「伝える力」が必要です。

 山田太郎さんは、勇気をもって出馬したことは貴重です。
 ただ、これで終わってはいけない、まだやるべきことがある、もっと努力すべきことがある(「もっと人に伝える、支持を広げる努力をすべき」)、という状態の人かもしれませんね。

 このあたり、かなり難しい内容かなと思いますが、ここからちょっと話題を変えて・・・

映画、マンガ、少し前に現実にあった出来事」と配布資料に書いたお話を。

 まず映画、マンガの話。

大ヒット映画「君の名は」(私も観てきました。家族はみんなもう観たというから、一人HAT神戸で http://h-m-d.blog.so-net.ne.jp/2016-11-04

のことを考えてみます。

 まだ上映中ですから、あまりネタバレできません。
 考えてみれば、この出前授業では少しネタバレが過ぎたか、と反省しています。
 このブログは文章で残ってしまうから、さらに慎重に書きます。

 「君の名は」の中では、接近する「彗星」に秘められた「あること」があって、それを知ってしまった人が・・・(☆書けません)というシーンがあります。
 
 例えば、過去へタイムスリップする映画、ドラマ(「仁-JIN」など)では、

そのあと起こる出来事(悲劇)を知っている主人公が、懸命にその「バッドエンド」を避けようとする

ということがよくあります。

 また、SF物などでも、

「私だけが知ってしまった。」 「このままでは世界が滅んでしまう。」 「みんなに知らせなきゃ!!」

というストーリーのものがあります。

 これって、最初の状態は、

圧倒的に少数意見

です。
 こういう話は、当然ですが次のような展開になります。

「聞いてください。このままでは○○なことが起こる。だから、それを避けるために・・・」
「はあ?お前何言っているんだ。おかしくなったんじゃないか」(と言って取り合ってもらえない)

 だから、

世界(社会)を救う意見は少数意見から始まることがある

ということは、みんな、映画でも、マンガでも沢山観てきたはずなのだ、という話。

「いやいやいや、そんな安直な、弁護士さん。それはあくまで映画やマンガの世界でしょ。」

と発言した方はおられませんでしたが、こんな風に思う人はいるかもしれません。

 が、現実の世界でもこれと同じことはあるのです。


 少し前に現実に起こった出来事  福島第一原発事故(2011 東日本大震災のとき)

のことをお話ししました。

 この事故は、地震で電源が落ちたため核燃料を冷却することができず、また、そういう事態に備えたはずの予備用の電源も津波のために使えなかったために、核燃料が過熱し水素爆発に至った事故です。

 原子力発電所の事故の危険について警告する声は、2011年以前にもありましたが少数の声でした。
 さらにいえば、具体的に、「地震と津波によって主の電源、予備の電源ともに失われ事故に至る危険がある」ことを指摘していた人もいた、というのです。

 ですが、多数の人(私も含めて)は、

日本の原発でまさか大きな事故は起こらないだろう

と思っていました。

 私は、「地震と津波によって主の電源、予備の電源ともに失われ事故に至る危険がある」などと言っている人の存在も知りませんでした。もしかしたら、どこかで聞く、見るチャンスがあったかも知れませんが、関心を持っていませんでしたら、そういう声を一回聴いても「まさか」と思っていたことでしょう。

 この話は、事故の具体的な危険性を指摘していた人が偉い、という話ではありません。

 危険を指摘していた人は、原発事故が起こったときどういう気持ちだったでしょうか。

 「ほらみろ、俺の言った通りだろう」と威張る気持ちになれるでしょうか。
 決してそうはなれないだろう、と思います。
 むしろ、

「自分は分かっていたのに、止められなかった」
「もしかすると、多くの人がふるさとから避難しなければならない事態を避けられたかも知れないのに」

と、「分かっていた」「知っていた」だけに辛かったのではないでしょうか。
 自分が、それを止めるのに必要な人にもっと上手く伝えられていたら、と思わずにはおられなかったのではないか、と思います。

 一方、原子力発電所を管理する側の国や電力会社の人たちとしても、「なぜ、危険を指摘する声をもっと重視して対策を打たなかったのだろう。そうすれば今のような事態を避けられたのに」と思っているでしょう。
 
 私のような多数の人(原発事故の危険をあまり深く考えたことがなかった人)としても、
「考えてみれば、地震列島の日本で原発は危険だった。もっと安全を重視して対策をさせる方向で声を上げるべきだったのではないか」
「危険を指摘する声に自分はなぜ真剣に耳を傾けなかったか」
という後悔が残ります。

 結局、社会のことは一人だけではどうにも動かせないのです。

 「みんなに伝えるべきこと」「社会を(世界を)救えるかもしれない意見」を自分は持っていたとして、それを多くの人、または、政治を動かせる立場にある人に伝え、分かってもらい、行動に移してもらわなければなりません。

 高校の先生は、

「それにはコミュニケーション力が必要ですね」

とコメントされていました。その通りだと思います。

 少数派、少数意見から始まって、多くの人に理解してもらおうと思うならば、間違っても、自分の意見に反対の人を「バカ」呼ばわりしてはいけません。そんなことをしたら絶対に叶いません。
 自分と反対の意見を持つ人がなぜそう考えるのかも想像しながら、分かるように伝える努力が必要です。
 そうしたら、今は少数意見でも、いずれは多数意見、あるいは常識になっているかもしれません。

 少数意見から始まる こともある

ということだと思います。

 また、例えば、たとえば国の政治でも、野党が言っていることでも「これは大事なことだ」と思えば、政府・与党がそれをパクることは「全然アリ」です。
 多数派の人が、少数意見に耳を傾け「それももっともだ、もう一度考えてみよう」となること。
 素晴らしいことだと思います。

 社会を良くするためのアイデア・知恵に著作権はありません。みんなが自由に使える財産です。
 
 だから、若い皆さんには、自分の支持政党を考えることもいいことだと思いますが、いつでも柔軟に、何党が言っているかに関わらず自分の頭で考えて良いことかどうか判断してもらえるといいと思います。

 (未来、良いことが)少数意見から始まることもある 

 実現するには、伝える力が重要 

多数派の側にいても「少数意見にも耳を傾ける」ほうが、みんなが幸せになれる可能性が高くなる 

ということが私の伝えたい話でした。

 ここは、討論よりも主に私から皆さんに話をするコーナーでした。

 出前授業で話したことに文章をだいぶ補足して解説し、この記事にしました。

 さて、この授業も最終盤。
 時間も押してきましたが、実際の政治テーマを2つ討論してもらいました。

「大学授業無償化」
「カジノ解禁?」

の2つです。これはいろんな意見が出ました。(つづく)
 

神戸シーサイド法律事務所                             弁護士 村上英樹                     
 

 
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ayu15

いい授業ですね。
by ayu15 (2017-01-31 16:17) 

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