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「マチネの終わりに」(平野啓一郎著) [読書するなり!]

 今日読み終わった本です。 


マチネの終わりに

マチネの終わりに

  • 作者: 平野 啓一郎
  • 出版社/メーカー: 毎日新聞出版
  • 発売日: 2016/04/09
  • メディア: 単行本



 作者の平野さんは、1975年生まれ、京大法学部卒。
 これ、私のプロフィールと同じです。

 同時期に京大法学部にいたはずですが、私は平野さんと全く面識はありません。
 学生時代のことですから、もしかして、私の知らないうちに何らかの迷惑をかけたことがある、とかそんな接点がある可能性は否定できませんが…
 
 平野さんの小説を読むのは、デビュー作「日蝕」以来です。
 「日蝕」は、私が司法修習生だったときでした。

 今回の作品は恋愛小説ですが、人間の存在そのものへの掘り下げ方、その描写がとても読み応えがあって、素晴らしい作品でした。
 世界的ギタリストの蒔野と海外で暮らすジャーナリストの洋子との恋愛を描いたものですが、数奇な運命をたどります。
 
 文章も非常に美しく整っていて、とても質の高い小説だと思いました。

 私が自分の仕事柄印象に残ったのは、主人公の1人ジャーナリストの洋子が、アメリカで夫と暮らす中で、夫のしている仕事(金融に関する研究職)についてついつい気になってしまう、という一節でした。
 サブプライムローン問題の根底に関するものですが、証券会社等が金融商品を作るときに明らかに危ないと分かっていて作っているのではないか、研究者もそれと知りながらお墨付きを与えているのではないか、と洋子は感じ、それに従事している夫に対してどういう考えで仕事をしているのかを聞かずにはおられなかった、という場面がありました。

 私は金融商品被害事件に関わってきましたが、やはり、最近の新しいタイプの金融商品(たとえば、「仕組債」と呼ばれるものなど「金融デリバティブ」)の中には、「危険を敢えて見えにくい形にして売っている」と思わざるを得ないものが多くあります。
 これは、私や、日本の弁護士たちが言っているというだけではなくて、海外(アメリカ、オーストラリアなど)でも裁判沙汰になっています。

 仕事をする上で、そのレベルや大小には違いがあるにせよ、「自分が心底正しいと思うこと」と「仕事の上で会社や関係者から求められること」のギャップというのは必ずあります。
 もしかしたら、グローバル経済の威力が大きくなっている現代のほうが、昔よりもこのギャップが大きくなりやすいのかも知れません。
 そういう中で自分のポジションで(おそらく)悩みを持ちながら仕事をする人の、仕事人としての面と、家族ある人間としての面、それをあわせた「存在」というところを描いているのが、私には読み応えがありました。

 もちろん、この小説の主題は、金融商品ではなく、恋愛です。
 
 激動する現代社会(他にも、イラクでの紛争、東日本大震災などが主人公たちの生き方に多大な影響を与えます)の中でそれぞれに懸命に生きている2人の恋愛の結末やいかに?

という、読者を飽きさせないストーリーで、一気に読んでしまいました。

 「読書の冬」にお勧めの一冊です!

 
神戸シーサイド法律事務所                             弁護士 村上英樹

 

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コメント 2

mimimomo

おはようございます^^
ご訪問ありがとうございました♪
> 仕事をする上で、そのレベルや大小には違いがあるにせよ、「自分が心底正しいと思うこと」と「仕事の上で会社や関係者から求められること」のギャップというのは必ずあります<
深く頷きました^^
by mimimomo (2016-12-12 06:07) 

hm

mimomimoさん
 ようこそお越し下さいました。
 コメント頂きありがとうございます!
 そんな風な悩みがあって当然で、誰でもそうで…という人の姿をしっかり描いてあって、深みのある小説でした。
by hm (2016-12-12 17:55) 

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