SSブログ

ロースクール生以外にも司法試験開放を!~法科大学院問題 [弁護士業について]

 これは実に酷い話。

 法科大学院、いわゆるロースクールですが、これが酷いことになっています。

 以下に引用する朝日ニュースの通りです。

(ニュース引用)

法科大学院14校に「イエローカード」 大幅改善求める  2010年1月22日3時4分


 法科大学院のあり方について議論している中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)法科大学院特別委員会が、全74校のうち、14校について、教育内容や学生の質の確保などで問題があり、大幅な改善が必要な「重点校」とする調査結果をまとめたことが分かった。その他の12校も、継続的に改善の努力が必要な「継続校」とした。

 文科省は、名指しされた大学院に対し、強く改善を求めるとともに、今後、その達成度によって補助金に差をつけるなどし、大学院の再編・統合を促していく方針だ。

 調査結果は22日の特別委で報告される。調査は特別委の委員による作業グループが昨春から開始。74校のうち、入試や成績評価など学生の質の確保で課題がある40校に聞き取りを行い、さらに、うち26校には授業見学などの実地調査もした。第三者機関による認証評価も行われているが、今回の調査は、法科大学院の「通信簿」とも言える内容で、司法試験の合否状況や教育の質に絞って、「下位校」に危機感を持つよう促した。

 事実上の「イエローカード」を受けた形の「重点校」への委員の所見には「学生を自ら責任を持って教育する意識が希薄」「入学者選抜が機能していない」など厳しい言葉が並んだ。いずれも、今年度入試の倍率は2倍以下、昨年の司法試験合格率も10%程度の大学院だった。

 重点校と評価された大学院について、文科省幹部は「社会から求められる法科大学院の役割を果たしていないところが少なからずある。そういうところには決断していただくのも仕方ない」として、統合などを促す指導を強める考えを示した。

 法科大学院は、乱立による過剰な定員が質の低下を招いたと指摘されている。修了者の司法試験合格率は初年の2006年の48.3%から年々下がり、昨年は27.6%にとどまった。特別委は昨春、入試倍率が低く、司法試験の結果が低迷する大学院に定員削減や「抜本的見直し」を求める提言をまとめている。調査はその提言を受けて行われた。(石川智也、見市紀世子)

     ◇

【大幅な改善が必要な大学院(14校)】静岡、香川、鹿児島、東北学院、大東文化、東海、東洋、日本、愛知学院、京都産業、大阪学院、神戸学院、姫路独協、久留米

【改善努力の継続が必要な大学院(12校)】信州、島根、琉球、白鴎、独協、駿河台、国学院、神奈川、関東学院、桐蔭横浜、龍谷、近畿

                                                        (引用終り)



 文部科学省は法科大学院に改善を要求したりしているわけですが、朝日の記者さんがまとめておられるように「乱立による過剰な定員が質の低下を招いた」というのは本当の話。

 「乱立による過剰な定員」というのは、文部科学省が、制度開始当初に、たくさんの大学にロースクール設置を認可しすぎたことによるもの。

 つまり、「乱立」「過剰な定員」を生んだのは国の責任。
 それを今、国が、各ロースクールに、教育内容が悪いというようなことを言って改善要求をしている。けれども、私が思うには、教育内容が悪いというより、各ロースクールが無理を強いられているとしか思えない。
 結局、学生(院生)が司法試験に合格しなければロースクールは志願者もいなくなるわけで成り立たないのだから、もともと合格率の低い法科大学院ほど、やむをえず「受験教育」をしなければならない立場に追いやられる。ところが、建前では、「ロースクールでは受験テクニックの指導はしない」ということになっている。なのに、「合格率」低迷すれば廃校の危機になる。
 今のロースクールからしてみれば、「どないせえっちゅうねん!?」という状態である。

 さて、ロースクール生の司法試験合格率が「低迷」とニュースで言われる。
 これも、明らかに、制度設計における「算数」の部分の失政であって、

合格率 = 合格者数  ÷  受験者数

であって、このうち「受験者数」が多すぎるから、合格率「低迷」は当たり前のことである。合格者数が仮に今「3000人」(小泉時代に決められた政府の増員目標数)になっていても、合格率「低迷」状態には違いない。

 
 そしていよいよここからが述べたいこと。
 ロースクール問題で私が一番問題だと思うのは、司法試験の受験資格の問題。原則として、

・ ロースクール卒業が条件。

・ 卒業後3回しか受けられない(回数制限、俗に「三振」制度)。

という条件がつけられている。(いちおう、昔の司法試験受験組のために、経過措置として、細いルートである「『現行』司法試験」なるものがまだ残されてはいるが、いずれなくなる。)

 これはおかしい。
 法律家になるための勉強をしていて、仮に1年目でも10年選手であってもかまわない、力があれば受験して合格して法律家になってもらうのが、みんなのためではないか。

 つまり、司法試験受験資格は、

・ 志がある人

として、ロースクールの卒業の有無や回数にかかわらず無制限にすべきだと考える。


 「そんなことしたらロースクールにいかず試験を受ける人ばかりになる。ロースクールがつぶれるのでダメ。」と言う人がいる。弁護士会もそういう。
 でも、もしそうなら、そんな過保護に守ってやらなければ成立しないようなロースクール自体いらない。


 元々、「ロースクール制度を導入して、『プロセス重視』の法律家教育をするべき」という理念があって、「だからロースクール制度を守るために、司法試験受験資格をロースクール卒業生に限る」原則にした、というのがロースクール制度導入の考え方だ。
 でも、私はこの点に大反対である。
 第1に、『プロセス重視』なんてのは、そもそもうさんくさい。一定時間一定の授業を受ければ力がつく、なんてわけないのことは誰も自分の経験から知っているはず。力がつくかどうかは、要は自分が集中して勉強するかどうか。
 第2に、『プロセス重視』なんて文脈では、大抵、「あるべき成長のプロセス」みたいなものを誰かが考えて、その型にはめて「教育」するという方向性になる。しかし、そんなものは余計なお世話。法律家としての力をつける「プロセス」などは、みんなちがってみんないい。どんな「プロセス」をたどろうと、いや、むしろ「プロセス」自体を自分なりに見つけて目的に到達する力のほうが大切。
 第3に『プロセス重視』なんてものは、制度によって押しつけられるものではない。野村元阪神(楽天、ヤクルト)監督も「プロセス重視」を言っていたが、それは、個人個人が目的達成のためのプロセスを自分なりに大切にしてゆけ、という意味であって、一定のマニュアルに従えみたいな話しではない。


 であるからして、

・ 「私はロースクールで、決められたカリキュラムなるもので、決められた期間、色々課題を出されたりしながらやって、力をつけて、司法試験に合格します。」という人は、ロースクールを経て受験すればよいし、

・ 「俺はロースクールなんてかったるくてやってらんねえ。だが、根性だけは負けねえぜ。一人でも猛勉強して、司法試験に合格してやるぜ。」という人は、独学で受験すればよい

のであり、後者の側にも魅力的で有能な人物がいっぱいいそうであるから、どっちのプロセスでも、「要は試験に合格すればよい。」という制度にすべきである。
 試験制度としてはこれは全くポピュラーなやり方である。
 例えば、運転免許も、教習所に行ってとるのが多数派だが、一発試験で取ってもよい。また、囲碁のプロ棋士になる場合も、日本棋院の場合は、院生として棋院で修行してプロ試験を受ける人と、院生ではないけれど外部から試験を受けに来る人がいて、どちらも所定の成績をあげれば合格できる(マンガ「ヒカルの碁」参照)。
要は、必要な素養が備わっておれば合格するのであって、極めて、簡明かつ公平な仕組みである。
 

 さらにいえば、現在の司法試験の「三振制度」は問題外。3回試験に落ちたからって、勝手に夢をあきらめさせるな!と言いたい。これは単なる不合理な差別だろう。

 
 さて、私のこんな考えは、

「それじゃ、結局、試験に強い、「点取り虫くん」(古い!?)が合格するだけじゃないの!?」

という批判を受けるかもしれない。
 しかし、この批判は全く的外れ。
 今の制度だって、結局、試験は試験。最終的に「点取り虫くん」でなければ合格しないことに変わりはない。
 そこに「ロースクール卒業」「受験3回以内」という縛りがあるだけ。

 
 もちろん、私の上記の意見は、私の元々持っている性分、すなわち、

「『試験』くらいならまあ何とかなるが、『授業』と名のつくものはおよそ拷問だ、絶対受けたくねえ、眠らずに『授業』を受けられる人間は『聖人君子』としか思えねえ、机の上にじーっと座って人の話を聞いているなんてこと耐えられるのが信じられねえ。『高校生のころに戻りたい』とか言う人がいるが信じられねえ、『授業』がないだけ大人はパラダイスだ。」

という個人的性格・性向(授業が嫌い、落ち着きがない、授業中すぐ寝る、落書きする、詩を書く、絵を描く)と無関係ではない。いや密接に結びついている。
 だから、「何が正しいか」という視点で書いているというより、私の好き嫌いに基づく意見である、と認めよう。

 だが、言わせて欲しい。

 「じーっとおとなしく授業を長時間聴く」ことに適した能力がない分、何かで補わなければならない、ということは私も昔から判っていた。
 だからこそ、「やるときはやる!」「自分でやる!」ということを人一倍強く思ってきたつもりだ(その時どき、本当にできたかどうかは別)。

 そもそも、弁護士は、他の人と一緒に横並びで「おとなしく良い子」にしておれば良い職業だろうか!?つまり、「授業をみんなと一緒におとなしく聞く」子でよいか?いや、授業もちゃんと受けられるに越したことはないが、それだけでよいか?そうではないはずだ。

 ときには、世間の多数人に白い目で見られても、少数者の人権を守らなければならないときもある。そんな仕事は、とても「良い子ちゃん」気質では勤まらない。「9割の人が右を向けば敢えて俺は左を向く」くらいの性格でなければ勤まらない(これは私も、努めてそうなろうと思っているが、なかなかなりきれないくらいのことだ)。
 
 先輩弁護士も、世の中を動かすような良い裁判例を作ってきた人たちほど、型におさまらない、机と椅子の間にもおさまらないような、変わった人が多いように思う。 「俺は『はぐれ者』だが、やるときはやる!」の根性こそが、弁護士魂、在野法曹としての魂なのではないか?

 だから、言いたい。
 法科大学院がおかしいというよりは、今の「新」司法試験がおかしい。

 
 唯一の受験資格を「志のある者」として、「大学出てさらに何年も学校なんて行ってられないが、やるときはやったろうじゃん」魂のある力を持った者に途を拓くべきである。(念のためいえば、ロースクール組はもちろんそれはそれで法科大学院生活で力をつけてもらえばそれはそれで結構。)


 ただ、フォローのために一言(もう遅い?)。
 学生、生徒、児童のみなさん、私のこの文章を読んでも、ヘンに影響されずに、ちゃんと授業に出席はしてください。できるだけ、授業を聴くよう努めましょう。
 私もたまにでありますが、ちゃんと授業を聴いていた瞬間もあって、そのとき、聞こえてきた先生の言葉には、とてもためになる話があったように思います。
 だから、全部ちゃんと聴いていれば、さぞやためになっただろうなあ、と大人になった今は思います。(でも、やっぱり、今から昔に戻っても、居眠りしちゃうのは変わらないだろうな。三つ子の魂百まで、とはこのことです。)
 


nice!(1)  コメント(4)  トラックバック(0) 

nice! 1

コメント 4

小父蔵

>唯一の受験資格を「志のある者」として…

 受験資格に、学歴による縛りは不要と思います。良い学校に行きさえすれば合格できるような、やさしい試験ではないはずですから。
by 小父蔵 (2010-02-01 15:18) 

hm

 小父蔵さん

 ナイス・コメントありがとうございます。
 学歴問わず、実力一発勝負!というところに、昔の司法試験のある意味での魅力がありました。
 全て過去に戻せというわけではありませんが、おかしな縛りは仰るとおり不必要であると思います。
by hm (2010-02-01 16:27) 

ぽこ

過去の司法試験が学歴不問でかつ、現在・将来の司法試験に学歴要件があるというのは誤謬です。
旧司法試験は、大学の教養課程を修了しない限り、一次試験(教養試験)から受験する必要があり、低学歴は明らかに不利益を被ります。
一次試験の合格率は10%未満です。教養課程は2年で修了できるので、合格率10%未満の試験を受けるより大学へ進学した方が有利なので、
旧司法試験においても実質的に大学への進学が必要とされていました。高校を卒業していない人は、大検を取得すれば大学へ進学でき、
大検は学歴ではなく資格であり、教養課程を修了して中退すれば、中退は学歴ではないので、学歴不問かも知れませんが、
合格率5%の一次試験に合格するか、大学への進学が条件とされてきた旧司法試験では、低学歴が明らかに不利益を被ってきたのです。
また、旧司法試験が廃止されたら、合格すれば新司法試験の受験資格が与えられる予備試験が開始します。
予備試験は一次試験のような教養試験ではなく、教養科目の配点の低く、法律科目の配点が高い試験です。
一次試験を免除される教養課程修了者の大部分が合格できないような難易度で法律と無関係な教養試験たる一次試験より、
法律科目の配点が高く、本試験にも予備試験で培った知識を生かせる予備試験の方が不利益を被る程度は低いでしょう。

旧司法試験の合格率(平成17年)
一次試験から:0.085%(0.023 * 0.0371 * 100)
二次試験から:3.71%
http://www.moj.go.jp/SHIKEN/17-1.html
http://www.moj.go.jp/PRESS/071108-1/19syutu-gou.html

これが差別じゃないんでしょうか。誤算ではないはずです。確かめてください。
他の弁護士にも、旧司法試験に学歴差別はなかった、平等だった、と主張している方が散見されますんで、
もしかしたらこの書き込みを転載するかも知れません。
by ぽこ (2010-03-12 15:01) 

hm

>ぽこさん

>過去の司法試験が学歴不問でかつ、現在・将来の司法試験に学歴要件があるというのは誤謬です。

 おっしゃるとおりです。
 私も、旧試験ですが、大学の語学の単位が取れるか取れないか非常に微妙で、危うく、試験を受けられないところでした。大変迷惑被りました。

 私も、旧司法試験のような要件もいらない!と思っています。
 さらに言えば、予備試験もいらない!と思っています。

 要は、本試験オンリーで通ればOK、というのが一番簡明で公平だと思います!!
by hm (2010-03-12 15:58) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。