18歳、19歳は、大人か子どもか分からない、でよいのではないか。 [弁護士業について]
少し遅くなりましたが、新成人の皆様おめでとうございます。
さて、今日は、成年年齢引き下げの話題です。
自分が国の政治に参加する主役だと自覚してもらう意味で、選挙権を18歳から認める等の「成年年齢引き下げ」については、私は反対ではありません。
酒・タバコについても20歳に合理的根拠があるわけではなく、18歳であっても別に構わないと思います。
ただし、一連の「成年年齢引き下げ」の中で要注意なのは、民法の「成年年齢引き下げ」です。
現在、民法では、このように定められています。
(成年)
第四条 年齢二十歳をもって、成年とする。
(未成年者の法律行為)
第五条 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
3 第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。
第5条にでてくる「法律行為」とは、たとえば、売買契約やローン契約などをすることを広く含みます。
つまり、現在の民法によれば、(日常の小さなものは別として)高価な買い物やローン契約を18歳や19歳の人が行っても、基本的には、後から取り消せる、ということになっています。
そして、このことはそれなりに役に立っています。
しかし、今のままでは、この第4条にある「20歳」が「18歳」に改められる流れになっています。本当にいいのでしょうか?
たとえば、「デート商法」はどうでしょう?
仮にこんなことがあったらどうでしょう?
今ではどこへ行っても黄色い声が上がるモテモテの私でも、19歳のときなどは、とても多感な時期ですが、彼女もおらず長いこと女性と話をする機会もなかったとしましょう(←この仮定すべて現実とは異なりますが)。
もしそんな19歳のある日に、私に対して「気がある」かのような素振りで迫ってくる美女がおったならどうだったでしょう?
その美女が、毛皮のコートの展示会に私を誘い、「ひできくんにはこの羊さんのコートがとってもお似合いよ。」「この羊さんを着ているひできくんと街を腕を組んで歩きたいわ。」「良いものを身につけていると、中身も自然と男前になっていくものなのよ。」云々かんぬんと長時間にわたって執拗にコートの購入を勧誘したらどうだったでしょうか。
うっかり、お金もないのに、ウン十万円ものローンを組んで羊さんのコートの売買契約を締結してしまった、ということが考えられなくはないでしょう。
そして、契約したとたん、美女には連絡が取れなくなってしまったり…
このお話しの後日談、今の民法(20年成年)を前提にすればこうなります。
【後日談1 現行法(20年成年)】
落胆したひできくん、トホホな気持ちでしばらくは月数万円のローンを、一生懸命バイトして払うが、あるとき、
「こんなことやっとれん!何じゃあの美女は!騙されたやんけ!」
と思い立ち、インターネットで色々調べて、市の消費生活センター(市によっては「生活創造センター」等の名称の場合もあります)に電話をします。
ひできくんは、消費生活センターに電話をし、相談員さんに、美女との出会いから契約締結に至るまで、また、後日騙されたらしいことに気づいたことなどを話しました。
相談員さんは、
「ところで君いくつ?」
と聞くので、
「19歳です。」
と答えると、
「それならば、未成年者であることを理由として契約を取り消すことが考えられます。一度センターに書類を持って来て下さい。」
と返ってきて、
「そうなんですか!いけますか!これからのローン支払を止められるかも知れないんですか、それはよかった。是非伺います。」
となり、ひできくんは消費生活センターへ行きます。
消費生活センターで話を聞いてもらった後、相談員さんが、販売業者とローン業者に電話してくれ、「ひできくんが19歳であって親の同意を得ていないこと」を告げ、また販売業者も親の同意を直接確認していないことを認め、「ひできくんが現在では契約を取り消したいという意思を持っている」ことを告げたところ、販売業者は取消に応じ、ローン業者には以後のローン支払をしなくて済むことになりました。
めでたし、めでたし。 (終)
しかし、成年年齢引き下げで18歳になっておれば、違った展開かも。
【後日談2 民法改正後18歳成年の場合】
落胆したひできくん、トホホな気持ちでしばらくは月数万円のローンを、一生懸命バイトして払うが、あるとき、
「こんなことやっとれん!何じゃあの美女は!騙されたやんけ!」
と思い立ち、インターネットで色々調べて、市の消費生活センター(市によっては「生活創造センター」等の名称の場合もあります)に電話をします。
ひできくんは、消費生活センターに電話をし、相談員さんに、美女との出会いから契約締結に至るまで、また、後日騙されたらしいことに気づいたことなどを話しました。
相談員さんは、
「ところで君いくつ?」
と聞くので、
「19歳です。」
と答えると、
「そうですか。昔の民法だったら、未成年者であることを理由として契約を取り消すことが考えられたんだけどねえ。とにかく、書類を見てみないとクーリングオフその他のことができるかどうか分からないねえ。一度センターに書類を持って来て下さい。」
と返ってきました。
ひできくんは、「微妙だなあ、ダメなのかなあ」とまた暗い気持ちになりましたが、とりあえず市の消費生活センターに行ってみることにしました。
相談員さんは、契約書類を見て不備があるのではないかと考えクーリングオフをする、ということで業者に電話をしてくれましたが、業者は「不備はない。クーリングオフには応じられない」の一点張り。
こうなると相談員さんとしても、「契約をなかったことにするには裁判でたたかうしかない」ということで、弁護士会の法律相談を紹介してくれました。
が、これからどうなることか、ややこしいことだなあ…となかなか気分の晴れないひできくんでした。
(終)
ということで、18歳19歳の人の未熟さや判断の不安定さにつけこんだ悪質商法というのは世の中に結構存在します。
そして、20歳未満は契約を取り消せる、という今の民法はそれなりにかなり役立っています。
大学全入時代といわれて長いですが、今の世の中は昔よりもっと「一人前」として成熟するのに時間がかかるようになっています。(もっと広い視野でいえば、動物の進化のなかで、人類はどんどん成熟するのに時間がかかるようになっていく傾向にあります。視野広すぎですが。)
民主主義の担い手としての「選挙権」というものは、それを行使しながら勉強する、という側面があるので、18歳に引き下げるのも一つの利点があります。
しかし、法的に完全な責任を自分一人が負わされる意味での、民法の成年年齢を18歳に引き下げるのは、社会の実態に合っていないと思います。
今のように、18歳、19歳は一見もう大人のように振るまってもとやかく言われない、しかし、思慮が足りず何かをしでかしてしまったときに救済されるような社会の仕組みというのは悪くない、と思います。
大人か子どもかよく分からない、ということでよいのではないか、そのなかで一人前の大人になっていくのを焦らず見守る社会が良いのではないか、と思います。
ということで、民法の成年年齢引き下げには、日弁連も「慎重に」という意見を出しています。 http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/report/081021.html
とにかく、民法の「成年年齢引き下げ」は要注意です。
少なくとも、「成年年齢引き下げ」をするのならば、18歳19歳の人に対する消費者被害を防ぐ法整備を同時にきちっとやらなければダメです。そういう心配がなくなってはじめて引き下げを検討できる話です。
これは問題だと感じた方は、法務省が意見を募集しています(1月末まで)ので下記のサイトをごらんになって、意見があればぜひ積極的に出して下さい。
http://search.e-gov.go.jp:80/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1010&BID=300080048&OBJCD=&GROUP
私も次のような意見を出しました。
(意見メール)
当職は、兵庫県弁護士会所属の弁護士です。
民法改正作業に関して、成年年齢の引き下げ(すなわち行為能力を18歳で認めること)に反対します。
消費者被害案件について、多数の悪質商法案件が、若年の知識・経験の不足に乗じてもたらされている現状があります。また、デート商法などは、18歳、19歳くらいの多感な若者が特にひっかかりやすい商法でもあります。
これらの被害案件について、未成年者であることによる取消という手段は極めて有効な手段であるのが現状です。
国民生活センターや各自治体の消費生活センター等の相談員による被害者救済にも、未成年者を理由とする取消手段が現在存在することは有効に機能しています。
このような被害者救済手段をなくしてしまう、民法の成年年齢引き下げに反対します。
当職は、選挙権や酒・タバコの合法違法の線引き等については、18歳にすることが検討されることに必ずしも反対ではありませんが、民法の行為能力を決める成年年齢について18歳とすることについて反対します。
弁護士 村上英樹
さて、今日は、成年年齢引き下げの話題です。
自分が国の政治に参加する主役だと自覚してもらう意味で、選挙権を18歳から認める等の「成年年齢引き下げ」については、私は反対ではありません。
酒・タバコについても20歳に合理的根拠があるわけではなく、18歳であっても別に構わないと思います。
ただし、一連の「成年年齢引き下げ」の中で要注意なのは、民法の「成年年齢引き下げ」です。
現在、民法では、このように定められています。
(成年)
第四条 年齢二十歳をもって、成年とする。
(未成年者の法律行為)
第五条 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
3 第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。
第5条にでてくる「法律行為」とは、たとえば、売買契約やローン契約などをすることを広く含みます。
つまり、現在の民法によれば、(日常の小さなものは別として)高価な買い物やローン契約を18歳や19歳の人が行っても、基本的には、後から取り消せる、ということになっています。
そして、このことはそれなりに役に立っています。
しかし、今のままでは、この第4条にある「20歳」が「18歳」に改められる流れになっています。本当にいいのでしょうか?
たとえば、「デート商法」はどうでしょう?
仮にこんなことがあったらどうでしょう?
今ではどこへ行っても黄色い声が上がるモテモテの私でも、19歳のときなどは、とても多感な時期ですが、彼女もおらず長いこと女性と話をする機会もなかったとしましょう(←この仮定すべて現実とは異なりますが)。
もしそんな19歳のある日に、私に対して「気がある」かのような素振りで迫ってくる美女がおったならどうだったでしょう?
その美女が、毛皮のコートの展示会に私を誘い、「ひできくんにはこの羊さんのコートがとってもお似合いよ。」「この羊さんを着ているひできくんと街を腕を組んで歩きたいわ。」「良いものを身につけていると、中身も自然と男前になっていくものなのよ。」云々かんぬんと長時間にわたって執拗にコートの購入を勧誘したらどうだったでしょうか。
うっかり、お金もないのに、ウン十万円ものローンを組んで羊さんのコートの売買契約を締結してしまった、ということが考えられなくはないでしょう。
そして、契約したとたん、美女には連絡が取れなくなってしまったり…
このお話しの後日談、今の民法(20年成年)を前提にすればこうなります。
【後日談1 現行法(20年成年)】
落胆したひできくん、トホホな気持ちでしばらくは月数万円のローンを、一生懸命バイトして払うが、あるとき、
「こんなことやっとれん!何じゃあの美女は!騙されたやんけ!」
と思い立ち、インターネットで色々調べて、市の消費生活センター(市によっては「生活創造センター」等の名称の場合もあります)に電話をします。
ひできくんは、消費生活センターに電話をし、相談員さんに、美女との出会いから契約締結に至るまで、また、後日騙されたらしいことに気づいたことなどを話しました。
相談員さんは、
「ところで君いくつ?」
と聞くので、
「19歳です。」
と答えると、
「それならば、未成年者であることを理由として契約を取り消すことが考えられます。一度センターに書類を持って来て下さい。」
と返ってきて、
「そうなんですか!いけますか!これからのローン支払を止められるかも知れないんですか、それはよかった。是非伺います。」
となり、ひできくんは消費生活センターへ行きます。
消費生活センターで話を聞いてもらった後、相談員さんが、販売業者とローン業者に電話してくれ、「ひできくんが19歳であって親の同意を得ていないこと」を告げ、また販売業者も親の同意を直接確認していないことを認め、「ひできくんが現在では契約を取り消したいという意思を持っている」ことを告げたところ、販売業者は取消に応じ、ローン業者には以後のローン支払をしなくて済むことになりました。
めでたし、めでたし。 (終)
しかし、成年年齢引き下げで18歳になっておれば、違った展開かも。
【後日談2 民法改正後18歳成年の場合】
落胆したひできくん、トホホな気持ちでしばらくは月数万円のローンを、一生懸命バイトして払うが、あるとき、
「こんなことやっとれん!何じゃあの美女は!騙されたやんけ!」
と思い立ち、インターネットで色々調べて、市の消費生活センター(市によっては「生活創造センター」等の名称の場合もあります)に電話をします。
ひできくんは、消費生活センターに電話をし、相談員さんに、美女との出会いから契約締結に至るまで、また、後日騙されたらしいことに気づいたことなどを話しました。
相談員さんは、
「ところで君いくつ?」
と聞くので、
「19歳です。」
と答えると、
「そうですか。昔の民法だったら、未成年者であることを理由として契約を取り消すことが考えられたんだけどねえ。とにかく、書類を見てみないとクーリングオフその他のことができるかどうか分からないねえ。一度センターに書類を持って来て下さい。」
と返ってきました。
ひできくんは、「微妙だなあ、ダメなのかなあ」とまた暗い気持ちになりましたが、とりあえず市の消費生活センターに行ってみることにしました。
相談員さんは、契約書類を見て不備があるのではないかと考えクーリングオフをする、ということで業者に電話をしてくれましたが、業者は「不備はない。クーリングオフには応じられない」の一点張り。
こうなると相談員さんとしても、「契約をなかったことにするには裁判でたたかうしかない」ということで、弁護士会の法律相談を紹介してくれました。
が、これからどうなることか、ややこしいことだなあ…となかなか気分の晴れないひできくんでした。
(終)
ということで、18歳19歳の人の未熟さや判断の不安定さにつけこんだ悪質商法というのは世の中に結構存在します。
そして、20歳未満は契約を取り消せる、という今の民法はそれなりにかなり役立っています。
大学全入時代といわれて長いですが、今の世の中は昔よりもっと「一人前」として成熟するのに時間がかかるようになっています。(もっと広い視野でいえば、動物の進化のなかで、人類はどんどん成熟するのに時間がかかるようになっていく傾向にあります。視野広すぎですが。)
民主主義の担い手としての「選挙権」というものは、それを行使しながら勉強する、という側面があるので、18歳に引き下げるのも一つの利点があります。
しかし、法的に完全な責任を自分一人が負わされる意味での、民法の成年年齢を18歳に引き下げるのは、社会の実態に合っていないと思います。
今のように、18歳、19歳は一見もう大人のように振るまってもとやかく言われない、しかし、思慮が足りず何かをしでかしてしまったときに救済されるような社会の仕組みというのは悪くない、と思います。
大人か子どもかよく分からない、ということでよいのではないか、そのなかで一人前の大人になっていくのを焦らず見守る社会が良いのではないか、と思います。
ということで、民法の成年年齢引き下げには、日弁連も「慎重に」という意見を出しています。 http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/report/081021.html
とにかく、民法の「成年年齢引き下げ」は要注意です。
少なくとも、「成年年齢引き下げ」をするのならば、18歳19歳の人に対する消費者被害を防ぐ法整備を同時にきちっとやらなければダメです。そういう心配がなくなってはじめて引き下げを検討できる話です。
これは問題だと感じた方は、法務省が意見を募集しています(1月末まで)ので下記のサイトをごらんになって、意見があればぜひ積極的に出して下さい。
http://search.e-gov.go.jp:80/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1010&BID=300080048&OBJCD=&GROUP
私も次のような意見を出しました。
(意見メール)
当職は、兵庫県弁護士会所属の弁護士です。
民法改正作業に関して、成年年齢の引き下げ(すなわち行為能力を18歳で認めること)に反対します。
消費者被害案件について、多数の悪質商法案件が、若年の知識・経験の不足に乗じてもたらされている現状があります。また、デート商法などは、18歳、19歳くらいの多感な若者が特にひっかかりやすい商法でもあります。
これらの被害案件について、未成年者であることによる取消という手段は極めて有効な手段であるのが現状です。
国民生活センターや各自治体の消費生活センター等の相談員による被害者救済にも、未成年者を理由とする取消手段が現在存在することは有効に機能しています。
このような被害者救済手段をなくしてしまう、民法の成年年齢引き下げに反対します。
当職は、選挙権や酒・タバコの合法違法の線引き等については、18歳にすることが検討されることに必ずしも反対ではありませんが、民法の行為能力を決める成年年齢について18歳とすることについて反対します。
弁護士 村上英樹
2009-01-21 10:41
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コメント(4)
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酒タバコOKの年齢と成人年齢は一致してなくても構わないでしょ。現にそういう国はいっぱいあるし。
私も成人年齢の引き下げにはものすげー不安があります。
理由ですか?
この世には若者を単なる食い物としか考えていない悪い非若者がゴマンといるからです。未成年だって単なる性欲のエジキにされちまうんですから。
by shira (2009-01-21 21:03)
shiraさん
ナイス・コメントありがとうございます。
おっしゃるとおりです。
>この世には若者を単なる食い物としか考えていない悪い非若者がゴマンといる
この現実認識無しに、早期に「自立」という名目で「自己責任」を負わせてしまうのは極めて危ないことだと思います。
by hm (2009-01-26 10:25)
20こえたら大人ともおもえないような・・・。(苦笑)
でも指摘された問題起こりえますよね。
大人にもデート商法?被害の緩和措置できたらなあ~とも思えます。
by ayu15 (2009-02-26 12:46)
あゆさん
コメントありがとうございます。
おっしゃるとおり、現代のほうが、昔より、成熟するのに時間がかかります。
何せ、相手の無知などにつけこむ悪質商法の被害をなくすこと、救済することについて色んな方法がもっとあれば、ですよね。
by hm (2009-02-26 17:05)